三菱電機が、8月8日付朝日新聞朝刊で二連版30段広告を展開した。「毎日のニュースのそばに、三菱電機の技術があります。」というコピーが示すように、同社の取り組みを取材した朝日新聞の記事を、過去に展開した広告写真とともに紹介。技術の先進性と事業の多様性を伝えた。
事業の幅広さを伝え、社員に誇りを
同社では、2004年から経済紙で毎月1回の企業広告シリーズを展開し、さまざまな技術を紹介。社員に向けてこれを再発信するため、2006年から毎年1回、年間12 本分の広告を同社社内報に一挙掲載している。そのたびに社員からあがるのは、「自社の事業の幅広さを改めて知った」「これだけ社会に貢献している企業で働けることを誇りに思う」といった声だった。
「複数の広告をまとめて見せた時、1本の広告のメッセージ以上のパワーが生まれると感じました。一般紙上で同じようなことができないかと考え、朝日新聞社広告局に相談しました」と語るのは、宣伝部次長の丸山亨氏。
広告局より、新聞記事と広告をセットで見せてはどうか、との提案を受けて賛同し、制作が始まった。
「記事は、広告局の担当者が膨大な量を集めてくださり、宣伝部で取捨選択しました。瞬冷凍冷蔵庫やエレベーターの最新技術など、当社が発信したプレスリリースに基づいた記事から、国立天文台のすばる望遠鏡や国際宇宙ステーションの無人補給機の活躍など、社名が一切載っていない記事まで、なるべく多岐にわたるバリエーションをそろえました」と、同部コーポレートコミュニケーショングループ専任の阿部知行氏は語る。
社員の注意喚起を第一目的とし、出稿は社内報が配られる8月上旬に定めて相乗効果を狙った。夏休み期間中ということで、子どもとじっくり眺めてもらいたいとの期待もあったという。
目に見えない技術を分かりやすく
コラージュ風にちりばめられた記事と写真は、読みごたえ、見ごたえ十分。身近な暮らしの思いがけないところで同社の技術の恩恵にあずかっていることに気づかされる。
「切り抜きの記事の形が一様でないところが、レイアウト上難しくもあり、面白くもありました。また、記事のついていない写真には、一つのニュースとして受け取ってもらえるような簡潔なコピーを添えました」(阿部氏)
社内の反響は大きく、「広告を社内や応接室に飾りたい」などという声がたくさん寄せられ、社外取締役やOBの社員からも好評を得た。「企業からの一方的なメッセージではなく、新聞記事という第三者の目線で伝えたことで、広告の奥行き、説得力が増しました。読者にとっても読む楽しみが多かったのではないかと思います」(丸山氏)。
これまで経済紙で展開してきた同社のBtoB広告は50回にのぼる。当初は素材探しにかなり苦労したそうだ。
「宇宙開発の話などは、ロマンがあるので興味を持って読んでもらえますが、ファクトリー・オートメーションなど、一般になじみのない事業の場合は、表現に大変苦労しました。また、先進的な商品や事業が無数にあっても、現場で働く社員はそれを意識しないで携わっているので、宣伝部の人間が『取りあげたい』と言うと、『広告のネタになりますか?』と疑問をぶつけてくることが多かったんです。そんな時は、『当事者にとってはあたり前のことでも、一般の人たちにとっては大きな発見なのです』と言って、社会インフラなど目に見えにくい技術に焦点を当ててきました」と、丸山氏は振り返る。
回を重ねるにつれ、広告でメッセージを発信する意義を社員全体が認識し始めるようになり、今では「この技術を取りあげてほしい」「広告になるようなすばらしい技術を開発していきたい」との雰囲気が生まれている。
「目に見えにくいビジネスだからこそ、事業の実態を分かりやすく伝えていく努力が不可欠で、何より大事にしているのは、情報の量ではなく質です。そういう意味で、メディアと一緒に知恵を出し合い、お互いの特性を最大限に引き出せた今回の広告は、かつてない試みでしたし、すばらしいコラボレーションでした。インターネットでは決してできない企画だと思います」と、丸山氏。質を追求した広告クリエーティブに今後も期待したい。
2009年8月8日 朝刊