集英社が発行する『週刊少年ジャンプ』で連載中のマンガ『ONE PIECE(ワンピース)』。この作品に登場するキャラクターたちの雄姿が、朝日新聞朝刊の9面にわたり、躍った。1968年の創刊以来、ファンのすそ野を着実に広げ、650万部を超える発行部数を記録したこともある同誌。1990年代後半からは業界全体の流れとともに部数の降下傾向が続いていたが、連載作品の充実などによってここ数年は好調に推移し、2010年の2号で300万部に復帰。広告出稿の背景には、復調を支えた読者に感謝の気持ちを届けたいとの思いがあった。
人気キャラを通じて読者に「ありがとう」
メッセンジャーとして白羽の矢が立ったのが、看板作品の『ONE PIECE』である。折しも単行本第56巻の発行時期で、発売日の12月4日に広告出稿日を合わせた。なお、同巻の発行部数は、コミックス単行本の史上最高となる285万部に達した。
「『週刊少年ジャンプ』の読者層は、10代の若者のみならず、30代、40代と幅広く、ターゲットをセグメントしたくないということで、老若男女に親しまれている新聞メディアを活用しました」とは、同社宣伝部・雑誌宣伝第1課課長の武田冬門氏。
ページを繰っていくと、5面に主人公のルフィ、6面にゾロ、8面にナミ、10面にウソップ……と、「麦わらの一味」を構成する9人が次々と現れる。紙面の端には、縦書きで情報をつづる「柱」を立て、同誌の体裁をほうふつさせる工夫も。24面では全キャラクターが勢ぞろいし、読者への感謝の言葉で締めくくった。
「時世が時世だけに、集英社、あるいは『週刊少年ジャンプ』がお祭り騒ぎをしていると誤解される懸念もありましたが、人間の心の機微をとらえた原作のいきいきとしたセリフをそのまま採用すれば、きっと届くと信じました。また、ボディーコピーも各面で書き分けました。読み込んでくれた方には、より深く刺さったのではないかと思います」
新聞広告をフックにバズを生み出す
広告出稿に先がけ、『週刊少年ジャンプ』11月30日発売号や、公式サイトのコンテンツでは、『12/4朝日新聞朝刊で何かが起こる!!』という予告を載せていた。その意図について武田氏は、「1社で同日に全15段を9面使うのは、朝日新聞としても初めての試みと聞いたので、相当のインパクトが狙えると確信し、期待感をあおりました」と話す。
狙いは当たった。掲載当日、広告を見た興奮をつづるブログがさかんにアップされたほか、SNSやツイッターなどにも書き込みが殺到。「朝日新聞がすごいことに!」「今日の新聞は永久保存版」「コンビニに朝日新聞を買いに行ったがすでに売り切れていた。どこで買える?」「ここで買えるよ」といった情報も交わされた。
「読者が目を輝かせてやり取りしている様子が伝わってきて、こういう方々に支えられているんだなぁと、感謝の気持ちでいっぱいでした。一方で、ふだんマンガを読まない高齢者からのネガティブな意見もありました。ただ、どんな形であれ声を挙げてくれたということは、気持ちの中に入り込んでいけたということなので、むしろうれしかったです」
また、武田氏は、発売当日、各書店に「本日の朝日新聞に広告が載っているので、ポスター代わりに店頭に張ってください」という内容のファクスを一斉に送ったと明かす。そうした努力もあり、単行本の売り上げは、前作を超え過去最高を記録した。
今回の広告展開は大成功だったと振り返りつつ、今後はもっとおもしろい新聞の活用法を考えるべく、ハードルを上げてしまったと武田氏は笑う。
「同じ時間帯に大勢の人が一斉に同じ紙面を見る。その共有感こそ新聞のダイナミズム。しかも今の時代は、SNSやツイッターでの意見交換を通じてよりリアルに共有感を味わうことができる。新聞はそうしたバズを生み出すのにもってこいの素材という気がします」
マンガはまだ元気がいいと言われるが、コンテンツの善しあしを峻別(しゅんべつ)する読者の目は厳しくなっており、出せば売れるという時代ではないと武田氏。
「『週刊少年ジャンプ』は、編集部が中心となり、アニメ化、映画化、ノベライズ、携帯マンガの発信など、コンテンツの魅力を立体的にアピールし、ファン層の拡大に努めています。宣伝部として、そうしたさまざまな取り組みを効果的に広める努力を続けていきたいですね」
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AD TOPICS (2009年12月4日配信ニュースリリース)
人気マンガ『ONE PIECE』第56巻発売、12/4朝日新聞を「麦わらの一味」がジャック!