全15段モノクロの紙面に大きくデザインされた葵の紋と「大奥完結」の文字。2月26日(金)に掲載された漫画「大奥」の広告には、あまりにインパクトにはっと息をのんだ読者も多いことだろう。1枚めくると「大奥」を代表する名シーンカットがずらり。今回の広告展開を企画した白泉社 宣伝部 宣伝課の山下葵氏に、出稿の経緯やデザインのポイントについて伺った。
よしながふみの男女逆転歴史絵巻「大奥」がついに完結
江戸幕府、三代将軍・家光の時代、男子のみを襲う謎の疫病が国中に流行り、男子の数が激減。家光も病に倒れ、秘密裏に将軍職は女子へと継がれていく―。
男女の役割が逆転した江戸時代という大胆な設定が話題を呼んだ漫画「大奥」が、約16年半にわたる連載を走りきり、2月26日(金)発売のコミックス19巻で完結した。その間本作は第13回手塚治虫文化賞マンガ大賞をふくむ数々の賞を受賞。テレビドラマ化もされ、国民的大ヒット作品と呼ぶにふさわしい作品へと成長した。まずは同作品の宣伝担当、山下氏に本作の魅力について伺った。
「 “徳川将軍がじつは女だった”という設定がセンセーショナルだったことが、まずヒットの理由としてあげられるのではないかと思います。女性が将軍になったことによって、正室や側室の男性たちにもスポットが当たり、男性の幸せや苦悩までしっかりと描かれているのがさらにおもしろいところ。また史実と作者であるよしながふみ先生のオリジナルの部分が織り交ざって物語が構成されているところが魅力です。」
作品の完結を迎えるにあたって社内では新聞での広告展開で意見が一致したという。なぜそう考えたのか、理由について詳しく聞いてみた。
「『大奥』の大きなテーマは、人が生きるつらさや苦しみのなかで、それでもそれに向き合って前を向く勇気だと思います。年齢や性別は本当に関係がなく、“生きている人すべてに届けたい”という思いがあったので、広く多くの人に、しかも直接届けることができる新聞というメディアを選びました。また『大奥』は疫病やジェンダーなど、現代社会においても重要なテーマを扱った作品。時事問題に取り組む新聞というメディアの特性が、作品とうまく合致しました」
名シーンダイジェスト紙面はファンに贈ったサプライズ
2月26日(金)朝日新聞朝刊では、モノクロの全15段に徳川家の家紋である葵の紋が大きくデザインされたシンプルな紙面と、もう1面「大奥」の名シーンを集めた紙面が掲載された。
「まず16年にわたった物語がついに完結したということをシンプルに伝えたいと考えました。最初にデザインしたのは葵の紋と大奥完結の文字に “運命を生き抜いた女将軍たちの繋いだ道が、ひとつの希望に流れつく。”という本作に作者がこめたメッセージを加えたページ。当初はこの1面だけで展開する予定でしたが、16年半作品を追い続けてくださったファンの方々に、これまでの歴史を一緒に振り返っていただきたくて、名シーンを並べた紙面をふくめ2ページ展開することを決定しました。見開きで掲載するのではなく、新聞をめくるともう1ページが現れる仕掛けにしたのは“まだあった!”というサプライズ的な喜びをお届けしたかったためです」
名シーンをあえて記載したのには別の意図も込められている。「作品の内容を紹介することで、“『大奥』という名前は知っているけれど内容はよく知らない”という新しい読者にも興味を持ってもらいたいという思いがありました。また16年半という長期連載の中では途中で離れてしまった読者の方も多いと予想し、“もう1回読んでみませんか?”とご提案したかったのです」と意図を語った。
新聞のスケールを活かした新聞広告はSNS上で話題化
インパクト重視のモノクロ面と漫画の名シーンが並ぶダイジェスト面。2ページにわたり「大奥」完結を伝えた今回の広告展開は、掲載日当日、SNS上で大きな話題となった。「Twitterでは、“めくったらもう1面あった!”と喜んでいただけた感想を多く拝見しました。また新聞広告を見て、『大奥』が完結したことを知った読者の方も多かったようで、出稿の意図がうまく伝わっているなとたいへん嬉しく感じました」と山下氏は語る。
また今回の新聞広告をまた特別な思いで見た人がいる。作者のよしながふみ氏だ。「担当編集に聞いたところによると、よしなが先生のご家族の方がまず見つけられたそうで、“載っているよ!”と持ってこられたそうです。よしなが先生からも‘ありがとうございます’とお言葉をいただき、私も感無量でした」と山下氏は裏話を教えてくれた。
よしながふみ氏は完結巻が発売される少し前に、「朝日新聞デジタル」「好書好日」のインタビューに答え、完結巻を迎える思いについて語っている。これらは今回の新聞広告とは別の企画だったものの、「相乗効果があったのでは」と山下氏。「発売日より少し前からインタビューを掲載していただき、“もうすぐ終わるのだ”と盛り上がったところで、発売日に新聞広告を大きく掲載させていただいた。記事と広告、両面から情報をお伝えできるのは新聞の面白さだと感じます」
「私は今、おそらく日本で一番、SNSで“大奥”と検索している人間だと思います(笑)」と話す山下氏。その表情には、宣伝担当という立場と同時に、一人の「大奥」ファンとしての作品愛もにじませる。
「ほとんどの方が“こんな素晴らしい結末を見たことがない”“最後の1ページのためにこの16年間があった”と感想を言ってくださっていて、私もまったく同じ気持ちです。ここまで愛される作品の完結巻の宣伝担当になれて本当に光栄だと思います。そして今回感じたのは、“本日発売”と書ける、他のメディアにはない新聞のおもしろさ。今後も、長期連載でファンの方と一緒に育ってきた漫画など、新聞と相性が良いと感じた作品では、新聞を活用した企画を検討していきたいと思います」