島耕作の社長就任を現実世界でアピール
講談社『週刊モーニング』で1983年に連載が開始された弘兼憲史氏作の「課長 島耕作」。サラリーマンの現実をリアルに描いた物語は今なお不動の人気を誇っている。団塊世代の主人公は、92年に部長、02年に取締役、05年に常務、06年に専務に出世。今年5月29日発売の号から、いよいよ「社長 島耕作」がスタートした。
漫画の主人公が新聞で“持論”を展開
「島耕作はこれまでも何度か出世の節目がありましたが、やはり社長は特別ということで、編集部を中心に社内の各セクションがアイデアを出し合い、お祝いムードを盛り上げました」とは、コミック販売局・コミック宣伝部部長の藤田政則氏。
記念の出版企画としては、社長までの道のりを完全収録した「弘兼憲史叢書(そうしょ) 島耕作全集」を刊行。掲載誌上では、ローソン、東京電力、三菱自動車など各社の社長と弘兼憲史氏との対談シリーズを掲載。さらに、『イブニング』や女性向けコミック『The デザート』など、他誌の人気漫画の作品に島社長がゲスト出演する特別企画を実施。また、携帯サイトでも「島耕作特集」を展開した。
キャンペーンに華を添えたのは、新連載開始の前日に催された”社長就任会見”だ。バーチャルな漫画の主人公が現実世界の記者やタレントの前で企業の抱負を語るという趣向で、会場は本物の社長会見さながらの活気に包まれた。
「当社ではかつて『あしたのジョー』の登場人物、力石徹の葬儀が行われたことがありますが、架空のキャラクターがリアルなイベントをやるのはそれ以来。島耕作の物語は、バブル時代に始まり、不況とリストラ、会社のアジア進出など、常に現実の世界とリンクしながら展開されてきました。それだけに世の中の関心は高かったようです」
それを証明するかのように、会場には実在の企業トップから届いた祝いの花束がズラリ。また、漫画の登場人物からの花束も来場者の目を楽しませた。
そして新連載開始当日、朝日新聞紙上で全15段の広告特集を展開。土曜beの「フロントランナー」の体裁そのままに、“初芝五洋ホールディングス社長 島耕作”が企業の未来を語った。
「単なる告知というよりは、前日の就任式を受けたストーリーを展開したいと考えていました。でもまさか朝日新聞の既存の編集ページにかなり近い体裁で掲載できるとは。社会性の強い漫画だからこそ実現できた企画だったと思います。ただし、記者会見の内容もそうでしたが、実在の企業のビジョンになり得るものでないと不まじめだと取られかねないので、そこは細心の注意を払いました」
代わりに広告特集内の“突き出し広告”で遊び心をきかせた。広告主はバー「鬼やんま」。主人公に深くかかわる登場人物の店だ。「作品を知っている人はクスッと笑え、知らない人には『物語と関連がありそう、どんな関連だろう』と興味を持ってもらえるようなスペースになればと考えました」
仕掛けた以上の反響に驚き
キャンペーンの成果は、掲載誌の売り上げ増という明らかな数字として現れた。また、就任会見の様子は、全国紙、スポーツ紙、産業紙、ニュースやワイドショーなど様々なメディアで取り上げられた。6月25日には高橋克典主演のドラマスペシャル「課長 島耕作」が日本テレビ系で放送され、新しい読者層獲得の可能性を広げた。
「連載開始は25年も前で、最初の頃は読んでいたけれど途中で離れてしまった、という読者もいると思います。章立てが変わることによってそうした方々がもう一度読み始めるきっかけになることを期待しています。また、就任式にも出席されたタレントの中川翔子さんが『島耕作の大ファン』とおっしゃっていましたが、意外と若い女性たちにも読まれている漫画なので、さらに裾野が広がってくれたらうれしいですね」
キャンペーンを通して藤田氏が一番驚いたのは、相次ぐ”共演依頼”だったという。就任の”乾杯式”に際してはサントリーが協賛。同社商品「ザ・プレミアム・モルツ」の広告にも島社長が登場した。また、文化放送は、阿久悠氏の1周忌を前に、「DJ島耕作」が往年の名曲を紹介する特別番組を企画。島社長がリスナーの質問や悩み相談にこたえるコーナーまで設けた。また、『週刊朝日』は、衆院議員・麻生太郎氏と島耕作とのスペシャル対談を掲載。握手を交わす二人が表紙を飾った。
「漫画、日本経済、団塊世代など、いろんな切り口があるので取り上げやすかったのだと思いますが、これほど社会的に派生していく力を持った作品は極めてまれだと思います」と藤田氏。面白くても新刊本などに押され書店でよい棚を確保できない連載作品もある中、「そうした作品をもり立てる起爆剤にしていきたい」と締めくくった。
サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」が 「社長 島耕作」とタイアップ