乗りもの酔い薬として知られる「トラベルミン」。1952年の発売開始以来、子ども向けや内服液などラインアップを増やしてきた同シリーズに、2010年6月、「トラベルミン1」が加わった。発売元のエーザイは、8月に全5段シリーズ広告を展開し、ユーモラスなマンガで新発売を伝えた。
大人世代の潜在需要を掘り起こす
家族旅行やお盆の帰省で乗り物に乗ることの多い、夏の行楽シーズンに向けた広告である。「トラベルミン1」は、比較的作用時間の長い「塩酸メクリジン」を、乗り物酔い薬承認基準の1回最大量50mg配合しており、1日1回1錠の服用で効果を発揮する。また、水なしで飲めて、酔ってからも効くのも特徴だ。
「『トラベルミン』は知名度は高いのですが、乗り物酔い薬の市場は数年来停滞しているのが実情で、数社が競合する中、『トラベルミン1』の新発売を契機にシェアトップを目指しました」とは、薬粧事業部コンシューマ・マーケティング部ブランド・マネジメント一室課長の土田裕一氏。
8月3日の「感動先生」編(監修/楳図かずお、画/金子デメリン)を皮切りに、4日の「セレブ奥様」編(画/いがらしゆみこ)、6日の「幸せ家族」編(画/天久聖一・タナカカツキ)、8日の「熱愛夫婦」編(画/和田ラヂヲ)、10日の「美しきCA」編(監修/高橋真琴、画/香川麻由美)、12日の「孤高の釣り人」編(画/ジョージ秋山)と、ビッグネームの作品を次々と繰り出した。各回の筋立ては、「大人の乗り物酔い。弁論大会」を舞台に、大人たちが乗り物酔いのつらさを訴えるというもので、弁論大会の聴衆ならぬ読者を大いに楽しませた。
「乗り物酔い薬の利用者の8割は大人です。子どもが飲むもの、あるいは、子どもの時に飲んで効かなかった、という理由で服用しない人も多く、潜在需要の掘り起こしをねらいました」
マンガ家の人選は、「大人世代になじみの深い著名な作家で、かつインパクトのある作風」をポイントに行った。中には自分の作品以外のマンガを発表したことがない作者もいたという。
「著名な方々なのでお引き受け頂けるか不安でしたが、みなさん興味を抱いて企画に賛同してくださいました。特に和田ラヂヲさんは、ご自身でツイッターにPRもしてくださいました」
ユーザーの動線を読み、メディアを選ぶ
活用したメディアは、新聞広告、交通広告、ラジオCM、自社ウェブサイト。交通広告は、東京モノレールや京急線など、首都圏から羽田・成田空港に向かう列車車両で集中展開した。
「行楽に出かける日の朝、まず新聞で情報に触れ、移動中の列車や車で中づり広告やラジオCMに触れる。そんなふうにユーザーの導線を意識しました。なお、交通広告で展開したマンガには、『乗り物酔いの不安を抱えている人は空港に着いたら薬局へ』との内容を込め、空港内薬局の店頭で同じビジュアルの広告を張ってもらう工夫もしました」
新聞広告に期待した役割については、「信頼性と幅広い大人世代への訴求です。今回はマンガを展開することで、いい意味で紙面に違和感が出せたのではないかと思います。また、『トラベルミン』シリーズへの波及をねらい、1回だけ『トラベルミンファミリー』を扱った家族向けの作品を、クルマ帰省の出発日になりやすい金曜日に掲載しました。そうした即時性も新聞ならではですよね」と話す。
各回マンガの最後には、「素敵なお話、他にもあります」と記載し、同社ウェブサイトに誘導した。出稿日のアクセス数は急伸。同じく毎回記載した「お客様ホットライン」への電話問い合わせも通常の1.5倍に及んだ。
ウェブサイトは、6人の漫画家それぞれの作品が動画で楽しめるようになっている。さらに同ページにツイッターの短縮URLを載せたことで動画再生数が伸び、その数3,000超。ツイートも300近くを数え、「今朝の新聞に載っていた乗り物酔い止めの広告がすばらしかった件」「なにこれ豪華!」「他人事じゃないなー」「ワロタwwその気持ちよくわかる! マジつらいよねぇ」といった書き込みが見られた。
「広告展開後は売り上げも伸び、現在シェアトップを争っています。訴求先を大人に絞ったことが奏功したと思います」。
コミュニケーションの常なる課題は「売り場につなげること」と言う土田氏。一連の広告は、販売店の営業ツールとしても活躍しているそうだ。