『SPUR』×GUCCI×荒木飛呂彦氏の夢のコラボが実現

 集英社の女性誌『SPUR』が、イタリア高級ブランドのグッチと、『ジョジョの奇妙な冒険』で知られるマンガ家荒木飛呂彦氏とのコラボレーションを企画。同誌10月号の別冊付録として、荒木氏が描き下ろした16ページオールカラーの読み切り短編「岸辺露伴 グッチへ行く」を発表し、発売当日8月23日の朝日新聞朝刊に全面広告を出稿した。

グッチ創設90周年、荒木飛呂彦氏画業30周年を祝う

 『SPUR』にとってグッチは、編集・広告両面を華やかに彩るブランドだ。荒木氏のマンガ『ジョジョの奇妙な冒険』は、マンガ雑誌『週刊少年ジャンプ』(1987~2004年)、『ウルトラジャンプ』(2005~現在)で長期連載中の人気コンテンツである。夢のコラボレーションが実現した背景について、広告部メディアプロモーション第2課 副課長の藤岡奈保氏は語る。

藤岡奈保氏 藤岡奈保氏

 「企画のスタートは1年前にさかのぼります。2011年にグッチが創設90周年を迎えるのに際し、『SPUR』でお祝いの特集を準備することになり、他誌がやらないような『SPUR』ならではの企画を編集部と模索していました。ちょうどその時、『ウルトラジャンプ』の担当者から、荒木先生が2011年に画業30周年を迎えるので、『SPUR』でそれをアピールする企画ができないかと持ちかけられたのです。

 すでに『ジョジョ』の第8部『ジョジョリオン』の連載開始や、新書『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』の出版、小説版『ジョジョの奇妙な冒険』の刊行が決まっていて、30周年記念企画をさらに盛り上げたいという話でした。『SPUR』としては願ってもない提案で、グッチのアニバーサリーと荒木氏のアニバーサリーを一緒にお祝いする方法を探れないかということになりました」

 同社の雑誌にとって欠くことのできないブランドとコンテンツだけに、双方にメリットのある企画にするというのが大前提だった。そうした中で注目したのは、グッチが90周年の節目に掲げた「伝統と革新」というテーマだ。グッチは、今年6月にバッグの歴史を振り返る特別展を京都の金閣寺で開くなど、伝統の職人技術を印象的にアピールする一方、気鋭のデザイナー、フリーダ・ジャンニーニによる革新的なコレクションを打ち出している。

 「集英社のマンガ文化は、世界に誇れる『伝統』であり、荒木先生は『革新』をもたらす作家さんで、グッチのテーマとの共通性を感じました。さらにトリビアを明かしますと、『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部に登場する岸辺露伴というキャラクターが、グッチの時計をしているんです。これは後日談ですが、荒木先生は『第4部の掲載から20年近く経ってグッチとのコラボが舞い込んできたのは、運命かもしれない』とおっしゃっていました。ちなみに、『露伴は荒木先生の分身』とよく言われていますが、荒木先生によれば、『あこがれのマンガ家』だそうです」

 企画を進めるにあたり、藤岡氏は、グッチ、荒木氏の双方に打診をした。グッチには、日本だけでなく本国イタリアにも荒木氏の作品を送った。「パリのルーブル美術館を題材にした作品で、ルーブルで原画展示も行った『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』なども送りました。すると、イタリア側もこの企画の面白さを十分に理解してくれて『SPUR MANGA PROJECT』と名付けて、惜しみない協力をしてくださいました」

 荒木氏には、16ページオールカラーの描き下ろしを打診し、快諾を得た。

 「あとで『ウルトラジャンプ』の担当者から、『荒木先生に16ページのフルカラーを描いていただくというのは、大変なことなんだよ』と言われました。結果的に、キャンペーンなどで使うキービジュアルと、『SPUR』10月号の表紙も追加で描いていただくことになり、荒木先生には本当に感謝しています」

 荒木氏は、ストーリーを組み立てるにあたり、百貨店のイベントで来日したグッチの職人を取材。グッチのプレスルームにも赴き、洋服の手触りや色彩を確認したという。

 ストーリーは、岸辺露伴が祖母の形見のバッグを携え、フィレンツェにあるグッチの工房へ向かうところから始まる。「ブランドを持ち上げて終わるのではなく、『ジョジョの奇妙な冒険』の世界観を生かした読み物にしたい」という荒木氏の意向が反映された作品は、荒木ファンも満足させるものとなった。登場人物のファッションは、グッチの今秋冬の新作だ。

