職人の「技」を伝える動画で酒蔵めぐりの魅力を効果的にアピール

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「TOKYO SAKE PROJECT」は、朝日新聞社と東京都酒造組合が、東京の日本酒を通して東京の魅力の発信を目指すプロジェクトです。東京都と公益財団法人東京観光財団による「東京の魅力発信プロジェクト」の採択事業の一環としてスタートした企画で、東京都にある酒蔵の観光地としての魅力を、動画や新聞広告、特設サイトなど様々なメディアでPR。あわせて試飲イベントやプレゼントキャンペーンを実施し、プロジェクトへの注目度を高めました。

東京地酒の認知度アップがプロジェクトのねらい

東京都酒造組合 事務局長 岩田 茂氏 岩田 茂氏

 都市のイメージが強い東京だが、じつは良い地下水や伏流水に恵まれた地域も多く、そこには現在も伝統の技で酒を醸し続けている蔵元が存在する。東京都酒造組合は、そんな東京で清酒を製造している九つの蔵元をとりまとめる団体だ。東京の酒事情について、事務局長の岩田 茂氏は次のように話す。

 「日本酒の消費量のピークは1973(昭和48)年。現在では生産量や消費量ともに半分以下になっています。日本酒ファンの獲得は、東京だけでなく、日本酒業界全体の課題でしょう。なかでも東京の酒は、日本最大のマーケットに蔵を構えているにもかかわらず、『酒どころ』のイメージがなく、残念ながら消費量のみならず認知度も低い。まずは多くの消費者に東京の酒を知ってもらうところから、と考えていました」

 そうしたなか、岩田氏のもとを訪れた朝日新聞社が提案したのが「TOKYO SAKE PROJECT」だ。ただプロジェクトの実施には、東京都酒造組合に所属する九つの蔵元の協力が必要だった。依頼する際、岩田氏の「絶対にいいものにしたい」という熱量に加え、朝日新聞社の企画・制作ということも後押しになったという。

 「何をするのか、という声は上がりましたが、大丈夫かと心配する声は一切出ませんでした。新聞というメディアに対する信頼感があったからこそ、どの蔵元もすぐに納得してくれたのだと思います」

メッセージをストレートに届けられる点が動画のメリット

 「TOKYO SAKE PROJECT」では様々な企画が展開された。特設サイトの開設はもちろん、2019年11月21日付の朝日新聞朝刊に全15段の広告を掲載。体験の場として、渋谷ロフトで試飲イベント「TOKYO SAKE WEEK」を開催したほか、SNSを活用したプレゼントキャンペーンも行った。

2019年11月21日付 朝刊 1.0MB

 様々なコンテンツのなかでも、岩田氏がとくに満足度が高かったと話すのが、特設サイトで視聴できる8分弱の動画だ。動画は一人の女性が酒蔵をめぐる物語に、酒造りの様子や職人の表情を織り交ぜながら九つの蔵を紹介する内容。各酒蔵の個性と、ドローンが写し出すダイナミックな映像により、8分弱という長さを感じさせない見ごたえのある動画となっている。出来栄えについて岩田氏は、「地図が出て、駅が出て、そこから酒蔵を見せることで、まさに酒蔵をめぐっているようなイメージになっているところが非常にいい。東京の酒蔵の魅力をうまく引き出してくれました」と笑顔を見せる。

 また渋谷ロフトで開催した試飲イベント「TOKYO SAKE WEEK」の会場でも動画を流したところ、じっと動画に見入る人も少なくなかったと岩田氏は話す。

 「とくに若い世代が、動画をきっかけに会場に足を踏み入れてくれました。渋谷ロフトを開催場所に選んだのは、日本酒離れが激しいといわれる若い世代に訴求したいと考えたのが理由でしたから、動画が接点としてうまく機能してくれたと感じています。また言葉は人によって解釈が異なりますが、動画であれば情報を直接、視覚に訴えかけることができます。動画を通じて‘東京の酒は素晴らしいんだよ’という私たちのメッセージを、形が変わることなく、そのまま消費者に届けることができました」

 東京の酒と一言でいっても、酒蔵それぞれに異なる魅力がある。たとえば田町の「東京港醸造」ではテイスティングカーで作りたての酒を提供するサービスがあり、青梅の「小澤酒造」は多摩川のほとりに広がる庭園がSNS映えすると大人気だ。「今後はこれら九つの酒蔵を一つひとつ掘り下げ、より詳しく理解してもらえるようなプロモーションを行いたい」と岩田氏は意気込む。また岩田氏は今回のプロジェクトを通じて、あらためて新聞の持つ発信力に驚かされたという。

 「新聞広告が掲載された日は、いろいろな人から『いい広告だったね』と声をかけられました。日頃から酒に関する記事が出ると、たとえ小さなスペースでも、酒造組合の電話が鳴りっぱなしになるくらいですから、やっぱり新聞は反響の大きさが違いますね。これからも新聞も絡めて、新鮮でおもしろい仕掛けを東京都酒造組合一丸となってつくっていこうと思います」

動画「Tokyo Sake Project」を制作した映像作家・清水良広氏(談)

 限られた予算の中で東京の九つの蔵の魅力を伝えるには撮り方を含めて工夫が必要です。単なる綺麗な資料映像ではなく、観た人が酒蔵巡りを追体験でき「行ってみたい!」と思えるような映像にしたい。東京観光財団の掲げる「Tokyo Tokyo Old meets New」のスローガンのもと、伝統と革新が混ざり合う東京の酒造りと、本来その土地を訪れる人だけが感じることのできる空気感をしっかり表現しようと思いました。

 それぞれに異なる魅力のある九つの蔵ごとの「想い」を描き分けつつ1本の映像にまとめることの難しさはありましたが、各酒蔵や周辺観光地までのアクセスはもちろん、使い込まれた道具や酒造りと真摯に向き合う蔵人の手仕事を丁寧に伝えることができたのではないかと思います。「東京の酒蔵」がそれぞれの一杯に込める世界観を、この映像を通じて感じていただければうれしいです。

(聞き手:朝日新聞社総合プロデュース室 アートディレクター 金子裕也)