クローズド懸賞を軸にキャンペーン広告を集中掲載

鮮烈な色のインパクトと巧みなコピーを柔軟に併用

 2007年は、日タイ修好条約が締結されて120周年にあたる、両国にとって記念すべき年だ。

 川辺巌氏 川辺巌氏

 バンコクには2006年9月、新東京国際空港の約3倍の広さを誇る「ワンナプーム国際空港」が正式開港。いまタイは国内観光客の集客のみならず、東アジアの行動拠点の座を着々と狙っている。

 タイ王国のナショナル・フラッグシップ、タイ国際航空は、アジアブームを追い風に幅広い世代の観光客を呼び込もうと、例年以上に精力的なPR活動を展開した。

 特に冬季のオフシーズンにあたる10~11月には、バンコク路線の利用客を対象に、航空券や商品券を抽選でプレゼントするクローズド懸賞を実施。キャラクターに、知的で活動的なイメージでエキゾチックな容貌(ようぼう)をもつ山本モナさんを起用した、力の入ったキャンペーンである。

募集要項を確実に読ませる

 朝日新聞においては15段カラー広告を皮切りに、集中的に広告を掲載。読者に強いインパクトを与えた。その紙面の鮮烈な色遣いと、情報を簡潔にまとめた紙面と呼応するように、同社日本地区マーケティング部の川辺巌部長は新聞広告の目的を「タイ国際航空にお乗りいただくお客様を増やすこと」と単刀直入に語る。

 「これだけセールスに密着した形のキャンぺーンは、私どもとしては初めての試みでした。例年のPR活動では雑誌を使った旅案内的な記事広告が多いですが、今回は広くマスに向けて、確実に応募要項をお伝えできるメディアであることが必須条件でした。そこで新聞が主体となりました」

 旅行業のマーケットは老若男女を問わないが、川辺氏は「特にシニア世代が重要なターゲット」という。

 「インターネットの普及率が高まったとはいえ、依然としてご年配の方々には、新聞が身近な文字情報としてのツールです」

 限られた予算の中でこだわったのは、「スタートはカラー15段から」(川辺氏)という出だしのインパクトの演出だ。鮮やかな色が重なり合う、エスニックで洗練された紙面イメージは、後日掲載された2回のモノクロ5段広告を見た読者の心の中で、再び想起される強さをもつ。

印刷媒体がもつ文字の力を駆使

 またタイ国際航空では、55歳以上を対象とした新運賃「TG55バリュータイランド」を実施している。運賃を前面に、シニア向けの本格的なプロモーションを行ったことは、業界でも大きな話題となった。「TG55バリュータイランド」と前出の冬のキャンペーンは別の位置づけであるが、両キャンペーンにおいて新聞広告を継続する形で掲載したことにより、「結果として連動性と、タイ国際航空に対するお客様の認知が高まったのではないか」と川辺氏はいう。

 冬のキャンペーンのビジュアルとは対照的に、こちらの紙面はコピーワークの妙が勝負どころとなっている。紙面を開いた時、読者は「茂さん、和子さん、」という意外な呼びかけに反応し、やがてそれが今年55歳の昭和27年生まれの男性と女性にもっとも多い名前だということを理解する。たとえ読者が茂さんや和子さんでなかったとしても、今風とはいえないその言葉の響きや字面は、団塊世代前後の層に「自分たちへの呼びかけ」と受け入れられるだろう。

 2007年9月12日付 朝刊
 2007年10月30日付、11月8日付 朝刊
 2007年9月19日付、10月10日付 夕刊

海外旅行に好反応な読者層

 「広告表現は『ターゲット層が明確に伝わり、旅のシズル感があること』というこだわりがありました」と、川辺氏は制作の経緯を明かす。常道であればシニアモデルを起用し、タイの美しい風景などを背景に撮影した写真を使うところだ。しかし川辺氏は、本社サイドの方針を受け止めながら、巧みなコピーとイラストで3段スペースを雄弁に使った。

 「写真を使わなかったのはコストの問題もありましたが、私自身が新聞の読ませる魅力やタイポグラフィーが好きだということもありました。また、紙面では運賃の安さを訴求していますが、実は航空チケットというのは、『何日までに予約しなくてはならない』とか、『何日間の滞在まで使える』といった、使い勝手も重要な要素です。この広告は、価格をひとつのきっかけにして、お客様に私どものサイトに来ていただくことも大きな目的です。そうすれば、『様々なタイプのチケットがあることをご理解いただき、お客様それぞれのニーズに合うチケットが購入できる』といった、タイ国際航空の使いやすさに気づいていただけると思いました」

 マスをターゲットに新聞を使ったことの効果を、川辺氏は「期待通り」と評価する。冬のキャンペーンの応募総数は、最終的に全体で約2万人、新聞からの応募だけで約1万人と、このようなクローズド懸賞としては異例の高い数字が出そうだという。

 「どちらの広告も幅広い世代から問い合わせがある中で、シニア層からの反応がよいのがひとつの特徴です。そのレスポンスのよさは、シニア層に新聞が読まれているという理由だけでないと思います。朝日新聞の読者に海外旅行を楽しまれる、心にも経済的にも余裕のあるかたが多いという証しでもあるでしょう」