 「最初、ファッションショーのランウェイの写真を荒木先生にお渡ししたところ、『キャラクターに動きがあるので、服の裏地やステッチの色まで知りたい』と言われました」

 荒木氏の描くマンガのキャラクターには、極端な体のひねりや手足の動きを加えた独特のポージングが頻出し、ファンの間では「ジョジョ立ち」として知られる。グッチの服を着たキャラクターたちも、それを披露している格好だ。完成した作品は、グッチのスタッフをうならせた。

 「グッチジャパンの方たちのみならず、イタリアからも『傑出した作品!』とたいへん興奮した様子の反応が返ってきました。また荒木先生は、掲載号に、『SPUR』のカバーイラストを担当できたことは絵描き冥利(みょうり)に尽きる、とコメントを寄せてくださいました。グッチ、荒木先生、『SPUR』編集部、読者、みんながハッピーになれた企画だったと思います」

新聞広告がネット上のバズの起点に

2011年8月23日付 朝刊 2011年8月23日付 朝刊

 新聞広告のクリエーティブからもこの企画に対する特別な思いは伝わってくる。

 「読み切り短編の中にあるビジュアルのうち、露伴がいかにも『ジョジョ立ち』をしている1点を展開することに決めました。整然とした紙面の中で、いい意味での違和感を与えられたと思います。またコピーに関してですが、イラストの力がとても強いので初めは不要かと思っていました。しかし『SPUR』がどんな思いでこのコラボ企画を実現させたかをきちんと示したいと考え直し、『世界に 美しい驚きを』というコピーになりました。クリエーティブを担当したデザイナーもコピーライターも大の『ジョジョ』ファンで、イラストの見せ方や前述のコピーなどかなりこだわって作ってくれました。雑誌の広告では通常表紙を入れますが、今回はあえて載せなかったのもその一つです」

 紙面をよく見ると、イラスト画面枠が斜めに傾いている。荒木氏の作品では、天地左右が非対称なコマ割りがしばしば見られ、その特徴をとらえたデザインだ。

 新聞広告を使っての展開を語るのは、宣伝部雑誌宣伝第2課の初瀬加代子氏。広告メディアとして新聞を選んだ理由については、目玉企画だったので、影響力のある新聞でいこうと当初から決めていました。『ジョジョ』は、マニア性の高い作品で、アウトドア広告などより新聞に絞って展開したほうが効果的だという考えもありました」

初瀬加代子氏 初瀬加代子氏

 同社は、過去にも『ONE PIECE(ワンピース)』や『銀魂(ぎんたま)』など、人気キャラクターを起用した新聞広告を展開し、話題化に成功している。反響の広がりに貢献しているのが、ソーシャルメディアだ。

 「今回も、ツイッターやフェイスブックなどのSNSを通じて一気に評判が広がりました。『ジョジョ』のファンはソーシャルメディアを駆使する世代が多く、その現象が顕著でした。ならば最初からネットのバナー広告を出せばいいという見方もあるかもしれませんが、同じ朝の時間帯に同じ情報を共有できる新聞だからこそ、見た人が一斉に『今朝の広告見た!?』とコミュニケーションできる。この波及効果は絶大です」

 朝日新聞朝刊に広告が掲載された時は、「紙面を撮影してブログなどにアップする人が大勢いて、コミュニケーションの起点として機能してくれました。また、新聞読者の中には、展開したキーワード『GUCCI』『JOJO』『SPUR』のうち、後ろの二つを知らない方もいます。しかし、『GUCCI』の認知度は高いので、そこにまず注目し、『JOJO』『SPUR』へと興味が広がっていく現象もあったと思います」と反響を振り返る。

 SNSへの書き込みからは、異色のコラボに対する驚きと称賛とともに、トリビアを知る「ジョジョ通」の心もしっかりつかんだことがうかがえる。企画の反響は、『SPUR』の売り上げにも反映され、発売から2週間で完売状態に。また、いくつかのファッションブランドから、「この企画はどういう経緯で実現したのか」という問い合わせもあったという。

 広告展開を振り返り、初瀬氏は、「雑誌読者との接点づくりは常なる課題。信頼性や社会性も含めて新聞メディアの説得力とリーチの幅を感じました。ただ、当社は他にも新聞広告を展開していますが、すべてが今回のようにいくわけではありません。爆発的な反響を得るためには、企画力が重要であることも改めて実感しました」と語る。

 なお、9月17日より10月6日まで、グッチ新宿で「岸辺露伴 グッチへ行く」原画展が開催される。コラボ企画の盛り上がりはもうしばらく続きそうだ。