2008年秋から週刊モーニングで連載されている人気作家・浦沢直樹氏の『ビリーバット』。単行本第1巻の発売にあたって全15段広告と五つの小型広告が6月23日朝刊に掲載された。
1949年、アメリカ。人気漫画『ビリーバットシリーズ』を描く、ケヴィン・ヤマガタのもとに、彼が描くキャラクターと同じものを以前日本で見たという情報が入る。ケヴィンはその真偽を確かめるため日本へと渡るのだが、大きな陰謀に巻き込まれていく――。
コウモリのマークに導かれるストーリー展開
講談社 コミック販売局 コミック宣伝部 部次長山本幸宏氏は『ビリーバット』の魅力について次のように語る。「コウモリのマークに導かれるように進んでいく謎が謎を呼ぶストーリー、時空を飛び越えて展開される大きな世界観が『ビリーバット』の魅力です」
宣伝のコンセプトはコウモリをあちこちに出現させ、物語の世界観を伝えることだという。JR原宿駅ホーム沿いの大型ボードに浦沢直樹氏直筆のコウモリの絵を登場させたり、JR新橋駅のガード下に複数のコウモリの落書きを出現させたりするなど、交通広告を積極的に利用した宣伝キャンペーンを展開している。一方、新聞広告では、単行本第1巻の発売を告知する全面広告の他、大きさも表情も異なる様々なコウモリを五つの小型広告で登場させ、物語の世界観を訴求した。
「『ビリーバット』は講談社が力を入れて売り出していく商品です。大がかりなキャンペーン、変わったキャンペーンをやろう、と宣伝計画を練りました。まだ、単行本第1巻の発売で、物語もスタートしたばかり。ストーリーには極力触れず、世界観が伝わるようなキャンペーンを目指しました。人気作家の浦沢氏が今度は何を始めたんだろう、と消費者に思ってもらうことが重要です。原宿駅の大型ボードは単に看板を出しただけでなく、著者の直筆にすることで、臨場感のあるクリエーティブにしています。また、新聞広告も全15段だけでなく小型広告をジャックし、新聞紙面の中をコウモリが飛び交い、話題になるような広告をつくりました。小型広告はページごとにサイズもデザインも違うので、ひとつずつ見比べてもらっても面白い広告になったと思います」と山本氏は語る。
新聞はキャンペーンの基本となるメディア
コミックの宣伝ではマス広告と首都圏の交通広告を組み合わせることが多いというが、新聞メディアの役割について、山本氏は次のように話す。
「新聞はキャンペーンの基本となるメディアだと考えています。新聞は数百万という読者に直接訴えかけられるメディアですし、全国に展開できることも大きな魅力です」
「浦沢作品の読者は、幅広い年代にわたっています。知的な謎を楽しんでくれるような好奇心の高い読者は朝日新聞に多いのではないかと考えました。また、コミックファンだけでなく、書籍を好む読者にも満足してもらえるのが浦沢作品の特徴です。日頃から出版広告の実績がある朝日新聞の読者はターゲットとなります」
今回のキャンペーンでは、書店からも大きな反響があったという。宣伝キャンペーンでは、一般の消費者だけでなく、実際にコミックの売り場を作る個々の書店に、単行本が発売されたことを印象づけることも大切だ。コウモリをデザインしたポスターやPOPを書店に配布したほか、朝刊に掲載された全面広告を増し刷りして店頭ポスターとして活用してもらったという。
「おかげさまで単行本の売れ行きは好調です。それは著者と作品の力によるところが大きいとは思いますが、広告もその一端を担えたのではないかと考えています」
今後の広告展開について山本氏に尋ねた。「物語の進行次第ですが、第2巻もコウモリに導かれるままにストーリーが進んでいくはずです。今回のキャンペーンで読者にもコウモリのイメージが浸透したと思いますが、まだまだ物語はスタートしたばかり。第2巻が発売されるときが次の広告展開のチャンスなので、読者の期待感を盛り上げるようなキャンペーンをしていきたいですね」
D:海野一雄 ロゴ&D:黒木香+ベイブリッジ・スタジオ
(C)浦沢直樹 ストーリー共同制作 長崎尚志 / 講談社 モーニング