キリンビールは、サッカー日本代表チームが2018年ワールドカップ(W杯)ロシア大会への出場を決めた、翌日(2017年9月1日)付の朝日新聞朝刊で、スポーツ面に全10段2連版広告を掲載した。試合結果を反映した「状況対応型」の広告で、勝利を祝うメッセージを発信。企業としてのスポーツ支援とブランド訴求が一体となった「総力戦」で、テレビCMなどと連携した初の試みにチャレンジした。
話題を一過性に留めない、紙面での強いメッセージ
2017年9月1日付 朝刊3.6MB
8月31日夜、埼玉スタジアムで行われたアジアワールドカップ最終予選。日本代表はW杯出場を決めた。列島が喚起に沸いた翌日、朝日新聞朝刊のセンターページを飾ったのは、試合結果を伝える編集記事とキリンビールの全10段2連版広告。サムライブルーに染まった紙面が、冷めやらぬ興奮を伝えた。
注目の一戦に向けて、キリンビールは全国5会場で計1千人規模のパプリックビューイングを開催した。試合を生中継した番組では、勝利の直後にパプリックビューイング会場から試合結果連動ライブCM「勝利の祝杯」篇を中継し放送した。キリンビールのCM出演タレント、元日本代表選手らが、サポーターと「一番搾り」で祝杯をあげる光景が、SNSでも話題になった。そして、翌9月1日の新聞広告が決定的なインパクトを与えた。
テレビも新聞も、日本代表の勝利を反映した内容。試合結果に連動した「状況対応型」の広告を複数のメディアで展開するという、前代未聞の試みだった。マーケティング部 メディアグループリーダー 主務の波多野潤氏は、次のように語る。
「通常なら、試合当日の紙面で応援メッセージを載せますよね。でも、勝ったら決まるという、日本中が応援する大一番。我々もパートナーとして応援できる立場にありました。キリンとして何ができるのかを考えた末、『世の中ゴト』にしようと思いました。『キリンはここまで日本代表を応援しているんだな』と、世の中を驚かせたいというところから始まりました」
当初は、テレビだけで状況対応型CMを模索していたが、新聞広告でも状況対応型にトライすることになった。「試合に勝てば、直後のCMで『キリンが面白いことをやっている』とバズるはず。その熱の冷めないうちに、勝った時だけのメッセージが朝刊にあると、話題が一過性のものにならずに数日間続くのではないかと考え、キリングループ一丸となって取り組むことになりました」と波多野氏は話す。
試合の翌週には、同社のフラッグシップであるビール「一番搾り」のリニューアルによる、大規模な広告展開を控えていた。ティザーCMが放映されるタイミングで、サッカーとブランドをひもづけた広告を出稿する意義は大きい。試合に勝利した際の「新・一番搾りで乾杯!」というメッセージを打ち出した。
過去の試合に出場した14人の選手が並んだ広告は、「一番搾り」の商品写真と乾杯の言葉で締めくくる構成になっている。編集記事と広告の一体感が増し、「相乗効果とインパクトのある紙面になりました」
社外からの反響は大きかったが、波多野氏が驚いたのは社内からの反応だ。経験したことのない好感触に「紙面を通じて、社内の雰囲気やモチベーションがいい方向に盛り上がりました」と話す。
新聞の新しい可能性を引き出したい
サッカーの応援活動は、キリングループにとって事業の軸の一つだ。その歴史は1978年にさかのぼり、FIFA公認の国際Aマッチ「キリンカップサッカー」や、「キリンチャレンジカップ」に特別協賛。2015年からはキリンビール、キリンビバレッジ、飲料事業を管理するキリンの3社が、各カテゴリーの日本代表チームの「オフィシャルパートナー」を務めている。
代表チームを使用したコミュニケーション活動は、企業広告や商品パッケージなどで展開されてきた。一方で、「サッカーを応援する」と「商品を売る」の2つの事業軸が交わる機会は少なかった。キリンのサッカー担当者とキリンビールのブランド担当者の連携により、「新・一番搾りで乾杯!」のメッセージで、応援活動とブランドを結びつけることに成功した。
「勝った瞬間に『世の中ゴト』になるような広告の仕掛けができるのは、サッカー日本代表を応援している我々です。それにあらためて気づかされました」と波多野氏は振り返る。
「新聞の記事は基本的には、その日にしか掲載されません。そのピンポイントのタイミングで我々も積極的に活用していくことで、『世の中ゴト』にしていくことができる。そのことを実感して、他にもチャンスはあると思いましたし、『新聞って、こんなことができるんだ』という使い方がまだまだあるはずです。新聞の新しい可能性を引き出していきたいですね」
2018年には、W杯の本大会が待ち受ける。「本当の大勝負。ここで仕掛けないわけにはいきません。もっと世の中がワクワクするような仕掛けにチャレンジしていきたい。その一役を新聞が担うのは確かだと思います」
3つのポイント
◆新聞社に期待したこと
新聞の特性は「伝えきる」ということ。読者が好きなだけ見つめることができるので、インパクトやメッセージ性が大切。勝負をかけるタイミングでは、積極的に活用していきたい。
◆朝日新聞のイメージ
企業の本気度を伝えることができるメディア。広告を出稿することで、ある程度のリーチが取れると思っている。サッカー日本代表チームについては、朝日新聞がサポーティングカンパニーとして一緒に応援している点も大きい。
◆コミュニケーション上の課題
サッカー日本代表のオフィシャルパートナーという資産や優位性を、完全に生かしきれてないという課題があった。今回の広告で、「世の中ゴト」になる仕掛けができるという気づきがあり、まずは一歩踏み出せた。今後も新聞などメディアの使い方を模索していきたい。