日清食品ホールディングスは、漫才日本一決定戦「M-1グランプリ2016」に協賛し、優勝者への副賞として「日清のどん兵衛」のパッケージを飾ってもらう権利を贈呈した。単にパッケージに優勝者の顔写真を入れると思いきや、実は「どん」の文字部分が優勝者の人文字になるという展開で話題となった。その特別版のパッケージと人文字で、新聞広告も制作。2016年12月13日付の朝日新聞朝刊にお祝い広告として掲載した。
ブランドイメージを若返らせる若年層向けのアプローチ
日清のどん兵衛は、1976年に誕生した和風カップ麺のブランドだ。「きつねうどん」と「天ぷらそば」は発売初年からあるロングセラー商品で、2016年で40周年を迎えた。プロモーション戦略においては、2015年から若年層向けのアプローチを強化しているという。その狙いについて、日清食品ホールディングス 宣伝部 係長の安武雅之氏は次のように語る。
「日清のどん兵衛は50年、100年と続いていくブランドを目指しています。そのためには、老若男女、幅広い層から支持されることが必要です。これまでは、主に「味わい」を訴求し、うどんやそばが好きな層には伝わったと判断しています。ただ、『カップヌードル』や『日清焼そばU.F.O.』などと比べると、日清のどん兵衛は和風麺ということもあり、やや年配が好むイメージが強かった。そこで、ブランドイメージの若返りを図るために、若年層に向けてもプロモーションを展開することにしました」
2015年10月から始まった新CMには、加山雄三氏と佐藤健氏を起用。全編モノクロームで構成される本格的な時代劇をコミカルなストーリーで展開し、現代を生きる若者に「どんばれ!」というエールを発信している。ほかにも「10分どん兵衛」をはじめ、「どんばれぼっちクリスマス」「どんばれンタイン」など、ユニークなプロモーションをウェブで展開。どれもSNSで拡散され、若者を中心に大きな話題となった。そうした流れをくんで、「M-1グランプリ2016」の副賞もこれまでにない内容にしようと考えたという。
「2015年もM-1グランプリには協賛していました。その年の副賞は、10種類の日清のどん兵衛を10年分プレゼントするというものでした。ただ、それだけでは優勝者が決まって目録を渡す瞬間しか盛り上がらない。2016年はユニークなプロモーションを次々と仕掛けて、『最近、日清のどん兵衛は面白い』と認知されてきていたので、副賞としてプレゼントするだけでは、何だか物足りなく感じたんです。M-1グランプリというお笑いの真剣勝負の場にふさわしく、これまでにはない面白い企画で盛り上げるために、どうしたらいいかを考えました。その結果、優勝したコンビにパッケージを飾ってもらう権利を贈呈し、限定で発売するという企画が生まれました。さらに、単にパッケージに写真を入れるだけでは面白みに欠けるので、優勝コンビを『M-1のどん』としてたたえ、どん兵衛の『どん』を人文字で表現する、という内容で展開することも決まりました」
情報をタイムリーに発信して話題性を高める
準決勝、決勝、そして決勝後も話題が継続するように、情報を発信するタイミングと内容に気を配ったという。まず、準決勝のタイミングで副賞について発表。その時点では「優勝者がパッケージを飾る」ことと「商品化して発売する」という内容に留め、人文字になるという情報はふせておいた。プレスリリースには、人物の写真が入るイメージ図を『実際の商品とは異なります』という注釈入りで掲載した。
きつねうどん 特別パッケージ)
実際の副賞の内容は、M-1グランプリの決勝が行われた翌日の朝、12月5日に配信。優勝者の銀シャリの2人が全身タイツ姿で「どん」という文字になったパッケージ画像をプレスリリースに掲載した。銀シャリにも撮影現場で「人文字になってパッケージを飾る」ことを告げ、「まさか文字になるとは。イメージと違う!」と驚く様子や撮影の模様も記録し、特設サイトで公開した。
「一番苦労したことは、スケジュール調整です。決勝当日の12月4日に優勝者が決まったら、その夜にスタジオで『どん』という文字を撮影し、翌朝にはプレスリリースを配信。8日には特別パッケージのどん兵衛の予約を開始し、13日には新聞広告を掲載というスケジュールでした。さらに、ひらがなの50音をすべて人文字で作り、特設サイトで文章を入力すると銀シャリの人文字に変換される『どんもじメーカー』も13日から公開。その告知も新聞広告で行うことが決まっていました。すべての企画をタイムリーに遂行させるために、綿密な計画を立てていたのですが、当日の夜になるまで誰が優勝するか分からない。そのため、決勝に残った芸人さん全員の、当日の夜のスケジュールを確認させていただきました」
人文字の読みやすさにもこだわった。人文字を撮影したら、すぐに新聞広告のデザインや「どんもじメーカー」のシステムを構築する必要があり、写真をレタッチで加工する時間がとれない。「そのため文字は基本的に一発撮り。銀シャリのお2人には体をひねって無理な体勢をしてもらったりしながら、読みやすい文字を目指しました」
2016年12月13日付 朝刊1.8MB
新聞広告は、全15段を表裏2ページに掲載。「どん」の人文字で飾ったパッケージデザインを大きく配した全15段の広告をめくると、人文字だけでつづったメッセージが現れる仕掛けだ。全15段という大きな紙面だからこそ、銀シャリの2人の顔の表情が文字によって異なることに気づかせることもできた。新聞広告を活用した理由について、安武氏は次のように話す。「M-1グランプリというテレビ番組への協賛だったので、マスメディアを巻き込んだプロモーションを検討しました。13日はプレスリリースを発行せず、新聞広告がその役目を果たしています。人文字を使った企画だったので、読むメディアである新聞との相性もいいと考えました。これまでのウェブを使ったプロモーションとは違った切り口で挑戦したい、という意図もありました。朝日新聞は、面白いものを作りたいという私たちの思いを理解し、積極的にチャレンジもしてくれる。だから、既存の広告の枠を超えられると感じています」
日清のどん兵衛をはじめ、日清食品の広告はユニークで世間をにぎわすものが多い。その理由は、楽しい気分で食べて欲しい、という食品メーカーとしての思いがあるという。
「日清食品グループでは大切にしている四つの思考があり、その一つが『Happy』。同じ食べ物でもゆかいな気分のときと悲しい気分のときでは、おいしさの感じ方が違いますよね。私たちの広告を見て楽しい気分になってもらうことが本望です」と安武氏は締めくくった。
3つのポイント
(1)新聞社に期待したこと
これまでウェブを中心にプロモーションをしてきたが、今回は新聞というマスメディアを巻き込む展開で、これまでの戦略との違いを図った。
(2)朝日新聞のイメージ
面白い広告を作りたい、という私たちの思いを理解し、積極的にチャレンジしてくれるイメージがある。
(3)コミュニケーション上の課題・注目している手法
日清のどん兵衛は、ブランドイメージの若返りを図るため、若年層向けのアプローチを強化している。情報をタイミングよくスピーディーに発信することで、話題性を高めている。