驚きと納得でビジネスモデルを伝える広告展開
西友は、2008年11月から「KYでいこう!」キャンペーンを実施している。11月13日に掲載した「KYでいこう!」というキャッチフレーズをかかげた 広告を皮切りに、12月4日には、西友津田沼パルコ店と、同エリアの他スーパーの店舗のレシートとを比較した広告を掲載した。今回のキャンペーンの背景や意図を、マーケティング本部バイス・プレジデントの富永朋信氏に聞いた。
低価格路線の訴求
西友はかつて、西武百貨店を始めとしたセゾングループの中核企業だった。高付加価値のものを感度の高い消費者に提供するという方針で、消費者にもその認識が根付いていた。2005年から米国最大の小売チェーンであるウォルマートの子会社 となり、同社の低価格路線のビジネスモデル「エブリデイ、ロープライス」(EDLP)に方向転換した。
「高付加価値路線から低価格路線への変換は、マーケティング的にも珍しい事例。お客様には、安く商品を提供する、事実ありきの正攻法のアプローチを続けてきました。しかし、高付加価値路線のイメージが払拭(ふっしょく)できず、消費者に安さの事実が伝わっていないというジレンマがありました」と富永氏。EDLPをいかに消費者に伝えるか考えた時、今回のキャンペーンになったという。
西友は基本的には特売などをせず、1回の買い物のトータル額、「バスケットプライス」が安いことを目指している。「毎日の買い物で、チラシを見比べ店選びをする手間をなくし、消費者を買い物のストレスから解放するためです。無駄な出費を減らし、生活の質をあげる『セーブマネー、リブ ベター』は、ウォルマートの創業者サム・ウォルトンの理念でもあります」と富永氏。
ところで、「安い」というメッセージは多くの小売チェーンが伝えていること。生半可な表現では、あまたある広告メッセージの中に埋没してしまう。新聞広告という媒体特性も考慮しながら導き出したポイントがここにあるという。
「一つめは、えらそうにしないこと。新聞広告だとポリシー宣言のように堅くなりがちですが、お客様目線に立ちメッセージを共有することが大切です。二つめは、『びっくり、納得』。広告は、まず意識を引き付けることが肝。しかし、びっくりだ けでなく、納得もさせたい。そのために数字などできちんと説明したいと考えます。三つめは、正しいより、おもしろい。やはりおもしろくないと、人は見ないですよね」と富永氏。
この3つのポイントに、「安い」を掛け算する方程式で、今回の広告クリエーティブが決まった。
「価格」「安く」の頭文字として使われた「KY」という言葉には、かつては負のイメージがあった。しかし最近では「わが道を行く」とか「愛すべき」という好意的な意味合いに変わってきたと考えたという。一般的な形容詞として認知されてきたタイミングで、かつ論議をかもす「びっくり」のアテンションとなる言葉として採用された。
レシートを用いた比較広告は、欧米ではよく見かけるが、日本では少ない。「タブーに挑戦することでも『びっくり』を創出しました。内容を読めば、客観的な正しい情報であることもわかります。『KY』で消費者の意識を引き、心にさざめきを起こし、レシート比較で納得感を与える、というロジックです」と富永氏。レシートでの合計額は、バスケットプライスで安い、ということの立証でもある。
新聞広告だからできること
媒体特性と消費者の接触態度から、今回の展開では新聞広告が最適と考えたという。
「ファクトベースで伝えたいと思いました。EDLPと地域最安値の保障は、ビジネスモデルや数字にかかわる問題。それらをしっかり伝えられるメディアは新聞広告が他を圧倒しています。一方、そうは言ってもターゲットとなる主婦がきちんと新聞広告を見てくれるのかという課題もありました」
その課題は、前述のクリエーティブで解決し、反響はかたちになって表れた。
「実際に客足は伸びました。キャンペーンを始めた月から毎月連続して客数は数パーセント伸びています。広告でフィーチャーしている日用品などで特に顕著です。これは広告メッセージがきちんと伝わったということ」と富永氏。
キャンペーンの今後の展望についてをうかがった。
「今は伝えようと思ったことが伝わった『はじまり』の段階。EDLPにのっとり、お客様を買い物の制約から解放するための仕組みをつくり、それを伝えるためのコミュニケーションを続けていきます」と富永氏は結んだ。
(鈴木)