「生物多様性って?」というキャッチコピーのカラフルな全15段広告が、8月26日、朝日新聞全国版朝刊に掲載された。危険な状況にある生物多様性を題材に、環境問題を提起し、三井物産が保有する社有林にスポットを当てた広告だ。
生物多様性に貢献する社有林
三井物産は、全国に数多くの社有林を保有し、森林の持つ公益的機能を十分に発揮できるよう、生物多様性に配慮した森林管理を行っている。また、同社のCSR活動における社会貢献、地域貢献活動の一環として、一般の人に、間伐体験や自然観察などを通して森に触れる機会を提供しているほか、京都の「五山の送り火」や「鞍馬の火祭」に必要な薪(まき)や松明(たいまつ)の材料を社有林内から提供するなど、伝統行事の保全にも活用している。今回、社有林をテーマに広告展開した背景を、三井物産広報部編集制作室室長の白江喜実子氏に聞いた。
「三井物産では全国73カ所に、44,000ヘクタールにも及ぶ社有林『三井物産の森』を保有しています。森の中では、生物多様性の定量評価のための調査を行った際に、絶滅の危機にある生物も数多く確認されています。『三井物産の森』を100年にわたって大切に守り続けていることや、その森を生かした取り組みについてより多くの皆さんに知っていただくことによって、森を守ることの大切さについて考えていただこうと思いました」
来年は名古屋でCOP 10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開催される。
「『生物多様性』という言葉はあらゆる方面で聞かれるようになっています。しかし、実際にどれだけの人が理解しているのか、と言えば疑問です。分かっているようで、なかなかつかみにくい『生物多様性』という言葉を再度かみ砕いて、われわれと読者が一緒になって理解していこうという考えの下、今回のような記事体をベースにした広告を展開しました。そこから派生して社有林のことをより多くの人に理解していただきたいと考えました」
クロスメディアで幅広い層に訴求
今回の広告は、新聞だけではなく、『AERA』やアサヒ・コムといった、朝日新聞グループのメディアを組み合わせ、クロスメディア展開をしている。
「今回、親子や家族といった多様な読者層にメッセージが送れるようにと、新聞広告を出稿することを決めました。新聞広告を1度見ていただくだけではなく、この機会に生物多様性について掘り下げて考えていただくために、Q&A形式のクリエーティブにしました。アサヒ・コム上で詳しく解説する特設ページを設けたり、Q&Aのヒントから自社のホームページで回答を探せるようにするなど、接点を増やし、広告に接した方が、主体的に生物多様性についてあらためて考える環境を作ろうと努力しました」
アサヒ・コム上の特設ページではクイズを実施。回答するためのヒントの部分をクリックすれば、三井物産のホームページに移動するといった仕掛けがなされている。
「今回は、新聞と『AERA』にそれぞれ違うURLを記載し、どの媒体から自社ページに訪れる人が多かったかが分かる仕組みになっています。中でも、新聞は幅広い読者が接しているということもあり、掲載後1週間にわたって多くのアクセスを得ることができました。バナー広告やテキストリンクは、もともとウェブに接している人が多いということからも、さらに多くのアクセスがありました。『AERA』からのアクセス数自体は少なかったですが、『AERA』を見た、という声が取引先などから多く聞かれるなど、実際に触れられた機会は多かったように感じます。それぞれの媒体に特性があることを再認識し、結果として良いキャンペーンが展開できたと思っています」
このキャンペーンでは、社内外を問わず各方面から「広告を見た」といった反響があったという。今後の展望について、白江氏に聞いた。「今回、初めて、一つの自社資産をクロスメディアで世の中に発信することを試みました。結果として、高いレスポンスを得ることができたと考えています。ただ、毎回同じことを繰り返すのではなく、よりインタラクティブな展開にするにはどのようなクリエーティブや仕掛けが適切なのか、より広範囲にリーチさせるにはどういった媒体を用いればいいのかを検討していきたいと思っています。そして、三井物産という企業の姿勢をメッセージとして発信していければ、と考えています」