しばしば日本列島を襲う寒波。寒い日はまだまだ続いている。多岐にわたる暖房器具の中で、今、小さな子どもやお年寄りのいる家庭を中心に注目を浴びているのがオイルヒーターだ。エアコンのように空気が乾燥しにくく、また本体は低温化設計されているので、やけどや出火の心配がないといったことが、人気の理由だ。
輻射熱(ふくしゃねつ)を利用したオイルヒーター
一見で分かりにくい原理や使用感をしっかり説明
そのオイルヒーターの世界的なブランドが、イタリア生まれのデロンギ。日本法人であるデロンギ・ジャパン 営業・マーケティング本部コミュニケーション担当課長の龍造寺昌信氏は、次のように解説する。
「欧米では古くから使われている暖房器具ですが、じんわりと暖めるものであるがゆえに、すきま風が多い日本家屋にはこれまで適さないと考えられ、オイルヒーターの文化が根付きませんでした。しかし最近は、機密性の高い住宅も増えてくるなど住宅事情が変わってきたこともあり、日本でもずいぶん知られるようになってきています」
たとえば、同じ「室温25度」でも、夏には暑く、冬は寒く感じる。これは、壁や床、天井などが暖まっていればその熱を人体が感じ、逆に冷え切っていると人体の熱を奪うためだ。このように、ある物体から放出され、他の物体に吸収される熱エネルギーを「輻射熱(ふくしゃねつ)」という。オイルヒーターはこの輻射熱を利用した暖房器具で、天井や壁を暖めることで、室内が均一に暖まりやすい。また、輻射熱は空気の移動に関係なく熱を伝えることができるので、空気の対流が生じず、温風による乾燥なども起きにくい。
「ストーブなどと違って急速に暖めるのではなく、じんわりと暖かくなる。エアコンのように温風が出ないし、音もしません。それがオイルヒーターの特徴で魅力でもあるのですが、パッと見たり手をかざしてみたりするだけでは分からないため、消費者にしっかりと説明する必要がある商品なのです」と龍造寺氏。これまでは、しくみや機能、使用感を、詳細に解説するカタログなどの通販を中心に展開してきたが、新しい顧客の広がりを求めて、今回、新聞広告に踏み切ったという。
11月7日、朝日新聞朝刊に全15段の全面広告を出稿した。「暖かくなる原理、商品の特徴、使用感をしっかりと説明したい。そのためには、マス媒体の中でも新聞しかないと考えました」と龍造寺氏。この紙面では、輻射熱そのものや、輻射熱を使った暖房の特徴などについて、九州大学大学院 芸術工学研究院の栃原裕教授が解説。12月20日付朝刊では、実際に同社のオイルヒーターを愛用しているタレントの早見優さんが登場し、その使い方や感想などを語った。「メーカー側が伝えたい『理論』と、使用者の『経験談』の2つの側面で情報を発信したかった」と龍造寺氏は話す。
家電店の販売員に対しても新聞広告が解説の役割を果たす
この「満を持して」のマス広告は、「予想を超える反響があった」という。「最初の広告では、『価格が載っていないので知りたい』『どこで買えるのかがわからない』といった問い合わせが多くありました。反省点ではありましたが、それだけ興味を持ってもらえた、ととらえています」と龍造寺氏。
暖房器具が本格的な商戦期を迎えるのは、平均気温が15度を下回ったころから。この冬は暖冬傾向もあり、11月になってもなかなか伸びなかったが、広告出稿後は好調に推移し、12月の売り上げは昨年の同時期を上回ったという。龍造寺氏は「新聞広告の効果だと手応えをしっかり感じています」と話す。
実際に商品を扱う販売店からも、うれしい反響が届いた。「これまでは、店頭で商品について一から説明を求められることがほとんどだったらしいのですが、広告を出してから、オイルヒーターの特徴を理解した上で売り場に足を運んでくれる人が増えた、というのです」と龍造寺氏。「販売員も説明が難しいと感じている部分があるようで、詳しく、分かりやすい解説が広告に掲載されることは、販売店からも好評です」
今後について聞くと、「あらゆる方向からオイルヒーターを“科学”していきたい」と龍造寺氏。たとえば、天井や壁を暖める輻射熱を使ったオイルヒーターは、住環境学や室内環境学といった切り口でその機能を分析できるかもしれない。また、寝室で使うユーザーが多いそうだが、寝室でオイルヒーターを使う場合と使わない場合では、睡眠の質に違いがあることも分かっているという。そうしたデータを有効に活用すれば、睡眠学でオイルヒーターを語れるだろう。
「ほかにも色々な切り口でオイルヒーターを科学的に語る広告がシリーズ化できたら、さらに多くの消費者に興味を持ってもらえるのでは」と龍造寺氏は期待を寄せる。使用者の経験談についても、様々なタイプの人に登場してもらったり、見せ方を変えたりして、新聞広告を積極的に活用していく考えだ。
「経済不況は、暖房器具のような『なくてもある程度我慢できるもの』の売り上げに、直接的な打撃になります。ましてや、オイルヒーターは、他の暖房器具と比べて決して価格が安いとは言えません。しかし、そんなときだからこそしっかりと情報発信し、ブランドや商品を認知してもらうような取り組みをしていくことが大事だと考えています」と龍造寺氏は言葉を結んだ。