三菱電機は、昨年12月8日、9日の連日、同社の環境ステートメント「eco changes(エコチェンジ)」の取り組みを伝える企業広告を朝日新聞朝刊に掲載した。これは同社も出展する日本最大級の環境展示会「エコプロダクツ2010」の開催タイミングに合わせた掲載だ。
全員参加型で推進する低炭素・循環型社会への取り込み
三菱電機グループは、我々に身近な家電製品、エレベーターなどのビル事業、水環境、鉄道といったインフラ事業から人工衛星などの宇宙事業まで、幅広い事業を展開している。「eco changes(エコチェンジ)」はそのあらゆる事業を通じ、低炭素社会、循環型社会への実現にチャレンジすることを社会に宣言する環境ステートメントだ。
宣伝部コーポレートコミュニケーショングループ専任の水沼慶徳氏は、「こういったコミュニケーション活動では、多様な事業にそれぞれが携わっている社内の一人ひとりに参加意識をもってもらうことが必要でした」と語る。
「そのため部門横断的な体制で、社内に点在する環境関連製品を「エコチェンジプロダクツ」としてその訴求ポイントと共に自らエントリーしてもらう仕組みをつくり、事業部を巻き込みながら社内で盛り上げています。そうしてエントリーされた題材の中から、今年度のメーンテーマとして、低炭素社会では『スマートグリッド』、循環型社会では『プラスチックリサイクル』を選定しました」
昨年12月に掲載された新聞広告においても、1回目では同社の高純度プラスチックリサイクル技術、2回目では発電システムのネットワーク化で電力の有効活用を進めるスマートグリッドを取り上げている。三菱電機の技術の先進性や、一般読者にはまだ耳慣れない言葉の意味を分かりやすく伝えるため、仕組みや意味をシンプルに記号化したイラストを大きく扱い、技術説明を必要最小限の文字でまとめた。
「環境広告の考え方は、いろいろとあると思います。例えば、社内にある技術をずらりと並べて、そのスケール感を伝えるもの。あるいはそれぞれの技術を詳しく伝えて、企業の先進性を知っていただくもの。かつては技術的な側面に興味をもたれるのはBtoBのビジネス層のお客様がほとんどでしたが、現在ではその裾野が広がっています。伝えた方を見直す必要があると思いました」
2日連続、同一ページ掲載で、読者により強い印象を
ピクトグラム(絵文字、絵単語)的なイラストを大きく扱ったのは、「言葉を超えて、どこの国の方が見ても理解していただける、ノンバーバルなコミュニケーションをしたかった」と、水沼氏は言う。
「膨大な情報が掲載されている新聞では、お客様に長くても15秒程度以内で何を伝えたいかが分かるようなメッセージでないと伝わらないと考えています。それからこういった手法であれば、今後グローバルに『エコチェンジ』を展開する場合でも、同じコンセプトで発展させていくこともできます」
文字とイラストだけで紙面を構成し、製品写真などの「落とし込み」を設けないビジュアルが採用されたのは「宣伝部だけでなく、社内全体に『エコチェンジ』というプロジェクトの共有化とそれへの参画意識があるからこそ理解を得られた結果」だと語る。
「これまでは、なるべく自社の製品がより具体的に紹介されているほうがいい、もっと詳しい説明をすべきではないか、といった意見が社内では強い傾向がありました。しかし、今回の『エコプロダクツ2010』の会場で私自身も感じたことですが、環境技術や製品への関心はビジネス層から生活者へと急速に広がっていています。当社には世界最先端の技術があるからこそ、社内の感覚では「目線の下げ過ぎでは」と思われるところから伝えることも、実は必要だと感じています」 生活者のエコへの関心が、暮らしの中で顕在化している家電製品や自動車などのみならず、社会の仕組みやインフラなどへと深まっている現在。「訴求ポイントの絞り込みが難しい面もあった当社の環境関連事業の幅広さを、一般の生活者に大きな価値として感じてもらえる時代が訪れた」と、時代の変化を水沼氏は指摘する。
「今回の新聞広告に関しては、2日連続で掲載をすることで、読者の方々により強い印象をもっていただけることができたのではないかと思います。また、『エコプロダクツ2010』の開催期間中は、マスコミ等もその話題を取り上げたことで、より生活者寄りのメディアからも注目が集まるようになりました。そういったニュースとの相乗効果も期待しました。また朝日新聞以外にも、朝日小学生新聞ではさらに分かりやすいイラストを用いた広告を、逆にビジネス誌では写真を活用した実証的な広告を同時に展開しました。広範にわたるエコ関心層に向けて、異なる表現で当社の『エコチェンジ』をアピールしています」
三菱電機は、今年で創立90周年。100周年にむけて「環境先進企業」を目指すべく、環境というテーマを企業活動全体の中でより大きなものとして位置づけ、メッセージしていくことが検討されているという。
「今私たちは、環境への取り組みを伝える広告を展開するというよりも、環境というテーマを通じた新しいコミュニケーションを模索している状況だと感じています。伝える相手と伝える手法の両面から、既成概念にとらわれずに考えていかなくてはなりません。そういった意味でも、環境はこれからの広告にとって非常に大きな可能性をもつフィールドだと思っています」