分社化を機にブランドを構築 第一弾はCSR広告

多彩な事業をシリーズで紹介 グループ全体のブランド力を強化

 JTBは、2006年4月に分社化、新たな経営体制をスタートさせた。その背景には、IT産業の発展や規制緩和による新興ビジネスの参入、人口比率の変化、国民のコスト意識の高まり、海外旅行の一般化など、従来のビジネスモデルでは対応できない環境の変化がある。分社化により、エリア性と専門性を追求したサービスの提供が実現し、グループ会社は150社にのぼる。その一方で、全社が共有するスローガン「Your Global Lifestyle Partner」を掲げ、グループ間の意思統一を徹底し、ブランド強化に注力している。

一般紙を利用したBtoCのメッセージ

津秋慎一氏 津秋慎一氏

 旅行会社の中でダントツの知名度を誇り、広告活動も活発に展開してきた同社。だが、意外にも本格的なブランドコミュニケーションは分社化後が初めて。

 「従来のコミュニケーションは、ルックJTB、エースJTBなど、旅行商品のアピールが主体でした。しかし今後は企業の顔を明快に打ち出す必要があります。分社化しても、お客様に触れるサービスの一切はJTBという看板を背負っています。なかには旅行事業の枠を超えた活動もあり、ブランディングを通して様々なニーズに対応できる総合力を印象づけ、競争の激しい市場での差別化をはかりたいとの思いがありました」とは、広報室マネジャーの津秋慎一氏。

 コミュニケーションツールの中心は新聞広告だ。分社化した2006年は、一般紙を利用しBtoB広告を展開、グループの中でも専門性の高い事業を紹介。2007年にはBtoC広告を開始。第一弾として、7月から10月にかけ、月1回のペースで「あしたのために、できることJTB for your tomorrow」シリーズを展開した。

 「JTBというと、カウンターでツアーや交通の手配をしてもらう会社、といったイメージが強いのですが、実際は、法人向けのコンサルティング、グローバルなイベントの運営、教育事業、社会貢献事業など、活動は多彩です。ブランドコミュニケーションでは、その多様性を知らせていくことが大きな狙い。今回のシリーズ広告もその一環で、主に地域貢献活動に焦点を当てました」

社会貢献活動の継続性をアピール

 7月は「シニアサマーカレッジ」。地方の国立大学と提携し、向学心旺盛なシニアを対象に学びの場を提供する取り組みだ。8月は「杜(もり)の賑(にぎわ)い」。1982年に始まり、全国各地の伝統文化・芸能の保護育成、若者たちへの芸術支援などに寄与しているJTBオリジナルイベントである。

 9月は「クリーンアップキャンペーン」。1985年に始まった環境保護活動無料ツアーで、観光地の清掃、植樹、稚魚放流を始め、自然解説、歴史解説など地域の特性を生かしたプログラムを実施。

 10月は「旅行文化講演会」。1983年に開始、旅をテーマに著名人が講演。毎回300~700名の観客を動員し、300回の実績を持つ。

 「CSRへの人々の意識は急激に高まっており、お客様に向けたブランド戦略は最優先にそのことを伝えました。あまり知られていないからこそ実績を強調し、時代に流されて付け焼き刃でやっている活動ではないことを印象づけました」

 過去から現在、さらに未来へとつながる矢印のようにも見えるビジュアル。それが暗示するように、今後もずっと継続していく取り組みだという。シニアの生涯学習、地域貢献、環境保護、旅行文化交流と、社会の関心事と合致した内容であったために、反響は大きかった。

 「圧倒的に多かったのは、『JTBがこうした活動をやっていると全く知らなかった』との意見でした。さらに、『20年以上も地道な社会貢献をやっていることに好感を持った』という声や、『次の機会はいつですか』といった具体的な問い合わせもありました」

 ブランド構築に新聞広告を利用した理由は以下の通り。「単に商品の事情だけを告知するのではなく、社会的なメッセージにしたいと考えた時に、テレビCMやネット広告ではなく新聞だ、という結論に至りました。新聞はニュースが記事面に載った時の反応が大きく、とりわけ朝日新聞の反響はすごい。シニアサマーカレッジは天声人語で取り上げられ、予想を超える反響があった。そうした記事との親和性から見ても、新聞広告の利用価値は大きいと思っています」

 今後は、積極的にイメージ調査なども行い、コミュニケーションプランを立てていきたいと津秋氏。

 「ブランド戦略は始まったばかり。株式非上場である当社は、上場企業並みに情報をガラス張りにし、実態や等身大の姿を見ていただくことが企業のイメージアップにつながると信じています。格安旅行人気やネットを介した自己手配の普及により、旅行業界の勢力図はここ10年で大きく変わり、そうした中で確固たる存在価値を築いていくべく、努力していきます」

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