三菱電機の企業広告が8月29日から9月7日までの連続10日間、朝日新聞の紙面を飾った。「NIPPON Technology」と銘打った全5段のこのシリーズ広告では、人工衛星に代表される宇宙事業、半導体技術、交通システムなど、同社が最も力を入れる10の事業を取り上げた。
創業100年に向けたスローガンを 重点施策である10事業とともにアピール
同社は今年、創業90周年を迎え、100周年に向けた全社スローガン「豊かな社会構築に貢献する『グローバル環境先進企業』」を打ち出した。「今回のシリーズ広告では、そのスローガンを広く周知したいと考えました」と、宣伝部コーポレートコミュニケーショングループ専任の橋詰透氏。「多岐にわたる当社の事業を、一度に伝えるのは難しい。当社が成長戦略として位置付ける9事業を中心に全10事業を選び、一つずつスポットを当てることで、それぞれの事業についての理解を深めてもらうとともに、10回を通してみると総合的に理解していただけるような構成にしました」と、シリーズ展開の理由を説明する。
今回、一般紙である朝日新聞に掲載した経緯について、「『豊かな社会構築に貢献する『グローバル環境先進企業』のメッセージを、広く世間一般の皆さまにお伝えしたいと考えた」と橋詰氏。「消費者にアンケートを行うと、当社は『エアコン、家電、エレベーター』といった印象を持っている人がほとんどを占めます。しかし、それらは三菱電機の事業のごく一部であり、実は社会の様々な基盤を裏側から支えている最先端の技術力を誇る企業の一つだという実態を知っていただきたかった。一つひとつの事業を詳しく理解してもらうというよりは、色々な事業を展開している、ということを知っていただくきっかけになればと考えました」と話す。
「NIPPON Technology」という共通タイトルのもと、日替わりで事業を紹介。「実は、弊社が90周年を迎えたとき朝日新聞に広告を出稿しましたが()、『日本の技術力を実感した』『日本はまだ世界で頑張れる』など、『日本』というキーワードでの感想の声が多く寄せられたのです。折しも東日本大震災を受け、自国の技術力への誇りのようなものを改めて感じているといった風潮もあり、今回は『NIPPON』という言葉を意識して使いました」と橋詰氏は振り返る。
紙面をめくる手を思わず止める、黄色が効いたクリエーティブも印象的だ。「黄色は、当社の広告としては珍しい上に、一般的な新聞広告でもあまりない色使い。しっかりと目に留めてもらいたいという期待を込めて採用しました」と橋詰氏。
掲載広告をまとめた冊子が好評 シリーズ広告の累積効果への期待も
反響は上々で、読者からは「元気づけられた」といった声や、「三菱電機がこんなことまでやっていたとは驚いた」といった感想が寄せられた。また、社内からの反響、社員への効果も予想以上だったという。
「当社は手掛ける事業が多岐にわたるため、自分が携わっている部門以外の事業については、実はあまりよく知らない、という社員も少なくありません。こうした広告が一般紙に掲載されることで、『自分たちはこんな企業で働いている』と再確認でき、モチベーションが上がるというインナー効果もありました」
同社のコミュニケーションの方針の一つに「1ソースマルチユース」がある。今回の10回のシリーズ広告も冊子にまとめて2次利用した。10月に行われたアジア最大級の最先端IT、エレクトロニクス総合展「CEATEC JAPAN」でも配布したところ、あっという間に予定部数を配りきってしまったという。
「新しいスローガンに即した形で、当社がどの事業に力を入れているのかをビジュアルとともに分かりやすくまとめた資料を作るのは、今回が初めてです。投資家へ情報を発信するIR部門、マスコミ対応をする広報部門、学生の採用を担当する人事といった部署から、三菱電機の総合力をアピールできる、と高い評価でした」と橋詰氏。
メディアが多様化する中、新聞広告を活用することについて橋詰氏はこう語る。「新聞は信頼性のメディア。ここに広告を掲載することで、広告でも信頼性を醸成することができます。当社が伝えたいメッセージや先進性を理解してもらいながら、技術や企業そのものへの信頼を訴求できる媒体だと位置づけています」
今後のコミュニケーションについて聞いた。
「限られた予算の中で、いかに効率よくピンポイントでターゲットに訴求するか。これまでも常に考えてきたことですが、様々な調査、効果測定を重ねながら、次の企画に生かしていくことが大きな課題です」と橋詰氏。これまで全15段の出稿が多かった同社にとって、全5段×10日のシリーズ広告は、これまでの手法との比較のチャンスでもあったという。
「正直、その答えはまだ得ていません。しかし、読者から『毎回楽しみに読んだ』という声が寄せられるなど、シリーズ広告による累積効果は期待できるのではないかと感じています。どのくらい続けると認知や理解が深まるのか。さらなる検討を重ねていきたい」と橋詰氏。
最後にこう言葉を結んだ。
「今や強い影響力を持つようになったソーシャルメディアを使うべきなのか、使うのならば新聞広告などとどんな仕掛けでクロスメディアさせていくのかなど、状況を見極めながら効果的なコミュニケーションを展開していく考えです」