顧客接点=「駅」をフル活用し、開業100周年の「お祭り感」を醸成

 二連版いっぱいに敷かれた路線図に、彩りを添えるかのような笑顔と、駅にまつわる様々なエピソードが目に留まる・・・・・・。今年開業100周年を迎えた阪急電鉄。「お客様の力によって、沿線がどんどん花開いていった。感謝の気持ちとともに、沿線の広がりと魅力を伝えたい」。そんな思いを昇華したような広告紙面が話題を呼んだ。

100周年の感謝と沿線の魅力を表現

阪急電鉄

 1910(明治43)年の箕面有馬電気軌道としての営業開始以来、発展を続ける阪急電鉄。今年開業100周年を迎えた同社は「ありがとう一世紀。これからも、ずっと一緒に。」のキャッチコピーのもと、記念キャンペーンを展開。その一環として、朝日新聞の広告紙面を飾ったのは、開業日にあたる3月10日のことだ。

 「節目にあたり、何をメッセージしようかと考えた時、お客様への感謝の気持ちは不可欠。さらに沿線がこれだけ充実していることを、改めて広く知っていただきたかったのです」と語るのは、都市交通事業本部 運輸部 調査役の浅井真純氏。広告の構成としては、見開きのワイド感を活用し、同社の全沿線・駅を展開。各駅の利用者や、ゆかりある人に、駅にまつわるエピソードを語ってもらう手法をとった。86駅すべてを網羅したというから驚きだ。「沿線の広がりを、ご利用いただくお客様に登場いただくことで表現しました。制作に相当な労力を要するとは分かっていましたが、ぜひ実現したいと思いました」。阪急電鉄が利用可能なエリアに住みながら利用していない層や、広域エリアの潜在顧客に対しても、沿線の魅力と充実ぶりを伝えられるのも、新聞広告を選択した理由だという。

 「新婚の住まいとして選び、街の飾らない気風が気に入って、金婚式を迎えた」「プラットホームからの夕焼けがきれい」など、寄せられたエピソードはどれも思いが込められ、沿線や駅周辺の魅力が等身大に伝わってくる。浅井氏は「駅や街に、お客様がこれだけ愛着を持ってくださっていたことが大きな発見」と振り返る。

 また、関西と関東の利用者では、鉄道会社への思い入れが違うのではないかと感じることもあるという。「私の出身は関東ですが、関西の方は『阪急さん』あるいは『阪神さん』というように、鉄道会社に『さん』づけをしていただくほど、生活に鉄道が根ざしていると感じます。一つの駅に複数の電鉄が乗り入れることも多い関東ではあまり考えられないこと。これからの広報・宣伝活動においても、こうしたお客様の愛着はいっそう大切にしなければ、と痛感しているところです」

2010年3月10日付 朝刊 大阪本社版

駅を活用して、「号外」によるコミュニケーション インナー意識向上という波及効果も

 またこの二連版に、同社の歴史、そして3月14日に開業する「摂津市駅」の告知を付け加え、4ページのブランケット判紙面を制作。本紙掲載と同日の3月10日の通勤・通学時間帯に、乗降の多い約50駅で利用者に「広告号外」として配布するコミュニケーションを試みた。

 当日は始発から車掌が車内放送で100周年を告知し、主要駅では100周年親善大使を務める女優の鳳蘭さんによる構内アナウンスも実施。駅や車内で利用者に100周年を感じてもらいつつ、電車を降りたホームや改札出口で広告号外を配布するという仕掛けだ。「主要駅の1つである梅田駅では、用意した3千部が15分ほどでなくなり、駅置き用にと考えていた2梱包を開封、急きょ配布にあてたほどです」と浅井氏は当日の盛況ぶりを振り返る。受け取る人からは「ありがとう」「おめでとう」など、たくさんの激励があったという。「通常、様々なサンプリングをしますが、このようなコミュニケーションが生まれたのは記憶にありません」

主要駅で従業員が広告号外を配布(写真提供:阪急電鉄) 主要駅で従業員が広告号外を配布
(写真提供:阪急電鉄)

 全駅で配布にあたったのはすべて阪急電鉄の従業員であったことも、盛況を呼んだ一因かもしれない。「別途、配布スタッフを雇いがちなところですが、自社PRを行うにあたり、従業員自らがお配りすることで、お客様にも感謝が伝わり、100周年の盛り上がりも醸成できると思いました。制服に身を包んだ駅員が『号外』を配る姿は、お客様にとっては目新しさもあったのでしょうね」。配布のため特別に割いた人員は50駅で総勢130人ほどにのぼり、ふだん利用客とあまり接することのない事務職や技術系スタッフも多く含まれた。
「勤務前や勤務後の従業員も率先して加わってくれました。担当分野が違えど、鉄道事業に携わる社員が、同じ空間で一つの目的を果たすことで、確かな一体感が生まれた機会でもありました」と浅井氏。阪急電鉄のたどった歴史や、運輸サービスに自動改札やプリペードカードの原型をいち早く取り入れたベンチャー精神、あるいは同社が取り入れた「カーボン・ニュートラル・ステーション(CO2排出量を実質的にゼロにする駅システム)」などが紹介された今回の号外。「配布にあたった従業員は皆、その内容を見ているはず。自分たちは歴史と未来を持つ会社で勤務していると再認識したのでは」と、インナー意識向上への波及効果も指摘する。

 「新聞のみなら1日で終わりますが、広告号外だとプレミアム感も手伝い、しばらくは手元に残していただけます。『お祭り感』を盛り上げるツールとして活用できたことで、新たな新聞媒体の可能性を感じました」と浅井氏。「何よりも、毎日数十万人が動く『駅』という拠点を持つ強みを、うまく生かせたキャンペーンでした」と締めくくった。
 

2010年3月10日付 広告号外 ブランケット判4ページ(以下は、フロント面・終面。中面は本紙同様)