企業理念「スモールギフト・ビッグスマイル」を、人と人とのつながりを見せる広告で訴求

 昨年、創業50周年を迎えたサンリオが、7月8日、朝日新聞紙上に「グリーティングカード」の全面広告を掲載した。同社にとって、グリーティングカードでの新聞への出稿は初めて。しかも、広告表現は、それまでの同社の広告とはイメージを大きく異にするものだった。

キャラクター事業とギフトビジネスは車の両輪

加藤 泰氏 加藤 泰氏

 1970年代生まれの「ハローキティ」「パティ&ジミー」から、今、大ヒット中の「ジュエルペット」まで、数々の人気キャラクターを生み出してきたサンリオ。そんな同社が掲載した広告は、キャラクターを大きく掲げた同社の広告に親しんできた読者にとっては、意表を突かれるものであったかもしれない。

 紙面中央には、満面の笑顔の仲良し2人組。1人が手にしたうちわ型のグリーティングカードにキャラクターが描かれてはいるものの、扱いはごく控えめだ。同社の辻信太郎社長が“天からの授かり物”と呼ぶ最強のキャラクター「ハローキティ」に至っては、カードに貼られたシールの絵柄としてごく小さく登場するというさりげなさ。キャラクターたちが持つ知名度や注目度の高さにはいっさい頼らないビジュアルである。

 「キャラクターを前面に打ち出していないという点では、サンリオがこれまで採ってきた表現の方向性とは異なっているかもしれない。でも、伝えたいメッセージは、創業以来追い続けてきたことと何ら変わるものではありません」と言うのは、同社メディア部次長の加藤泰氏。今回の広告表現は、昨年、50周年の節目を迎えたことを機に、原点を見つめなおす作業を通して至ったものであるという。

2011年7月8日付 朝刊 2011年7月8日付 朝刊

 原点に立ち戻ることで、見えてきたものは何か。加藤氏は言う。「サンリオという会社のひとつの大きな柱は、キャラクターを生み、育て、他社にお貸しするライセンス事業です。この事業は、50年間推進し続けた結果、グローバル化も進み、当社のトップいわく『ある程度完成形になってきている』。その一方で、創業以来のもう一つの柱であるギフトビジネス――ちょっとした贈り物で人と人との輪を育てていく仕事――は、まだ十分とは言えなかった。これから、もっともっと力を入れていく必要がある。“スモールギフト・ビッグスマイル”を企業理念に掲げる会社としては、この二つを車の両輪のように共に推し進めることが、大切な使命なのではないか」

 節目にあたってのこのような気づきを受けて、コミュニケーション戦略にも新たな方向性が開かれていった。キャラクターが存分にその力を発揮する広告をこれまで通り展開させつつ、人と人とのつながりを打ち出した広告も並行して走らせることになったのだ。今回のグリーティングカードを贈るワクワク感や受け取る喜びを伝える広告は、その第1弾だ。

 「贈り物をするのは、誕生日や、クリスマス、バレンタインといった特別な日に限ったことではありません。ちょっとした訪問や何かのお礼などに際して、相手の負担にならない贈り物で気持ちを伝えるというシチュエーションなら、日常生活の中にいくらでも存在する。そのことに気づいてもらえるような広告表現を目指しました」と加藤氏はその意図を説明する。現在、シリーズ第2弾の企画が進行中で、4、5回のシリーズ展開が予定されているという。

 「シリーズを通して、メーンビジュアルでは、人と人との関係性を表現していきます。その関係は、友達、ファミリー、祖父母と孫、恋人同士など毎回変わり、関係をつなぐものとして商品を介在させていく。贈る喜びと贈られるうれしさを、さまざまなシチュエーションの中で丁寧にお伝えしていければいいなと思います」(加藤氏)

海外市場の好調な今だからこそ、キャラクターを支えるメッセージの発信を

 では、なぜ、第1弾としてグリーティングカードをやりとりするシーンを選んだのか。ちなみに、同社がグリーティングカードで新聞へ広告出稿するのは、今回が初めてだ。「震災で、コミュニケーションの基本的な手段が奪われ、たくさんの人が連絡をとりたくてもとれないという経験をしました。そんな中で、相手のことを思いながらカードを選び書く、受け取った側も書いてくれた人のことを思いながら読む、というコミュニケーションの基本ツールであるグリーティングカードを取り上げるべきではないか、ということになった。ちょうど暑中見舞いのシーズンだったこともあり、グリーティングカードに決まりました」(加藤氏)

 ボディーコピーは、「なかよくをおくろう」。このメッセージは、昨年の50周年のときに、朝日新聞紙上で投げかけた「世界中みんななかよく」というメッセージに連なるものだ。近年、サンリオのビジネスは、国内から海外へとシフトしてきており、現在利益のうち海外事業が占める割合は7割強にも及ぶ。「世界中みんななかよく」は、サンリオは世界中でビジネスをしている、サンリオショップは世界中に広がっている、という事実を広く伝えたいという思いがあった、と加藤氏は振り返る。

 「『世界中みんななかよく』と発信した1年後に発するメッセージとして何がふさわしいか、と考えたとき、『スモールギフト・ビッグスマイル』の原点に戻ろうということになりました。海外市場の好調な今だからこそ、国内で発信すべきはキャラクターたちを支え、ビジネスを支えるメッセージだろう。それは企業理念にほかなりませんよね。それが、『なかよくをおくろう』のコピーにつながりました」

 「サンリオショップでの暑中お見舞いカードの売り上げは、掲載日から数日間は通常の1.5倍に跳ね上がりました。今回の広告が具体的な行動に結びついていることがわかったので、今後は、伝えたいメッセージがどれだけ届いているかを検証しつつ、その結果を第2弾、第3弾の展開につなげていきたいと思います」(加藤氏)