社会とつながり、人をむすぶ。共感を広げ、複雑な時代の期待に応える

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京都産業大学は創立50周年に合わせて新グランドデザイン「神山(こうやま)STYLE2030」を策定。将来にわたって“選ばれる大学”であり続けようと、さまざまな改革を推進しています。コミュニケーション活動では「社会とのつながり」や「共感」を重視。「社会を担って立つ人材の育成」で、時代の期待に応えていく方針です。

新グランドデザインを策定 「建学の精神」の原点に戻る

増村尚人氏 京都産業大学 広報部課長補佐
増村尚人氏

 京都産業大学は京都市北区の緑豊かな広大なキャンパスに、文系・理系の10学部が一つに集まり、約1万4000人が学ぶ総合大学だ。1965(昭和40)年に天文学・宇宙物理学者の荒木俊馬氏が創立。「大学の使命は、将来の社会を担って立つ人材の育成にある」との建学の精神のもと、産業界と連携し、国内外を問わず活躍できる人材の育成に力を注いできた。

 広報部課長補佐の増村尚人氏は「創立の頃は、大学が企業と連携することはまだまだ少なく、いま振り返ればとても先駆的だったように感じ ます。企業や社会に向けて、大学が新しい価値をいかに提供できるかが問われる現代。荒木が提唱した建学の精神を受け継いでいく重要性がさらに増していると考えています」と話す。

 「社会を担って立つ人材の育成」。生き続ける大学のアイデンティティーは、創立50周年の2015(平成27)年に策定された新グランドデザイン「神山(こうやま)STYLE2030」で、より明確に打ち出された。気候、経済、情報などの環境が地球規模で目まぐるしく変化し、少子高齢化や東京への一極集中など複雑な課題が出現する中、 これからも“選ばれる大学”であり続けるために、今後、どんな大学像をめざすのか。その答えとして導き出したワードが「むすんで、うみだす。」だった。「荒木は、産業を『むすびわざ』と読み解きました。私たちは創立の原点に立ち戻り、人と人、学問と社会、京都と日本、世界の諸地域をむすび、社会に新たな価値をうみだすとの思いを強くしています」と増村氏。

 大学では新グランドデザインの中で、広報戦略も見直し、社会とのコミュニケーションを重視した展開によって、大学のブランド力の向上を図るとの基本ビジョンを打ち出した。コミュニケーションの基盤となるのは、スローガンでもある「むすんで、うみだす。」の考え方。京都産業大学が、学問と社会、企業、自然などさ まざまな分野をむすび、これからの社会を担って立つ人材をうみだす大学であることを、短期的な“認知”に求めるのでなく、継続的な“理解”を促進する方向に力点を移した。

増村尚人氏

 大学の広報と言えば、従来は著名な教授や、成果を上げた学生を前面に出すケースが少なくなく、京都産業大学もそのような時期もあった。しかし、ツイッターやフェイスブックなどのSNSを精査するうちに、世間の反応が年々鈍くなっており、情報洪水の中で、受け手が直接的な表現を敬遠し、思うようにメッセージが届いていないのではないかと疑念を感じるようになった。増村氏は「広報を進める上で、いま最も大切にしなければならないのが、押し売りではなく共感だと考えています。大学が最も大切にしているものを、多様な表現で発信しなければならないと痛感しています」と気を引き締める。

 「本学では2007年から、『自然・人間・社会とこれらの調和的発展のための科学と技術の創造』を理念に掲げ、教育・研究活動に取り組んでいます。この理念はまさに、SDGsにそのままつながるものです。持続的な社会を築いていくうえで科学技術は不可欠であり、そのための教育・研究にこれからも尽力していきます」

シリーズ広告に創設者の思い 時代の要請に共感で応える

 朝日新聞朝刊に、2019年8月31日、9月15日、9月28日の3回シリーズで掲載された「星をむすぶ物語」は、共感を大切にする大学の姿勢が表れたコミュニケーション活動の一つだ。大学創設から間もない40数年前、荒木氏のもとに届いた中学2年の少女からの手紙に関するエピソードを3話続けて小説仕立てで紹介。荒木氏が著した「大宇宙の旅」を読み、天文学に興味を持った女子中学生と荒木氏の心温まる手紙のやりとりが、ロマンチックな世界観と筆致で人気のかとうれいさんのイラストとともに、彩り豊かに紙面で展開した。

2019年8月31日付 朝刊 全5段 969KB

2019年9月15日付 朝刊 全5段 988KB

2019年9月28日付 朝刊 全5段 910KB

 「少女の姿は、世界は知りたいことに満ち、学びは多様な世界に目を向け、興味を持つことから始まる、との創始者の思いに通じます」と増村氏。今年8月には欧州宇宙機関を中心とした国際プロジェクトとして、京都産業大学と宇宙航空研究開発機構などが開発した小型彗星探査機が、2028年に打ち上げられることが決定。親しみやすいイラストとストーリーとともに、世界最先端の研究成果をうみだしている大学像を高校生から大人まで、広く発信したいとの願いも込めた。

 「活用を考えている時に、素敵な手段と方法を提案してくれたのが、朝日新聞社でした」と増村氏。「新聞社は企画や構成に関して経験と蓄積が深く、社会性と客観性もあるため、眠ったままになっていたものを、いまの時代にどのように磨けば光らせる ことができるか適切にアドバイスしてくれます」と続ける。今回は新聞掲載と合わせて、大学のウェブサイトに特集ページを掲出。紙面に掲載したかとう氏のイラストをスマートフォンの壁紙としてダウンロードできるようにした。また、イラストを大きくあしらったパネルも制作。私立大学で国内最大の反射式望遠鏡を備え、京都産業大学のシンボルにもなっている「神山天文台」に貼り出した。

 「私たちのメッセージをしっかりと伝えることができ、信頼性が高いのが新聞の良いところです。ウェブとの連動やパネルへの二次利用など使い勝手が良い点も満足しています」と増村氏。シリーズ広告は、次にいつ出るのですか、と問い合わせが寄せられ、壁紙のダウンロード件数も増え、手応えを感じている。

 社会や産業の構造が大きく変容する中で、増村氏は「大学の役割と期待への大きな変化を感じる」と指摘する。以前は大学卒業後、就職先において長い時間をかけて社会人として育てる企業が主流だったが「、実践力」への関心が急速に拡大。特に中小企業を中心に、すぐに活躍できる学生のニーズが高まっていると話す。

 「産業界と連携し、理論と実践をむすびつける教育は、創設以来、京都産業大学が最も強みとしてきました。時代の要請を感じながら、大学の姿勢や大切に考えていることを、これからも共感していただける方法で、ストーリーを持って発信していきたい」と結んだ。