繊細なイラストの世界観で読者の感性を刺激
古く明治の時代から、独自の洋菓子文化を築いてきた阪神間には様々な洋菓子ブランドが名を連ね、そこに住む人たちは「スイーツ」に対しての確かな審美眼を持ち合わせている。そんな環境下において、常に根強い支持を得ているブランドが「アンリ・シャルパンティエ」だ。今年創業40周年を迎えた同ブランドは、3月26日~4月1日の7日間にわたり小型広告を、そして創業日の4月2日には全15段広告を、それぞれ朝日新聞朝刊に掲載。洗練された都会的なイラストタッチで表現されたその世界観に、これまでにない反響が得られたという。クールアース マーケティング室の広部直子氏に、出稿の背景を聞いた。
既存トーンとは異なる「アンリのある生活」をテーマに
「フランス菓子の本物のおいしさ」を追求するアンリ・シャルパンティエは、アッシュ・セー・クレアシオンが展開する洋菓子ブランドの一つで、関東・中部・関西の百貨店を中心に40以上の店舗を構える。クールアースは、そのブランドマネジメントや商品開発を主目的として1999年に設立された。これまで、飛行機の機内誌や女性誌などで広告を掲載してきたが、新聞媒体を活用した今回のような大規模な広告出稿は前例がなかったという。
「アンリ・シャルパンティエが阪神芦屋駅前に第1号店を出店して今年で40年。新聞広告を使って何か記念になることを、という思いはありました。大きな節目ですから、商品の告知よりも、日ごろお世話になっている百貨店へ、そして何よりもご愛顧いただいているお客様へのお礼をメッセージに込めたいと考えました」と広部氏。
アンリシャルパンティ
具体的には、創業日(4月2日)の1週間前から、社会面の小型広告で予告的にメッセージを発信。創業日には全15段広告を掲載した。小型広告では、現在の芦屋本店や銀座本店、そして研究所を構えるフランス・パリなど、同ブランドにゆかりのあるシーンをバックにしたイラストに、同ブランドのロゴ、そして周年を表す「40」の数字と、小型広告は必要最小限の要素で構成された。
「『最近、決まった場所に「40」とだけ書かれた広告が載っている』と、それとなく感じてもらえることを小型広告一連の役割としました。そして4月2日、創業40周年を告げる全面広告で『こういうことだったのか』と自然につながり、アンリ・シャルパンティエからの感謝の気持ちを伝えられれば、というねらいです」
イラストの女性に同ブランドのロゴが入ったショッパー(紙袋)をさりげなく持たせたこともポイントだ。「関西には、当ブランドのショッパーを普段の小物入れとしてお使いいただく方もおられます。これまで他媒体で掲載した広告は、洋菓子の高級感を前面に出すトーンが多かったのですが、洋菓子は本来、生活の身近にあるもの。今までの広告とはまた違うトーンで『日常の中のアンリ・シャルパンティエ』を表現できたのでは」と振り返る。そして創業日の4月2日には、全15段のサイズメリットを生かした一枚の作品のようなイラストを、感謝のメッセージとともに展開。創業当時の芦屋本店を、当時の写真をもとに描きおこし、写真では表現できないアングルから印象的なシーンを切り取ることができた。
感受性にも訴えかける新聞広告
出稿後は、想像を上回る問い合わせが相次いだ。「あのイラストが、ポストカードになりませんか?といった内容をはじめ、ブログで今回の広告を話題に取り上げた人も。ある人からは、今回の新聞広告の絵柄を生かしてペーパーバッグを作りました、と写真をお送りいただきました。編集記事などでも当ブランドを取り上げていただくと、そのつど反響はあるのですが、今回の広告の比ではありません。社始まって以来の反響でした」と広部氏は話す。
「新聞は読み込み、理解するための媒体である一方、このようなイメージ寄りの構成でも、しっかりと感受性に訴えかけられる媒体であることを再認識しました。また、媒体によっては、繰り返しメッセージを伝えなければ受け手の心をつかめないものもありますが、今回のような全15段ならではの強力なメッセージ伝達力も奏功したと思います」。メーンターゲットである女性からの意見や反響が多かったことにも、手ごたえを感じているという。
新聞が持つ特性としてさらに挙げられるのは、「やはりメディアへの信頼感」だと広部氏。「『おいしいを、手から手へ。』というスローガンを掲げているように、洋菓子作りをパティシエから販売員、そしてお客様への『手のリレー』としてとらえ、食材へのこだわりやトレーサビリティーを、胸を張ってアピールできるのも全社的な強み。こういった社会的なメッセージを伝える際、新聞はとても強い武器になり得ます。ちゃんとやっていれば誰かが気づく、という奥ゆかしい職人気質的な雰囲気がある集団ですが、今後はこういったアピールにも、どんどん取り組んでいきたいですね」と広部氏は結んだ。