インターネットを経由してソフトウエアやハードウエア、データベース、サーバーといった様々なコンピューター資源を活用する「クラウドコンピューティング」。従来、ユーザー(企業、個人)がコンピューターを使うとき、それらをユーザー自身が保有・管理していたのに対し、クラウドコンピューティングでは、インターネット上に存在するそれらをリソースとして使う。クラウドは雲(cloud)の意。ユーザーはインターネット上の様々なリソースの存在や構造を意識することなく利用できるため、漠然とした「どこか」のイメージからこの概念を雲にたとえ、クラウドコンピューティングと呼ぶようになったと言われている。
クラウドのサービスは、10年ほど前から主に個人コンシューマー向けのウェブサービスとして提供され始め、ここ数年は「プライベートクラウド」と呼ばれる企業内の情報システムをクラウド化するビジネスが急増している。企業内をクラウド化することで、社員はクラウドに置かれた情報に、PC、携帯電話など様々なデバイスでどこからでもアクセスでき、アプリケーションについてもオフィスのサーバーにアクセスする必要がなくなる。企業にとっても、システム運用や管理のコストが削減できるといったメリットが見込める。
マイクロソフトも、Hotmailなどの個人向けをはじめ、個別のサービスはこれまでも展開してきたが、昨年、このクラウドサービスを企業に提供するB to Bビジネスに本格参入した。プラットホームからアプリケーションまで、ユーザーのビジネスや経営変革に必要なITソリューションすべてをまとめて提供できるのが、他社にない大きな特徴であり、強みだ。グローバルだけでなく、導入する日本企業も増えるなど、クラウドサービスのビジネスは好調に進んでいる。
日本市場参入25周年の節目の年に ビジネスの新領域を「宣言」
同社の日本法人は2010年11月25日、朝日新聞朝刊にクラウドについての全面広告を出稿した。この経緯について、日本マイクロソフト コーポレート ブランディング グループ、リード アドバタイジング マネージャの並木亮宜氏は、こう説明する。
「今年2月、マイクロソフトの日本法人が25周年を迎えます。日本市場で四半世紀にわたり信頼される企業を目指して活動を続けてきた節目の年に、クラウドという新たな領域でビジネスを展開していくことを、日本のお客さまにきちんと伝えたいと考えました」
B to B領域のビジネスはこれまで、基本的には経済紙やビジネス誌といった媒体を使ってのコミュニケーションが中心だった。今回、一般紙である朝日新聞に出稿したことについて、「朝日新聞はオピニオンリーダーと言われる人たちが読んでいる信頼性の高い媒体です。そうした優良かつ社会的影響力を持つ層に向けて広く、戦略を伝えたかった」と、並木氏は話す。
同社が提供するクラウドサービスを表現した雲の形のロゴマークと、その雲が浮かぶ空をイメージした鮮やかなブルーのクリエーティブには、びっしりとボディーコピーがつづられている。
「通常のコミュニケーションでこれだけ文字の多いクリエーティブは珍しいのですが、今回はしっかりとメッセージを伝えたい、という強い思いがありました。だからこそ、読んでもらえる新聞を主軸に据えたのです。何かを宣言し、それを理解してもらうという点において、新聞広告を使う意味は大きいと考えます」(並木氏)
時代と事業戦略に合ったメッセージを 持続的に発信していく
反響は大きかった。 「新聞を中心に、雑誌、イベント、オンライン、屋外広告など多面的にコミュニケーションを展開したことで、『マイクロソフト=クラウド』という認識が徐々に広まってきました」と並木氏。
「新聞広告には、社内からの反応もたくさんありました。もちろん社外に向けた広告だったのですが、当社がこれから向かっていく方向を示しているという点で、この広告はとても重要な意味があったと考えます。社員にとってもやはり新聞が一番目につきやすい媒体だったことで 、新聞を使った意義や効果は高かったと評価しています」と、インナーコミュニケーションの効果も指摘する。
景気低迷が続く中、広告コミュニケーションは、短期的な思考に振り回されてしまう企業も少なくない。しかし、同社では「広告活動は持続性が重要」(並木氏)と位置づけており、B to B領域におけるマイクロソフト全体としてのコミュニケーションを、2006年から現在まで継続させている。
今後のコミュニケーション戦略について聞いた。 「伝えていくべき広告のメッセージは、時代とともに変わっていきます。そうした時代の変化と事業戦略に合わせ、しっかりとマスターブランドのコミュニケーションを続けていく考えです。クラウドについては、今回の広告がスタート。長期的な視点で、クラウド導入の具体例などを、また新聞広告を使って紹介できればうれしいですね」