1910年、横浜元町に開いた洋菓子店からスタートした不二家にとって、今年は創業100周年。年初から新商品・復刻商品の発売やさまざまな記念イベントが展開されている。9月17日には朝刊紙面に全15段カラーの企業広告を掲載し、不二家の商品でつくられた「お菓子の国」のペコちゃんとポコちゃんから、「感謝の思い」が届けられた。
内向きのお祝いではなく、ステークホルダーへ感謝を伝える
創業100周年といえば、企業にとって大きな節目。華やかなパーティーや社史の編集などが行われるのが通例だ。しかしながら不二家の場合、「まずトップ(櫻井康文社長)の意向として、内向きのセレモニーは行わないと伝えられました」と、CSR推進部広報室長の溝口修氏は話す。「弊社は2007年に大きな問題を起こし、現在まだまだ再建途上です。それでも一歩ずつ会社が立ち直り100周年を迎えられたのは、何よりお客様をはじめするステークホルダー皆様のおかげです。そのことをベースに、お客様と不二家がどういう関係を築き、どんな形でお礼をすることがよいかを考えて計画を立てました」
100周年事業の大きなテーマは「家族の笑顔」。それを具体化する取り組みとして、記念事業、感謝の思いを形にした商品、キャンペーンという3つの柱が立てられた。
記念事業としては、創業100周年と共にペコちゃんが今年で誕生60周年になることを記念して開催された「ペコちゃんスマイルコンテスト」がある。応募者の子供たちの中からリアル“ペコちゃん”“ポコちゃん”を選ぶ、60年の歴史上初めての試みだ。「グランプリに選ばれた2人のお子様は本当にペコとポコにそっくりで、現在弊社の広報活動のお手伝いをしていただいています。また参加者の輪を全国に広げるため、家族の笑顔の写真を募集するファミリーフォト部門も設けました。こちらには2,301作品もの応募があり、予想以上の反響の大きさに驚きました」と溝口氏は手応えを語る。
また、「ペコちゃんの歌」を制作。幅広い世代に愛されているペコちゃんにふさわしい歌をと作曲を久石譲、歌を森高千里に依頼し、歌に合わせた「ペコちゃんダンス」も制作した。
商品では、オールドファンには荒井由美(当時)のCMソングが懐かしい「ソフトエクレア」が新製法で復活。溝口氏は「以前からお客様からも復活のご要望が高かった」という。そのほか、26年の歴史をもつ「カントリーマアム」の過去の人気フレーバー3種を1箱にアソートした「カントリーマアム ベストヒットコレクション」なども発売した。
キャンペーンでは、「おしゃべりペコちゃんプレゼントキャンペーン」を実施。こちらは対象商品500円分の不二家商品のレシートで応募することができ、抽選でおしゃべりペコちゃん人形が当たるキャンペーン。11月末までの応募期間で、店頭やWEBで告知している。
さらに、「9月から10月には、全国 17 都府県の児童施設約70カ所にペコちゃんが訪問する『ペコちゃんが行く! 不二家キャラバン隊』を実施しました。ペコちゃんはどこにいっても人気者でしたが、弊社のキャラクターとは知らなかった小さなお子様もいました。一連の取り組みは、不二家とお客様を結ぶ存在としてのペコちゃんの認識を高める機会にもなったと思います」と溝口氏。
情報の信頼性と共に、幅広い層に到達する新聞広告
新聞広告のメーンビジュアルは、不二家のお菓子たちで作った「お菓子の国」の世界。子供の頃にお気に入りだったお菓子や、今我が子が目を輝かせるお菓子を探す楽しみのある広告だ。お菓子とは、時間や空間を楽しくするもの。特に不二家は小売店を持ち、誕生日にケーキを買って家族とお祝いをしたなど、人々の記憶と共に歴史がある。そんなあたたかな世界観が伝わるクリエーティブに仕上がった。
新聞広告に期待した役割は、「情報に対する高い信頼性や社会性と、お客様の手元に届く到達性」だと溝口氏は言う。「弊社が新聞広告をこれだけ大々的にうったのは数年ぶりになりますが、メディア環境が大きく変化した今日でもそれらは変わらない強みだと思います。楽しさのある紙面の中にも、どこか折り目正しさをもった発信をしたいと考えた時、やはり新聞が適切なメディアでした」
不二家のメッセージを、幅広い層に届けたい思いもあったという。「不二家の信頼が回復したか否かというのは、私たちではなく、お客様が決めることです」と溝口氏。例えば主婦であれば、スーパーマーケットで不二家の商品をカゴに入れる人を目にしたり、洋菓子店に人が入っているのを見た時、不二家に対する人々の信頼感の変化を感じるだろう。ただしサラリーマンを中心とする男性層は、売り場や商品の動きを通じて今の不二家の姿を知る機会が少ない。「そういったあらゆる層に私たちの思いを伝えられるという意味でも、新聞広告には価値があります」
メーンキャッチは「おはようございます。ようこそお菓子の国へ!」。100周年を前面に出さず、素朴なあいさつをそのままコピーにしていて、かえって目をひく。 「このコピーは会長の山田(山田憲典氏)の発案から生まれたものです。いつも私たちはお客様をお迎えする時、『おはようございます、いらっしゃいませ』『こんにちは、いらっしゃいませ』」と声をかけています。100周年の感謝の気持ちを、特別に飾った広告表現ではなく、いつものあいさつで届けたいというのがこの言葉に込めた思いでした。お客様からの紙面の評判もよく、全国の洋菓子店では『新聞見ましたよ』『不二家らしい広告ですね』といったお声をお客様からいただいているようです。不二家らしさとは何か、言葉ではうまく表せないのですが、本音で語りかけているということが伝わったのだと思います」
1年続いた記念事業の集大成は、11月1日にオープンし、同月下旬まで開催する銀座の「ペコちゃんミュージアム」だ。今回は歴代のペコちゃん人形やグッズ展示などのほか、会話ができる「ペコちゃんロボット」を新たに登場させている。
(C)FUJIYA CO.,LTD.
「全国には3年前の問題の傷が今も癒えきっていないお店もあります。新聞広告を含め今回の記念事業は、そういった方たちに元気を与えたり、自信をもって働ける会社なんだと思っていただける機会としても、とても効果があったと思っています。また今回は新聞広告だけでなく、イベントや新商品の発表を記事として好意的に取り上げていただく機会が多く、それも社内外に対して大きな影響力をもったと思います。パブリシティと広告の両輪がうまくかみ合うことで、情報の信頼性と共に社会から注目を集め、幅広い層にきちんとメッセージを届かせることができる、新聞の特性を改めて実感しました」(溝口氏)