花屋さん、クリーニング屋さん、左官職人、ネイリスト、お母さん……。様々な仕事をする「手」が紙面を飾る。温かみが伝わってくるこれらの広告は、ユースキン製薬が昨年 11月から2月まで5回にわたり朝日新聞朝刊に出稿したシリーズ広告だ。
「自分の手をいたわって」というメッセージを「手」を使って表現
同社は主力のハンドクリーム「ユースキンA」をはじめ、スキンケア商品を展開している。発売から50年以上の歴史がある「ユースキンA」は、国内のハンドクリーム市場で売り上げ1位を誇る大ヒット商品ながら、もともと主婦を中心としたクチコミで評判となったこともあり、マス媒体を使った広告活動は、たとえば新聞でも全1段、半5段といった低段数広告でしか出稿していなかった。今回のような大々的なコミュニケーションに踏み切った理由を、ユースキン製薬営業部営業支援グループ係長の髙嶋俊継氏は次のように語る。
「当社の『ユースキンA』は幅広く認知され、多くの方に愛用いただいていますが、知らないという消費者もたくさんいます。この層にどうアプローチするか。導き出した結論は、やはり広告でした。しかし、これまでのように小さな広告を出稿したところで、今以上に響くことは難しいだろう……と。そこで、当社の屋台骨でもある『ユースキンA』のブランド広告と、企業広告を合わせたコミュニケーションができないか、と考えたのです」
広告は、「信頼」「優しさ」「伝統」「まじめ」といった、愛用者が「ユースキンA」に対して持っているイメージを表現することで、そうしたことを大事にする企業姿勢をアピールする、と方向性が決まった。そして、題材として取り上げたのが「働く手」だった。
「最初は主婦目線から生まれた『ユースキンA』も、今では様々な職業の方たちが愛用してくれています。日頃酷使している手をご自身で見つめ直し、ハンドクリームを使っていたわってほしい・・・・・・。そうしたメッセージを発信しようと考えました」(髙嶋氏)
初回の出稿は11月10日。この日は、同社が2000年、日本記念日協会に申請して登録された「ハンドクリームの日」だ。「いい手」という語呂合わせもあるが、当時の過去10年間の気温を調べたところ、11月10日を境に東京の最低気温が10度を下回り、ハンドクリームの売り上げが伸びるタイミングでもあった。2000年以降、この日には店頭などでハンドマッサージのイベントなどを展開。まさに自分の手をいたわってあげるのにふさわしい日だ。
「メーンコピーの『がんばる手に“ありがとう”』は、自分の手への感謝の気持ちと、当社の製品を使っていただいていることへの感謝と、色々な『ありがとう』の意味を込めました」と髙嶋氏。そのメッセージが伝わったのか、「昔使っていて懐かしかった。また使いたくなった」「コピーがすばらしい」といった電話やメールが寄せられるなど、予想を超える反響があったという。髙嶋氏は「当社の歴史上、こんなに反応があったのは初めての経験です」と笑顔を見せる。
さらに、別の喜びもあった。同社は創業以来、神奈川県川崎市を本拠にしており、地元の人との交流も深い。今回のシリーズ広告では、地元で働く人たちの手を撮影させてもらった。
「こちらが感謝することなのに、『ユースキンさんのために協力できてうれしい』と、すごく喜んでくださった。当社が地元にこんなに愛されていると気づき、本当にうれしかったですね」と髙嶋氏は表情をほころばせる。さらに、どんな仕事の人がどんな作業をすると手荒れをするのか、といった、それまで知らなかったことも、協力してくれた人たちとの会話から学ぶことができたという。
「外向けに展開した広告でしたが、結果として、社内的にもとても意義のあるものとなりました」(髙嶋氏)
家族みなで読む、生活感や温かみのある新聞は ユースキン製薬の商品特性にも重なる
「働く人の手」をフィーチャーするというコンセプトは変わらないが、色のトーンを濃くしたり、字を大きくしたりと、クリエーティブは少しずつ変化した。この背景には、「長く愛される商品を提供し、潤いのある社会づくりに貢献する」という同社の企業理念と、ユースキンAが50年以上貫く「親切、優しさ」といったブランドイメージがある、という。
「『ユースキンA』は子どもからお年寄りまでに使ってもらいたい商品であり、新聞はそういった幅広い層に読まれる媒体です。読者の身になってみると、色が薄いと見づらいかもしれないし、小さい字は読みにくい可能性がある。そこで、1回1回検討しながら、クリエーティブを『進化』させました」と髙嶋氏。さらにこう続ける。
「商品作りと同様で、100%というのはありえない。常にいいものであり続けるためには、守るものは貫きながらも、変えるべきところは変えていく。広告についても、それが当社の姿勢なのです」
キャンペーンに新聞を選んだことにも、「ユースキン製薬らしさ」が表れている。「紙の新聞は、折り目がついていたり、ぬくもりを感じられたりして、なんとも言えない優しい『味』がある。また、朝起きたら届いていて、色々な世代の家族たちがそれぞれの時間の中で読む、生活の一部としてすごく息づいている媒体だと思うんです。そうした生活感や温かみは、当社の商品が大事にしているものと重なる。今回の反響から見ても、これからも活用していきたい大事なツールだと考えています」(髙嶋氏)
今回のシリーズ広告は、「中長期的なメッセージ発信のスタート」という。今後もしばらくは同じメッセージを伝えていく考えだ。
髙嶋氏は最後にこう言葉を結んだ。 「特に企業広告は表現が難しく、お客さまのとらえ方も様々です。毎回変えてしまうとブレてしまったり、本当に伝えたいことが伝わらなかったりするので、今回のメッセージを3年ぐらいは続け、お客さまの信頼を得ていきたい。そうすることで、当社の姿勢を感じてくれる人や購入してくれる人が増え、さらにこれまでも使ってくれている人が改めて愛してくれる・・・・・・。進化する姿勢を忘れずに、そこを目指していきたいと考えています」