新聞広告からツイッター、YouTubeへと、共感の連鎖が生まれる

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そごう・西武では2016年から、樹木希林さんを起用したファッションキャンペーンや企業広告を展開しています。新聞広告で発信した「年齢を脱ぐ。冒険を着る。」とのメッセージが、幅広い層の共感を呼んでSNSで拡散。それによってYouTubeの動画再生回数も急増するなど、理想的な循環が生まれました。

歳を重ねるごとに輝きを増す、大人の女性へのエール

船場俊行氏

 かつて斬新なクリエーティブで広告文化を牽引(けんいん)していた西武百貨店。そのDNAを受け継ぐそごう・西武が、新たな挑戦を始めている。

 斬新なファッションに身を包んだ樹木希林さんが、年齢や常識、世間体など気にせず、自由なファッション、自分らしい生き方を楽しもう、と投げかける。そんなメッセージ性の強い広告キャンペーンを、2016年9月から展開している。そごう・西武 百貨店事業部商品・企画本部販売促進部長の船場俊行氏は、この取り組みに込めた思いを次のように語る。

 「主要な顧客である50代以上の女性たちが、新しいファッションや生き方に前向きに挑戦していけるようなメッセージを発信したいと常々思っていました。その一環として実施した、50代以上のニューヨークの女性たちの写真展も大好評でした。日本の女性にも、いくつになっても自分らしく装い、自分らしく生きてほしい。また歳を重ねるごとに輝きを増す大人の女性を応援したい。そのような思いを込めて展開したのが、昨年秋に実施したファッションキャンペーン、『アドバンスト モード』です」

 OOHや朝日新聞に掲載した全15段広告、YouTubeの動画には、斬新な衣装に身を包んだ希林さんが登場。「窮屈な常識は、もういらない。あなたはもっと、個性的であっていい。それが派手でも、大胆であっても、堂々と着たい服を着る。」との言葉に、「凜としたメッセージが素晴らしかった」「こういう思想がもっと広がればいい」と、共感の声がソーシャル上に広がった。予想に反して、20〜30代など若い層からの反響も大きかった。

 今年の正月には、このコンセプトを昇華させ、インナープロモーションも狙った企業広告「わたしは、私。」キャンペーンを実施。こちらも前回同様、希林さんを起用した全15段新聞広告とYouTubeの動画で展開した。新聞による企業広告は約20年ぶりというが、なぜ今、企業メッセージを発信する場として新聞を選んだのか。

 「最近は紙媒体やマスメディアの力がかつてより落ちていると言われますが、社会的信用の高い新聞は、私どもが企業メッセージを発信するうえで欠かせません。実際、その効果は絶大なものがありました。お客様から『新聞広告を見た』『すばらしい広告だった』との声をいただき、『久しぶりにうちの会社のメッセージ広告を見て元気が出た』と社員のモチベーションアップにもつながりました」

希林さんのメッセージへの共感がソーシャルメディアで拡散

 このキャンペーンで興味深かったのが、昨年9月に新聞広告を出稿したあと、しばらく落ち着いていたYouTubeの再生回数が10月末に突然、急増したことだ。美術ライターの橋本麻里さんが新聞のコラムでこの広告をとりあげ、それを契機に改めてツイッターで拡散され、再生回数の急増につながったことが分かったという。

 「私どものメッセージに共感して書かれた新聞記事に共感した方が、さらにSNSで広めてくれる、というよい循環が生まれました。これは希林さんを起用したクリエーティブの力も大きいと思います。広告を見た人の多くは、あのメッセージを希林さんの言葉としてとらえたのでしょう。希林さんでなかったら、あそこまで多くの方に共感していただけなかったと思います」

 「あの人は特別だから」と受け止められることなく、個性的でありながら万人から愛され、親しみやすい希林さんの存在が、このキャンペーンの成否を分けたといえるだろう。

 新聞という報道メディアを広告媒体として使ったことで、メッセージがより客観的に伝わった面もある。すぐれたクリエーティブとメッセージが多くの共感を集め、ソーシャルメディアで拡散した好例だ。一方で企業によるソーシャルメディアでの情報発信には炎上リスクもあり、多くの企業が試行錯誤を繰り返しているのが現状だ。

 そごう・西武でも、フェイスブックやツイッター、LINE、インスタグラムなどのアカウントを運営している。昨年から、全国19店舗の販促担当者に権限を委譲し、各エリアに特化したかたちでソーシャルメディアを運営する戦略にシフトした。それにより、本部を中心に運営していたときよりリツイート数が増えるなど、より良い反応が得られるケースも増えてきたという。またフォロワー数の多いインスタグラマーに商品を開発してもらい、それをその人のフォロワーにだけ販売するといった新しい試みも始めている。

 「昨今、ネット上のコミュニケーションの不安定な部分が露呈しています。しかし大きな流れとしては、今後もこうしたコミュニケーションの勢いは増し、広告がよりパーソナライズされたものになっていくことは間違いないでしょう。今後は、マスメディアとネットコミュニケーションをどのような配分でどう使い分けていくかが、ますます問われます。今回のキャンペーンで改めて痛感したのは、人々の心に強く響き、共感してもらえるコンテンツをいかにつくるか、ということ。これからも流行に左右されることなく、本質を大切にしたコミュニケーションに取り組んでいきたいですね」と船場氏は締めくくった。

2016年9月1日付 朝刊1.3MB
2017年1月1日付 朝刊1.3MB