高級スポーツカーを中心に展開するポルシェ ジャパンが、「ポルシェ、心高ぶる鍵。」と題する計5回の全5段シリーズ広告を朝日新聞紙上に掲載した。従来、商品の導入キャンペーンの告知などを主目的に、クルマをメーンビジュアルとする広告を展開してきたが、今回は、ポルシェオーナーの気持ちをつづった文章によってブランド訴求する、これまでにない広告となった。
若い世代と顧客層の双方に訴求
シリーズ広告のねらいについて、執行役員・マーケティング部長の牧野一夫氏は語る。
「日本国内のポルシェオーナーは、長くファンでいてくださるロイヤルティーの高いお客様が多いため、ブランド価値の維持は必須です。一方で、若い世代のクルマ離れが言われる昨今、オーナーの平均年齢は年々上昇している現実があります。そこで、若い世代のポルシェというブランドへのあこがれを醸成するとともに、ポルシェやポルシェオーナーが若者の羨望(せんぼう)の対象であることを顧客層が実感できるようなコミュニケーションを目指しました」
シリーズに共通するメーンビジュアルは、ポルシェのキー。卓上に並んで置かれたモノからうかがえるのは、人生を謳歌(おうか)し、社会的に活躍する男女の姿。成功の証しであるキーを手にしたオーナー像だ。
初回は、父親に宛てた手紙と万年筆。隣につづられたストーリーは、父親と同じ「911」モデルのオーナーとなった息子の喜びを伝えている。第2回は、サングラス。「ケイマン」モデルのボディーと走行感に魅せられたオーナーが、お気に入りの場所へと愛車で向かう期待感を伝えている。第3回は、シャンパングラス。独立・起業した自分へのプレゼントとしてあこがれのモデル「ボクスター」を手に入れた人の幸福感を伝えている。第4回は、レース用ヘルメット。「911」モデルに乗るオーナーが、サーキットに挑む高揚感を伝えている。第5回は、風力発電プランのスケッチ。風力発電エンジニアであるオーナーが、低燃費・高パフォーマンスの「カイエンSハイブリッド」を走らせる充実感を伝えている。
ポルシェのモデルは、SUV車「カイエン」シリーズ、4ドアクーペ「パナメーラ」シリーズなど、スポーツタイプ以外のラインアップもあり、それらの認知向上もねらいだったという。
「車体をクローズアップしたありきたりの広告ではなく、ポルシェにしかできない表現を心がけました。また、商品の社会的調和が求められている時代のムードをとらえ、燃費の効率性やハイブリッド技術をアピールしました」
新聞広告を起点に、ウェブやソーシャルへと広げる
通常の広告展開は、ドイツ本社の指揮のもと、世界統一ビジュアルを原則としているが、「国によってマーケットの成熟度が違い、ブランド訴求の手法を統一するのは難しい」との判断から、初めて日本独自の新聞広告を打ち出した。
各ストーリーは、販売店を通じて顧客に取材した内容や、オーナー組織である「ポルシェクラブ」の会員にインタビューした内容をもとに構成した。「報道記者だったご主人を飛行機事故で亡くした女性がお子さんたちのために働き始め、15年間キャリアを重ねた末にポルシェを購入し、『ポルシェのステアリングホイールを握るだけのことはやってきた』と振り返る姿など、予想以上にドラマチックで感動的な物語がたくさんありました」と牧野氏。月1回の新聞広告に加え、ウェブサイトでもストーリーを掲載し、ツイッターも活用した。
また広告では、ホテルの宿泊体験プレゼントや、ポルシェの3日間試乗・体験プレゼントといったキャンペーンの告知も行った。
「当初はクルマの専門雑誌で展開する案もありましたが、幅広い層にリーチできる朝日新聞での掲載となりました。反響は大きく、プレゼント企画に多数の応募があったほか、当社主催のイベントで『新聞広告を見た。面白かった』とお客様から声をかけていただきました。そうした直接的な反応があるのはめずらしく、大変驚きました。新聞を起点としてウェブやソーシャルメディアに誘導する手法も初めての試みでしたが、ウェブサイトへのアクセスは通常の3倍に伸び、ツイッターも顧客を中心に“ポルシェ談義”で盛り上がりました」 キャンペーンの成功を足がかりに、今後も新規ファンの獲得と顧客層の信頼継続のため、ブランディングを続けていくという。