子どもがスペースいっぱいにクレヨンで書いたような、色鮮やかな二連版30段広告が、6月13日の朝日新聞を飾った。全日本空輸が、「飛ぶ夏、イイ夏、ANA」と題した「空の旅」の需要喚起策として展開している「ANA 夏の大作戦」と称した広告だ。
逆風の中からのキャンペーン立案
夏休みにあたる7月から9月は、例年帰省や旅行の増加に伴って、航空業界では需要が大きくふくらむ時期。「夏の大作戦」と銘打った今回のキャンペーンについて、同社営業推進本部宣伝部の稲田 剛氏に聞いた。
「このキャンペーンは、今年の4月から企画を開始したのですが、昨年からの不況やゴールデンウイーク前からの新型インフルエンザの流行で、旅行に行くというムード自体がトーンダウンするというような逆風下にありました。しかし、こういった状況だからこそ、我々が前向きにキャンペーンを打ち出していかなくては、という論議が社内であり、今回の『夏の大作戦』というキャンペーンにつながりました。」
今回のキャンペーンでは、国内線や国際線の運賃、子ども向けのサービスといったサービス紹介にとどまらず、旅行会社(JTB、近畿日本ツーリスト、日本旅行、ANAセールス等)とのタイアップも行っている。「旅行会社に専用のパッケージを作ってもらい、紙面で一緒に紹介することで、旅行業界全体を盛り上げることを意図しました。幅広い年齢層の方々に商品を知っていただき、自分に合った旅行を計画して下さればと思います」一人でも多くの人に実際に動いてもらい、世の中の停滞感を打破していこうという思いをこめ、豊富なメニューを取りそろえた。
掲載された紙面は、「夏の大作戦 フルラインアップ」と位置づけられている。第1弾から「作戦はまだまだ続きます」というコピーをかかげ、メニューの豊富さをアピールしてきた。今回の紙面で、第1弾から第6弾までの総まとめを行い、さらに詳しい情報はウェブに誘導して伝えるという方法をとっている。テレビ、ウェブ、OOH、旅行会社店頭と連動させ、「夏の大作戦」のロゴに様々な場所で接触する状況をつくった。
2009年6月13日付 朝刊
リアルなコミュニケーションと体験の創作
新聞広告に期待したこととして、稲田氏は次のように語る。「『夏の大作戦』というタイトルを考えたとき、家族で作戦会議をするシーンを思い浮かべました。例えば、週末に家族が紙面をテーブルに広げて、作戦会議を行うというようなものです。家族でプランを考える段階を、まずは旅行の第一歩ととらえ、新聞広告を『作戦書』として用いることを考えました。また、新聞広告は読者が内容をしっかり理解してくれる可能性が高いので、新聞広告を通して詳細を伝えようというのも、出稿した狙いの一つです」
この広告は「夏の大作戦」という名のとおり、子どもからシニアまで、誰もが見て楽しく、わくわくする豊富なメニューを紹介している。これらを両立させながら、情報を整理して伝えることに難しさがあったという。旅行の計画を立てる6月、作戦会議を開くには家族が集まりやすい土曜日への出稿を選んだ。ゴールデンウイーク明けから始まったこのキャンペーンの効果もあり、6月から新規の予約も徐々に戻ってきた。ここにきて、「人」と「物」が動き始めるというような期待感も感じているという。
今後の広告展開について、稲田氏に展望を尋ねた。「企業では不景気のために出張を控え、家庭でも新型インフルエンザの影響によって旅行を控えるというムードが今はあります。この現状を打破することが大事だと考えています。また、企業においては、メールやテレビ会議などに代表されるバーチャルなコミュニケーションが現在多く行われています。家庭でも、子どもがインターネットやゲーム、テレビを見て過ごす時間が増えています。しかし、face to faceで話すこと、旅行で現地に行って、自分で見たり触れたりすることの重要性が薄れたわけではありません。こうしたバーチャルなコミュニケーションとリアルなコミュニケーションのバランスをとっていくことが重要だと考えています。我々の立場から、リアルなコミュニケーションやリアルな体験の重要性をメッセージとして発信していければ、と考えています」