空港に降り立つ若い家族。男の子が駆け寄る先には、濃紺の愛車で迎えにきた「じいじい」の姿がーー。
作家・椎名誠さんのエッセー「大事なお迎え」の一場面。アメリカから帰国した息子一家と愛車メルセデスとともに過ごす新しい日々が、心温まる物語としてつづられている。これは、9月2日付朝日新聞朝刊に掲載されたヤナセの広告だ。
2017年9月2日付 朝刊1.1MB
「クルマのある人生」の豊かさを表現
「当社はメーカーではなく販売店として、安心安全にカーライフを楽しんでいただくためのサポートを提供しています。今回、クルマのある暮らしや人生を支え続けたいという当社の企業姿勢を、新聞広告を使って伝えることができないかと考えました」
ヤナセ広報宣伝室宣伝課課長の石渡雅夫氏は、出稿のねらいをそう説明する。
どのような形が良いかを思案する中、椎名さんがメルセデス・ベンツに乗っていたことを知り、「クルマのある人生」をテーマにした書き下ろしエッセーを依頼し、今回の企画が実現した。
これまで純広の出稿はあったが、こうした読み物の広告は同社にとって初めての試み。石渡氏は「どんなコミュニケーションができるか、読者からどんな反応があるのか。トライアルでもありました」と振り返る。
結果は、想像をはるかに超える反響だった。J-MONITORの調査では、男女問わず全世代から「好感が持てた」と高く支持された。中でも、20代、30代の若年層からの反響が大きかったことは、「予想していなかった」と石渡氏は驚きを隠さない。
「若年層のクルマ離れが進んでいますし、輸入車は高額なので若い人にはなじみが薄く、当然、販売店である当社の認知も低い。それが今回の広告をきっかけに『ヤナセに興味を持った』とのコメントも。『クルマがほしくなった』といううれしい声もありました」
クルマ離れが進む若年層に響いた
さらに、「HPを見たくなった」というスコアが、純広を出稿した際に比べ3倍にも跳ね上がった。「クルマに関心がある人だけでなく、椎名さんのエッセーを入り口に幅広い読者に広告が届き、共感を呼んだのではと見ています」(石渡氏)
下5段には純広を掲載。この車は「1956年式メルセデス・ベンツ 180」だ。実際にお客様から現役の状態で寄贈してもらい、大事にメンテナンスしている。ブルーとイエローの「YANASE」のロゴステッカーが貼られたリアウィンドーの写真とともに、同社が提供するカーサポートへの思いがつづられる。同社が販売したすべてのクルマに貼られているというこのステッカーは、1972年から始まった取り組みで、先代社長が「このステッカーが貼られているクルマが故障などで困っているのを見かけたら、すぐに手助けできるように」と考案したという。まさに、同社が大切にするきめ細やかなサポートの象徴だ。
「エッセーには『ヤナセ』の社名は一切出てきませんが、広告全体で当社の企業姿勢をお伝えし、少しでも『メルセデスといえばヤナセ』という印象が残せたらと考えました。しっかりと見て、読んでもらえる新聞だからできた表現だと思っています」(石渡氏)
メルセデス・ベンツの購買者層は40~60代の会社経営者や役員などが多く、朝日新聞の読者層と一致することも大きいが、今回は20代、30代の「将来のオーナー」にも届いたことは大きな収穫だったようだ。
「年齢とキャリアを重ね、家族を持ってクルマの購入を考えたとき、頭の片隅にでも今回の広告が残っていて、当社の名前を思い出してもらえたら。それだけでも十分効果はあったと確信しています」
椎名さんのエッセーは続編を期待する声も多いという。現時点で具体的な予定はないが、「今回の広告で学んだことは多かった」と石渡氏。最後にこう意気込みを語った。
「純広が直球だとすると、今回は変化球と言えるかも。直球があるからこそ変化球が生きると思っています。今後も今回のような形も視野に入れ、読者の皆さんに届くコミュニケーションを展開していく考えです」
【3つのポイント】
◆新聞社に期待したこと
活字媒体が置かれている状況は厳しいが、日本において新聞は非常に信頼度の高いメディアで、なくてはならない存在。新しい読者を開拓するなど読者層や部数を増やす策を考え、これからも頑張ってほしい。
◆朝日新聞のイメージ
オピニオンリーダーの印象がある。また、メルセデスの購買層と朝日新聞の読者層には共通点が多いと見ている。
◆コミュニケーション上の課題
メルセデスの日本における正規ディーラーは当社を含め複数社ある。その中で選ばれるために「ヤナセ」という社名と企業姿勢を、いかに伝えていくかが課題ととらえている。