10年以上前からサステナブルな商品調達を実施
約300のグループ企業が13カ国で事業を展開するイオンでは、早くからグローバル基準のサステナブル経営を掲げ、実践してきた。とりわけサプライチェーンとしての社会的責任を果たすべく、持続可能な調達においては、日本でも先駆的な取り組みを行ってきた。
「2000年ごろ、日本の鯨食が問題視され、アメリカのグループ会社が国際的なNGO団体から抗議を受けたことがあります。鯨は国際的な枠組みにのっとり適法に調達したものでしたが、それを契機に、NGOなどとも話し合いながら、ともにより良い社会を目指そうとの機運が社内に生まれました。そして日本でサステナブルという言葉がまだ知られていなかった時代に、持続可能な調達を考え、実践するようになりました。とくに日本は世界でも屈指の魚食文化をもつ国として、50年後、100年後も子孫が魚を食べられる世界をつくる責任があると考えました」とイオン 執行役 環境・社会貢献・PR・IR担当の三宅 香氏は語る。
2006年には、持続可能で社会的責任のある方法で漁獲された天然水産物であることを示す「MSC認証」商品の販売を業界に先駆けて開始。 2014年には、環境や社会に配慮した養殖場で生産された水産物であることを示す「ASC認証」商品の販売を、アジアの小売業で初めて手掛けた。
「欧米と比べ日本では、『サステナブルな商品を買うことで社会を変える』といった意識がまだ消費者に定着していません。私どもは店舗などで『MSC』や『ASC』の商品の意義を伝えてきましたが、社会全体にもっと大きく理解を広げる必要性を感じていました」(三宅氏)
そんなイオンの地道な取り組みの追い風となっているのが、SDGsだ。
「SDGsは、各所で行われている持続可能な取り組みを、分かりやすく整理したものと捉えています。向き合うべき社会課題が明瞭で、消費者とのコミュニケーションツールとしても、とても便利なものだと思っています」(三宅氏)
2年後の東京オリンピック・パラリンピックでもSDGsの推進が目指されている。開催に伴う物品の調達は持続可能なかたちで行うことが義務づけられ、持続可能な調達や認証制度への理解を広げる好機となる。イオンでもこの機会に自社の取り組みを発信し、社会にサステナブル消費の機運を広げることが重要だと考えた。
社会の機運に合わせて複数メディアで情報発信
そこで6月8日の「世界海洋デー」に、朝日新聞グループのメディアと店舗イベントを連携させたキャンペーンを展開することにした。まずは林修さんが、様々な社会のキーワードを講義形式で分かりやすく解説する朝日新聞のシリーズ広告企画「おしえて 林先生!」に出稿し、海を守ることとSDGsの関係、二つの認証制度を取り上げた。
『MSC』『ASC』についてはそれなりの分量の文章でしっかり伝える必要がありますが、普通に記事にしてもあまり読んでもらえません。今回は社会的な関心が高まっている『SDGs』をキーワードに、テレビでおなじみの林先生が講義をするというスタイルによって、多くの読者に関心をもって読んでもらうことができました」(三宅氏)
記事体広告下の純広告には、MSC やASCについてさらに詳しく紹介するサイトへ誘導するQRコードを掲載。これによりサイトへの流入は、前週比の3、4倍に増えた。純広に写真を載せた塩さばとサーモンの売り上げもその後、大きく伸びている。
7月26日には幕張のイオンモール店頭で、子どもたちが「未来の海について考える」体験・学習イベントを開催。子ども記者がその様子を取材し、オリジナルの新聞をつくった。さらにこのイベントをリポートする朝日小学生新聞の広告特集をポスター化し、全国約5,000の小学校に配布。約300万人の小学生や先生に届けた。
持続可能な社会を築くには、未来を担う子どもたちへの啓発活動が不可欠です。最近のお子さんは環境への意識が高く、未来の海を守る取り組みについて、真剣に学んでくれました。朝日小学生新聞と組むことで、普段、子どもたちが家族と買い物に訪れる店舗を生きた教育の場にすることができ、とても有意義な企画でした」(三宅氏)
さらに9月に放映のBS朝日の情報エンターテインメント番組「わかるわかるch」では、養殖場や店舗のロケを交え、イオンの取り組みを紹介。「今回の企画で改めて強く感じたのが、新聞をイベントやウェブ、テレビなどとうまく連動させることで、大きな相乗効果を得ることができるということです」(三宅氏)
イオンではSDGsという言葉が生まれる前から、本業の小売りを通して地域の課題に向き合ってきた。例えば災害が起きる度に、復興支援に力を注ぐとともに、店舗を防災拠点として使えるよう整備を進めてきた。6月に、朝日新聞の広告特集で紹介した防災への取り組みは、そのままSDGsの持続可能な地域づくりにつながるものだ。
「私どもは昨年、農産物、畜産物、水産物、紙・パルプ・木材、パーム油についての2020年に向けた持続可能な調達方針と目標を制定し、発表しました。今後、より一層サステナブルな経営を強化していきます。日本の企業はまだまだ、自分たちのビジネスが社会全体、地球にとってどのような影響を与えるか、といった視点からの情報発信が少ない気がします。東京オリンピック・パラリンピックに向け、SDGsという言葉が大きなムーブメントを生み出している今、私たちの取り組みをグループとして積極的に発信していくことが、ますます重要だと感じています」(三宅氏)