9月27日の朝、通勤・通学の時間帯に「サケ、いよいよ遡上本番へ!」との見出しが躍る広告号外が、札幌の街頭で配られた。サケといえば、北海道で最も慣れ親しまれる魚。数年間にわたり大海原を旅し、秋になると命をかけて生まれ故郷の川に戻ってくる。「サケの遡上」のニュースは、まさに北海道民にとって風物詩といえるのだ。それにしても、なぜそれが広告号外になって配られたのだろうか・・・・・・?
これは、今年の8月1日から発売され、10月1日搭乗分より適用される、北海道国際航空(以下、エア・ドゥ)の新運賃「北海道発往復運賃」の広告。道内4空港から旅立ち、本州6空港から北海道に戻ってくれば、異なる空港でも往復運賃が適用されるという商品だ。
「『北海道発往復運賃』という名称は、正直なところ堅苦しさがあります。北海道の人たちに覚えてもらいやすい、もっと親しんでもらえるような名称やロゴマークはないものか、まず検討するところから始まりました」と語るのは、北海道国際航空 営業本部営業部 主席の熊倉万里子氏。「商品の特徴である『行って、戻ってくる』ことを表すのは、どんなものがあるだろう?と連想ゲームのように思いを巡らせていたところ、『サケ』というアイデアが浮かんだのです」
このようにして、エア・ドゥのマスコットであるクマの「ベア・ドゥ」がサケにまたがったロゴマークができあがった。そして、サケの遡上と新商品の適用時期が期せずしてぴたっと合い、「サケ」を題材に発売を告知する広告号外の発行となった。
「エア・ドゥは他の大手航空会社と違って、地域に密着した地域の航空会社です。今、航空業界ではLCC(ロー・コスト・キャリア:効率化の向上によって低い運航費用を実現する航空会社)が話題を呼んでいますが、当社ではコストばかりのことよりも、地元への貢献を最重要課題として取り組んでいます」と熊倉氏。
『北海道発往復運賃』が生まれた経緯を、熊倉氏はこう説明する。「北海道のために作られた航空会社として、北海道の皆様に還元したいとの思いから『道民割引』を従前から実施していました。今回発売した『北海道発往復運賃』は、これまで必要だった入会手続きや北海道居住を確認する証明書などの提示を求めないので、さらに多くの北海道の皆様にご利用いただきやすくなりました」
出勤のタイミングをとらえ、ビジネス街や乗降客数の多い駅で配布
『北海道発往復運賃』は、搭乗日当日など直前に予約しても適用されるのが特長だ。予定がギリギリまで決まらないことが多いビジネスパーソンなどにとって利用しやすい。「そこで広告号外は、出勤のタイミングをとらえ、北海道庁・市役所周辺のビジネス街や、JR北海道の駅の中で札幌駅に次いで2番目に乗降客数が多い、ベッドタウンの手稲駅で配布しました。広告号外を受け取って、電車の中で読んでもらう。さらに職場で話題にしてもらう。そんな導線や場面を想定しました。月曜日の朝、気分が仕事モードに切り替わるタイミングに配るというのもポイントでしたね」と、熊倉氏は広告号外の狙いを話す。
「あっという間に、15分くらいで1,500部の配布が終わってしまいました。北海道では号外が配られる機会が首都圏などに比べ少ないからなのか、かなり興味を持って受け取ってくれました。『朝日新聞』の題字が入ることによる信頼感もあったからでしょう。もっと部数を用意してもよかったという声が、配った社員から上がりました」と、手応えを語る。
広告号外は、10月1日からエア・ドゥ機内や羽田空港の搭乗ブリッジでも、1,500部が配布・設置された。お客様と客室乗務員のコミュニケーションにも一役買ったという。
クリエーティブのポイントを聞いたところ、「どうしても、今年遡上してきたサケの写真を掲載したかった。リアルな情報を入れることにこだわりました」と熊倉氏。「今年の夏の記録的な猛暑の影響で、例年どおりに遡上してくるかが危ぶまれ、本当にハラハラしました」
しかし、そんな不安をよそに、例年並みの9月14日に、札幌市の中心部を流れる豊平川で遡上するサケの第1号が確認された。「できるだけいい写真を載せたかったので、何度も撮影しては差し替え、校了間際まで粘りました」
サケの写真とともに、サケの話題に特化した記事を、大きなスペースを使って掲載した。サケの習性に関する基本情報、北海道のサケに関する取り組み、札幌市にある「札幌市豊平川さけ科学館」のイベント情報など盛りだくさんの内容で、「読み物として十分に楽しんでもらえるものを目指した」という。
「今回の新運賃の発売告知では、新聞広告のタイムリーさ、ニュース性といった新聞広告の特性をうまく活用できたと思っています。今後もお客様に情報をお伝えする際は、この企画の経験を生かしたいですね」と熊倉氏は結んだ。