インパクトある広告展開でブランディング 大学のアイデンティティーを構築

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毎年ユニークな正月広告が話題を呼んでいる近畿大学。今年は台風で近大マグロ350匹が逃げ出した不運を逆手に、国際学部や宇宙マグロプロジェクトをさりげなくPR。新たに決定した体育会の公式マスコットやスローガン、ユニホームを披露し、挑戦を続ける大学の姿勢を発信しました。

毎年恒例の正月広告 大学の心意気を示す場として活用

 2019年度の一般入試の志願者数も15万人を超え、6年連続で日本一(出典:大学通信調べ)となった近畿大学。その背景には、近大マグロに代表される高い研究力や、教育環境の充実などに加えて、マスメディアを巻き込んだブランド戦略がある。

 毎年1月3日には、恒例の全面広告を出稿。今年は、公募で決定した体育会の公式マスコット「KINDAI BIG BLUE」が初披露された。近大マグロをモチーフにしたマスコットは自らを、夏の台風でいけすから逃げ出し、紆余曲折の末戻ってきたという「出戻りマグロ」と名乗り登場。16年に新設された国際学部や、宇宙マグロプロジェクトなど大学の魅力をさりげなくPRしながら、流暢な関西弁で自己紹介する紙面は注目を集めた。

2019年1月3日付 朝刊 511KB

 「近大マグロが逃げ出したことがニュースになり、ネットでは『中退マグロ』と言われるなど話題になったので、世間がそのニュースを忘れないうちに、と今回の広告の方向性が決まりました」と話すのは近畿大学 広報室室長の加藤公代氏。じっくりと紙面を読む読者が多い正月広告は、ブランドイメージを訴求する場として最適だという。

 「近大の広告は、単純に志願者増を狙うような告知を目的としていないので、時間にゆとりがあり、じっくり新聞を読む読者が多い1月3日は出稿にベストな日だと感じています。新年ということもあり、毎年この日には大学の心意気や、今年の目標を所信表明として発表しています」

 17年、「アンダーアーマー」を展開するドーム社と包括連携協定を結び、18年には大学カラーの青を基調にした新ユニホームを製作、体育会の統一ロゴも新しく設定した近大。統一チーム名を「KINDAI BIG BLUE」、スローガンを「ATTACK THE WAVE」と定め、新たな改革をスタートさせている。

 「関西は関東に比べて、まだまだ大学スポーツがメジャーではありません。実際、近大でも試合観戦に行く一般学生は非常に少なく、スポーツに関する先進的な取り組みを他の大学に先駆けてやっていきたいという思いがありました。これまで大学スポーツに縁のなかった学生も含めた一体感を作り出していくにあたって、統一ロゴや洗練されたユニホームなどメディアの力は大きいと感じたんです。今年の正月広告は、そういった最近の近大の取り組みをお知らせする場としました」

理解力が高い新聞読者 意図が伝わる手ごたえを実感

 他大学とは一線を画すセンセーショナルな広告を展開し、世間をあっと言わせ続けてきた近大。昨年11月には、大阪の人気テーマパークを彷彿とさせるインパクト大なビジュアルに、ユニバーシティを「ユニバ」と略したコピーが目をひく全面広告を展開。多方面から大きな反響があったという。

2018年11月1日付 朝刊 748KB

 「本当にたくさんの声をいただきました。同じ内容で交通広告も打ち出したのですが、交通広告は歩きながらパッと目にするだけの人が多く、ユニバ=ユニバーシティだということがなかなか伝わらなかったように思います。一方、新聞では我々の意図をしっかり読み取って下さる方が多かった。やはり手元でじっくり見ることができるというのは大きいです。特に朝日新聞の読者は、物ごとをよく理解し、紙面をしっかり読み込む方が多いように感じています」

 新聞広告は「日常で目にする最大サイズの紙」だと言う加藤氏。

 「新聞の全面広告というのは、縦向きで写真を撮影したときにスマホの画面と比率が合うんですよね。そのため、良いと思った広告を撮影してSNSにアップしてくれる人が多いのではないかと思っています。そういった二次的な広がりもあるので、新聞広告に関しては、毎回期待を上回る反響があり、ブランドイメージ構築の手ごたえを感じています。また、広告を起点に世の中の皆さんとコミュニケーションを図りたい、という私たちの思いがかなえられている実感もあります」

18歳人口減少時代の中 大学の価値とは何か考える

 25年には100周年を迎える近大。 18歳人口の減少は免れることができない時代の中、どのような展望を考えているのだろう。

 「ターゲットの年齢を変えることができない大学という立場としては、苦しい時代には違いありません。そういった時代の中では、やはり大学のブランド力を上げ、たくさんの人に共感してもらうということが何よりも重要だと考えています。100周年を迎える25年はちょうど大阪・関西万博が開催される年でもありますし、関西の中での価値を高め、『大阪の大学と言えば近大』と認識してもらえるようになっていきたい」

 広告に関西弁を使うのにも理由がある。

 「大阪の大学としての存在感を高めたいのです。決して他の大学にはまねできない、東京に打って出たとしてもアイデンティティーを感じるような大学というのを意識しています」

 学生が、「この大学に入りたい」と思う動機はそれぞれだが、実際にオープンキャンパスに来て雰囲気にほれ込むというのは非常に大きな理由になる。

加藤公代氏

 「昔は実際にキャンパスを見学したり、在学生と話すような機会は少なく、漠然とした憧れで大学を選ぶ人が多かったと思います。けれど今はオープンキャンパスに参加して志望校を選ぶ学生が大半です。そのため私たちは、オープンキャンパスに来てくれた学生に、いかに近大の魅力を伝えるかということに力を入れています。近大マグロや24時間利用可能な自習室など、他の大学にはないものをPRし、絶対にここに通いたくなるような仕組みを作りました。

 一方で、入学したものの近大は第一志望じゃなかったという学生も必ずいます。そういった学生に、どれだけ付加価値をつけてあげられるかということも大切だと感じています」

 近大では毎年ド派手な入学式も話題。OBであるつんく♂氏プロデュースのもとサプライズゲストを招くなど、他の大学にはない演出で華々しく学生を歓迎する。

 「一生に一度の入学式。近大は、夢や目標を持った学生はもちろん、不本意な入学となってしまった学生にも、『この大学なら何かやれるんじゃないか』という気持ちになってもらいたいという願いを込めて入学式を行っています。愛校心を持って充実した学生生活を送ってもらうことができれば、卒業後の活躍にもつながっていきますし、そうすれば結果的に大学の価値も上がっていく。私たちはそんな風に考えています」