Jマダムの楽しさを発信する10周年記念パーティを開催
集英社の『エクラ』は、10年前に50歳前後(アラフィー)の女性をターゲットに創刊された。3年前に就任した佐藤真穂編集長が最初に感じたのは、この雑誌が対象とする女性像が見えにくいということだった。
「1冊の雑誌には、編集長が考える女性像が端的に表れます。それまで30歳前後(アラサー)向けの雑誌をつくってきた私には、同じようにこの年代のすてきな女性像をどこに置くか考えようとしたのですが、他のメディアを見渡しても、どこも示せていない気がしました。だったらまずは『エクラ』が、そのようなすてきなアラフィーの女性像をつくろう、と思ったのです」
そして50歳前後のすてきな女性を「Jマダム」と名づけた。パリやミラノではすてきな女性は年齢に関係なくマダムと呼ばれる。その日本版である。様々な流行を経験し、モノを選ぶ目を持ち、成熟しながらも若々しい女性たち。そんなJマダムに向けた情報を、『エクラ』で積極的に発信してきた。
「実際のアラフィー女性は『経験とお金を持った女子大生』といった感じで、とてもアクティブなのに、世の中のイメージはシニアの手前といった捉え方にとどまっているようでした。その印象を変えたいと強く思ったのです」
2017年11月にはマンダリンオリエンタル東京で、10周年イベント「Jマダムパーティ」を開催。100名の招待に1,176名が応募する人気ぶりだった。当日は、女優の真矢みきさんと雑誌のカバーモデルを務める富岡佳子さんのトークショー、ファッションショーなどで盛り上がった。
「いわば『エクラ』がそのままイベントになったような感じでした。Jマダム世代が着飾って出かけられて、同世代と楽しめるイベントはあまりありません。読者もこのパーティで自分と似たような人と出会え、この世代の楽しさを確認し、共感し合える場所となったようです。クライアントからも、『こんなにもはつらつとした読者が多いとは意外でした』『この世代はみなさん若々しくて楽しそうですね』といった声を多くいただきました」
イベントの告知と運営を朝日新聞社に依頼したのは、読者が世代的に紙媒体と相性がいいからだ。「うちの読者はコンビニより圧倒的に書店で買っています。そこで広告も中づりはやらず、新聞広告を中心に展開してきました。イベントもJマダムという言葉をフックに、幅広い層に認知を広げたいと思い、朝日新聞の力を借りることにしました」
ブログやSNSも活用し読者が共感できる雑誌へ
『エクラ』では華組という読者モデルが、ブログやSNSなどでお気に入りのアイテムやライフスタイルなどを積極的に発信している。読者にとって身近で、共感しやすい華組は、まさに雑誌と自分たちをつなぐ存在である。
「この世代はこれまでネットやSNSに比較的弱い人が多かったのですが、最近になってブログやインスタを上手に使う人が現れてきました。今後、これらのツールはアラフィーが当たり前に使うようになるでしょう。『エクラ』では、インスタのハッシュタグで自分のおしゃれな写真を投稿してもらい、すてきな人にはスナップ特集に登場してもらったりもしています」
雑誌と連動したウェブを活用したコミュニティーとして「チームJマダム」も運営している。こちらはメンバー100人が特定の話題に対して投稿したり、悩みを寄せたり、また様々なアンケートに答えたりするなどして、読者のリアルな生活に寄り添った企画づくりに反映させている。
佐藤編集長はJマダムという言葉で新しい女性像を打ち出すことで、アラフィー女性の心の奥にあった欲求や期待を顕在化することに最も心を砕いているという。「若い頃のようにもっとおしゃれを、日々の暮らしを楽しんでいいんだ」と読者の背中を押し、読者とともに、Jマダムのムーブメントをつくりあげてきた。
「うれしいことに、昨年の春くらいからJマダムが満足できる洋服をつくる、同世代のデザイナーによるブランドがたくさん出てきています。若い人と同じような感覚のおしゃれな服でありながら、素材は上質なものを使い、胸の位置や肩周りのパターンなどはアラフィー女性に合わせてつくられています。いよいよこの世代をターゲットにしたマーケットが生まれ、動き出したと感じています」
そのようなアラフィー女性向けのオリジナル商品も扱う公式通販サイト「エクラプレミアム」は2016年、2017年と過去最高売り上げを更新。年間売り上げ10億円を超えている。
最後に佐藤編集長に、企業が消費者との共感を生み出すうえでのポイントを聞いた。
「企業が消費者の共感を得ることはもちろん大事ですが、消費者にもいろいろな人がいるので、その思いをくみ取ることは実はとても難しい。10人の女性がいれば、10人まったく考え方も価値観もセンスも違います。でもその10人にも薄く共通するところが必ずある。そこをうまくつかみとることが大事です。雑誌づくりでは、良い意味での編集長による独断、『こうありたい』と思う強い信念が必要です。私にとっては、アラフィーをもっと生き生きとした世代として輝いていることを世の中に示したいという思いがそれ。ボトムアップでは、結果的に読者から共感を得る雑誌はつくれないと思っています」
「女性誌は一人の女性のようなもの」と佐藤編集長は言う。一人の女性の喜びや楽しみ、驚きや悩み。そんな人間としての息づかいを感じ、寄り添い、元気づける。そういったメッセージを、『エクラ』はこれからも様々な形で発信し続けていく。