雄大な自然、美食と美酒・・・・・・旅の目的別に魅力を訴求

 10月末、東京タワーの足元に、全長25メートル、幅17メートル、高さ13メートルという巨大なラグビーボールが出現した。その名も「ニュージーランド・ジャイアント・ラグビーボール・パビリオン」。2011年に同国で開催される「ラグビー・ワールドカップ」の告知と、旅行地としてのニュージーランドのプロモーションを兼ねて企画されたイベントだ。ボールの中は360度の巨大スクリーンで、来場者はニュージーランドの壮大な映像を堪能した。

アクティブシニアをメーンターゲットに新聞広告でプロモーション展開

矢島節子氏

 ニュージーランド政府観光局は、朝日新聞朝刊に同イベントの告知広告を10月17日から4回にわたって出稿。同国の魅力や楽しみ方をつづる記事体広告と、旅行会社のツアー広告も併せて掲載した。

 「ニュージーランドというと『緑の牧草地と羊たち、きれいな自然』といった漠然としたイメージしか持っていない方がまだまだ多い。今回の記事体広告では、ニュージーランドでは何ができるのかという具体的な体験・目的型旅行の提案をしました」と話すのは、ニュージーランド政府観光局マーケティング部長の矢島節子氏。咲き乱れる花々、雄大な自然の中を行くトレッキング、絶品料理とワイン、マオリ文化など、同国の魅力を美しい写真と文章で見せている。矢島氏は「読者視点で見たニュージーランドというコンセプトで、文章をきちんと読んでもらえる体裁にしました」と解説する。国内をはじめ、本国ニュージーランドからの反響は上々だという。

 昨年からの世界的な経済危機、新型インフルエンザの猛威などの影響もあって、海外旅行は低迷している。ニュージーランドも観光客数が減少し、例外ではない。だが、矢島氏は「日本人一人当たりの支出額でみると、むしろ増えているというデータもあり、日本は重要なマーケットとして力を入れています」と話す。メーンのターゲットは、時間とお金に比較的余裕があり、自然やエコなどに対する知的好奇心が旺盛なシニア層だ。同局ではこの層を「アクティブシニア」と位置づけている。これまでも新聞広告を一つの柱にすえてプロモーションを展開してきたが、その理由もこのターゲットにあるという。

 「新聞、特に朝日新聞の読者と私たちがターゲットとする層のプロフィルは重なっています。実際、朝日新聞にツアー広告を掲載するとレスポンスがいい。ウェブはある程度意思決定した人たちが情報を検索する際のメディアで、一方新聞はリーチが広く、かつ信頼性も高いメディアで、『興味を持てば検討する』というような潜在層に訴求し、需要喚起ができる力があるととらえています」(矢島氏)

2009年10月17日付 朝刊
2009年10月18日付 朝刊
2009年10月25日付 朝刊
2009年10月28日付 朝刊

クーポン広告に予想以上の反響広告効果が正しく把握できた

 これまでも効果を実感してきた新聞広告だが、今回矢島氏は「その実力を改めて知った」と話す。それが、冒頭で紹介したイベント告知だ。縦に細長い形で、東京タワーと巨大ボールの写真、同国のラグビーナショナルチーム「オールブラックス」をほうふつとさせる黒地……。大きくはない広告だが、隣の記事体広告と並ぶとメリハリがあり、インパクトのあるクリエーティブだった。

 「10月29日から6日間のイベントで、のべ約1万4,000人の来場者がありました。これは、当初の予想の倍に近い数字です。東京タワーに観光に来る方とニュージーランドがターゲットとする層にはギャップがあり、その差を埋めるために新聞広告に踏み切ったのですが、調査結果によると、東京タワーに来た“ついで”にイベントに来た方は予想以上に少なく、このイベントを目的に足を運んでくれた方々が大多数でした。また、新聞広告を見てイベントに来た方の割合が大きいこともわかりました。私たちがターゲットにしている方々に、新聞広告のメッセージがきちんと伝わり、イベントへの誘致が図れたという結果になりました」(矢島氏)

 巨大スクリーンの映像だけでなく、会場ではオールブラックスが試合前に見せるパフォーマンス、通称「ハカ」も披露された。先住民マオリの戦士が士気を高めるために歌い踊ったもので、独特の掛け声、目を見開くような表情と、その迫力に多くの来場者が魅せられていたという。「このイベントを体験してニュージーランドに行きたくなった」という声を多数聞き、その効果を実感したと矢島氏は話す。

 さらに広告にはおもしろい仕掛けが。イベント期間中、毎日先着300人にジャイアント・ラグビーボールの携帯ストラップと交換できるクーポンをつけたのだ。「クーポンは、切り取って名前とPCのメールアドレスを書いてもらう体裁でした。少し面倒でハードルが高いかな、と心配したのですが、クーポンに必要事項を記載し持参してくれた人がたくさんいました。ストラップが好評で、当初の目的だった朝早い時間帯の誘客に効果があっただけでなく、クーポンによって広告の効果も測定できた。クーポンを切り取るという手法は少し古典的かとも思いましたが、これほど正確に効果が測れるメディアなんだと改めて驚きました」(矢島氏)

 今後について聞いた。 「ニュージーランドには、小規模ながらぜいたく感のあるロッジなどが多くあります。アットホームなおもてなしで、朝は鳥のさえずりで目を覚ます。大自然の中をトレッキングしながら、フレンドリーな地元の人との出会いを楽しむ……。そんな滞在型の質の高い旅を訴求していきたいと考えています」と矢島氏。さらに今回のイベントで、日本におけるラグビー人気を実感したともいう。

 「2019年には、日本でワールドカップが開催されます。ラグビーの魅力を伝えることも、プロモーションのフックとしていければ」と矢島氏は期待を寄せた。