「ヤン坊マー坊」で40年以上小型広告を継続、創業100周年にむけたブランディング広告も

 1966年といえば、あのビートルズが日本武道館で公演を行った年だ。その同年から現在に至るまで、44年の長きにわたり、朝日新聞の朝刊1面に月1回、小型広告の出稿を継続しているのが機械大手のヤンマーだ。継続することによって生まれるコミュニケーション効果や、新たな広告展開の方向性などを聞いた。

「毎月23日」の小型広告で、生活者とのきずなを強固に

ヤンマー 菅野修氏 菅野 修氏

 直近でいえば、「楽しい野菜づくり 始めましょ!」「ヤンマーはセレッソ大阪のパートナーカンパニーです。」など……。1面のコラム「天声人語」横の位置にすっかり定着した感のある同社の小型広告。掲載されるその日付は、決まって毎月23日であることに気づく。

 「これには理由があります」と切り出すのは、ブランドマネジメント部プロモーショングループ部長の菅野修氏。「創業者である山岡孫吉が、世界で初めてディーゼルエンジンの小型化に成功した日が1933(昭和8)年の12月23日。ヤンマーにとっては記念すべき“23日”という意味で出稿日が決定された、という当時の逸話があります」

 メディアへの信頼感を求めた結果、広告媒体として選択したのは朝日新聞。以来、BtoB企業であっても一般生活者へのコミュニケーションの重要性をかんがみ、40年以上にわたり脈々と出稿の実績を積み上げてきた。「このご時世なので、広告宣伝費の削減が議題に上がり、小型広告出稿の是非が話し合われたこともあります。しかし朝日新聞への出稿継続は、業界および一般生活者の信頼を得るために欠かせないもの、という一貫したスタンスのもと、小型広告によるコミュニケーションを重ねています」

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2010年8月23日付 朝刊 大阪本社版 2010年8月23日付朝刊 大阪本社版

 特にここ数年は、メディアの使い分けを意識したうえで、発信メッセージの視点が変化していることも見逃せない。「朝日新聞の小型広告では、より『生活者へのブランディング』を意識したメッセージを心がけています」と菅野氏。言葉どおり、家庭向けのミニ耕運機や社会貢献活動、さらには学生懸賞論文・作文の募集など、最近の小型広告では、生活者との結びつきをより強固なものにするアプローチが目立つ。

 「小型広告の中に、ウェブでの検索キーワードを盛り込むことも多いのですが、出稿後、つまり毎月23日以降はホームページの閲覧数が飛躍的に伸びます。全国紙ならではのリーチ力、直接的な効果を実感できますね」。クロスメディアの概念が定着したここ最近は、小型広告を「ウェブ誘導へのフック」として位置づける。「ヤンマーの人格を伝えるのがウェブ、そこへ来てもらうための入り口が新聞」と、そこに集約したクリエーティブに注力する。ウェブへの誘導は、幅広い分野の学生にヤンマーの多様な事業展開について興味を持ってもらえる「採用面」での功績も大きい、と役割の一つを付け加える。

2010年5月23日付 朝刊 大阪本社版 2010年5月23日付朝刊
2010年6月23日付 朝刊 大阪本社版 2010年6月23日付朝刊
2010年7月23日付 朝刊 大阪本社版 2010年7月23日付朝刊

訴求ポイントが「モノ」から「ヒト」へとシフト

2010年6月30日付 朝刊 大阪本社版 スポーツ面

2010年6月30日付朝刊
大阪本社版 スポーツ面

 2012年に創業100周年を迎える同社。今年5月19日には、次の100年に向けての事業展開を加速すべく、新ブランドステートメント「Solutioneering Together」を発表した。「Solutioneeringとは、『Solution』と『Engineering』からなる造語です。当社のコアであるEngineering(工業技術)をベースにしたSolution(解決)を意味し、ヤンマーがこれから発展するための使命を表しています」と菅野氏は新ブランドステートメントに言及する。

 新ブランドステートメント告知にあたり、サッカーW杯南アフリカ大会決勝トーナメント1回戦・日本-パラグアイ戦の翌日の6月30日付朝刊と、決勝戦の結果を報じる7月12日の号外で全5段広告を掲載した。広告紙面には、同社で勤務する社員が登場。「Solutioneering」にまつわる各自の思いを手書き文字で表している。一人ひとりの晴れやかな表情が印象的だ。「当社従来の広告トーンは、製品を中心としたハード寄りのものがほとんどでした。しかしソリューションを導き出す原点は、やはり『人=社員』ではないかと。つまり『モノ』から『ヒト』へ・・・・・・。顧客に価値あるビジネスモデルを提供し、ともに永続的に発展していくことを願う新ブランドステートメントの精神を具現化した広告です」と菅野氏。

2010年7月12日付号外 大阪本社版

2010年7月12日付 号外 大阪本社版 フロント面 フロント面
2010年7月12日付 号外 大阪本社版 3面 3面

 当初、新ブランドステートメントを大々的にアピールするタイミングは、むしろ来年(2011年)という考えもあった。しかし「よくよく考えると、新ブランドステートメントは社外と同時に社員に対して向けられたものでもあります。まずはインナーに向けて理解浸透を促し、かつモチベーションを高めるための布石を打つという意図もあります。全国版の紙面上でいわば『所信表明』することは、本人やそのご家族にとっても誇らしいでしょうし、同僚も刺激されたことでしょう。わざわざ新聞を買いに行かれたご家族もあったようです。サッカー日本代表の活躍もあり、注目度・接触率ともひときわ高いタイミングで、効果的なアナウンスができました」と振り返る。

 創業100周年という節目を控える今後について、菅野氏は「すべてのメディアを視野に入れつつ、われわれの行動指針とも言うべき新ブランドステートメント『Solutioneering Together』を効果的にメッセージしていきたい」と抱負を語る。また、知る人ぞ知る「ヤンマーと毎月23日との関係」にもスポットを当て、浸透させる方法も模索したいという。「当社には、代名詞的キャラクター『ヤン坊マー坊』が存在します。今後のコミュニケーションにおいても、この大切なブランド資産を有効に使いたいですね。何と言っても、当社の認知度を飛躍的に高めてくれた『立役者』ですから」