1カ月間連日、キスマークが躍った広告が話題に

 8月1日から30日までの30日間、朝日新聞紙面にキスマークが躍った。ニュージーランド航空の小型広告で、キスマークのほかに所属と年齢、そして、QRコードのみが配されている。これって同社の社員のキスマーク? それも、フライトアテンダントとか女性社員の?……と、あれこれ連想してしまう広告だ。インパクトがありながら謎めいた内容に、ブログやツイッターといったクチコミメディアで話題を呼んだ。

30日間続いたキスマークの意味は? 特設サイトを告知する全面広告で明らかに

ニュージーランド航空 日下部真一氏 日下部真一氏

 そして迎えた8月31日、同社の全面広告で「種明かし」がされた。連日の広告は、ニュージーランド航空の日本就航30周年を記念したキャンペーン広告で、特設サイトへの誘導を図ったものだった。

 「ニュージーランド航空はこの8月、日本就航30周年を迎えました。キスマークは、当社スタッフ一人ひとりからの感謝の気持ちを表しています」と話すのは、ニュージーランド航空日本地区マーケティング本部長の日下部真一氏。「30周年という節目の年に、感謝の意を込めた企業メッセージをお届けするとともに、改めてニュージーランド航空のブランドを訴求したいというねらいがありました」

 小型広告が掲載された30日間の反響はさまざま。「おもしろい」という感想もあれば、「広告の意味が分からない」「航空会社が女性を売り物にするなんて」という批判的な意見もあり、賛否両論だったという。「おそらく女性社員のキスマークと誤解されたのだと思います。そうしたご意見が出ることは、ある程度予想していました」と日下部氏。しかし、31日の全面広告掲載後、批判的な意見は、ピタリとやんだという。そこにはキスマークの主であるスタッフの名前が添えられており、半数以上が男性だったことが明らかになったということだけでなく、ニュージーランド航空が日本就航30周年を迎えるにあたってお客様への感謝を伝える広告であったことが理解されたからだ。

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2010年8月1日付 朝刊 2010年8月1日付 朝刊

 紙面で告知されている特設サイトにアクセスすると、キスの主たちが登場する画像が流れる。性、国籍、担当職種もさまざまなスタッフたちが照れながら投げキスをする姿は、思わずクスッと笑ってしまうほほえましさがある。

 「当社は、居心地のよさを感じていただけるような、カジュアルだけど上質なサービスを目指しています。広告についても同じ考え方で、広告だからといって言いたいことを言えばいいのではなく、見た人が楽しいと感じるような、ある種、エンターテインメントのひとつであるべきだ、ととらえているのです」と日下部氏。さらにこう続ける。「少し乱暴な言い方ですが、いいものだけど見逃されてしまうよりは、議論を呼ぶかもしれないけれどインパクトを与える広告のほうがいい、と考えます。今回のキャンペーンでも誤解を招いた面はありましたが、感謝を伝えたいという気持ちを誠意を持って表現すれば、必ず理解してもらえるだろう、と確信していました」

 実際、サイトを見た人からは「なるほどね」という声とともに、「楽しい気分になった」「幸せな気持ちになった」など好意的な意見が多く、日下部氏は「仕掛けを理解していただいただけでなく、感謝の気持ちや、広告でも楽しんでいただきたいという思いがきちんと伝わった。本当にうれしいですね」と笑顔を見せる。

2010年8月15日付 朝刊 2010年8月15日付 朝刊
2010年8月17日付 夕刊 2010年8月17日付 夕刊
2010年8月27日付 朝刊 2010年8月27日付 朝刊
2010年8月30日付 朝刊 2010年8月30日付 朝刊

広告もエンターテインメント 見る人に楽しさ、幸せを感じてほしい

2010年8月31日付 朝刊 2010年8月31日付 朝刊

 今回、特設サイトの告知は新聞広告のみで行った。「新聞という伝統的でなじみの深い媒体に、新聞広告らしくないクリエーティブを掲載することで、新しい手法やチャレンジがより映えるのでは、と考えました」と日下部氏。仕掛けのおもしろさやクチコミでの広がりもあり、全面広告を出した31日から約1週間で、アクセス数は15万を超えたという。

 「これまでの経験から、新聞を中心としたコミュニケーションでウェブへのアクセスを増やすことは非常に難しいと分かっていたので、今回は賭けでもありました。ですから、予想をはるかに超える反響に驚いています」と日下部氏。さらに、仕掛けのおもしろさから、ブログやツイッターだけでなく、ウェブニュースなどにも取り上げられた。「純粋なPRの効果でこれだけアクセス数が増えているというのは、驚きであり、非常にありがたいと感じています」

 新聞ならではの媒体特性も、選択した理由だ。「ブランドメッセージを伝える目的に、幅広い読者層を持つ新聞は適したメディアです。また、ニュージーランドは1日や2日で行って戻ってこられる場所ではありません。このため、年齢が比較的高めで時間やお金に余裕のある方が旅行先として選ばれる傾向があり、新聞の読者層と重なる部分が多い、と考えました」

 コミュニケーションの今後の展望などについて聞いた。「サービス同様に、広告やプロモーションについても、楽しんで、喜んでいただけるものをこれからも提供していく考えです。アイデアやクリエーティブも大切ですが、どこで何をするかが大きなポイントですのでメディアの選定が重要です。メディアの使い方によっては通常のKPI(重要業績評価指標)では測れないようなインパクトや影響が出せると期待しているので、色々と検討していきたい」と日下部氏は力を込める。また、今回の特設サイトでは登場する社員一人ひとりが、ニュージーランドの魅力をオススメしているが、「日本とニュージーランドを結ぶ唯一の航空会社として、ニュージーランドという国自体をプロモートすることにも、さらに積極的に取り組んでいきたい」と言葉を結んだ。