姜尚中氏と山極壽一氏の対談記事で、日本の東洋史研究の集大成『アジア人物史』の魅力を訴求

 集英社では2022年12月1日から、創業95周年記念企画『アジア人物史』(全12巻)の刊行を始めた。その第1回配本に合わせて、この企画の総監修を務める姜尚中(かん さんじゅん)氏と霊長類学者の山極壽一(やまぎわ じゅいち)氏による対談記事を、朝日新聞広告特集として掲載した。そこで『アジア人物史』刊行の経緯やこの企画に込めた思い、新聞広告の狙いや反響などをうかがった。

現代のアジア史研究を代表する編集委員が結集し、170名以上の専門家が執筆

 『アジア人物史』は現代のアジア史研究を代表する10名の編集委員が集い、数年がかりで協議を重ね、とりあげる人物を選定。170名以上の専門家が執筆し、新たな視点でアジアの歴史を一望する。そんな野心的で壮大な企画だ。編集を担当した落合勝人氏は、姜尚中氏の著書『悩む力』『母―オモニー』『心の力』などを手がけた敏腕編集者。まずはこの企画が生まれるまでの経緯を聞いた。

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落合氏

 「私は15年ほど前から中国、韓国、台湾などアジアの出版人と交流していて、いずれアジア全体で共有できるような大型出版企画を手がけたいと考えていました。また編集者として長年、姜尚中さんとおつきあいするなか、日本とアジアの関係性について深く考える機会が多々ありました。さらにネットに膨大な情報が流通するなか、一定の価値観やポリシーで情報を取捨選択し、書物として編纂する事典ようなものをつくりたいと考えていたのです」 最初はアジアの出版人と国際編集委員会をつくり、多国籍の執筆陣を編成し、相互翻訳による出版を考えていた。しかし予算や現実的な編集作業の困難さから、最終的に日本の執筆陣を中心としたこの企画へと方向転換したという。
 「ただアジアの出版人と話をしていてわかったのが、神話の時代から21世紀まで、アジアの全時代全地域の専門家を集められるのは日本だけだということです。実は日本の東洋史研究はものすごく厚みがあり、世界に誇れる学問の蓄積があるのです。この知的資産を生かし、将来的には翻訳も視野にいれた、アジアの人々の心にも響くコンテンツをつくりたいと考えたのです」(落合氏)

一人ひとりの評伝を積み重ねることで、新たな視点による歴史を浮き彫りにする

 『アジア人物史』の大きな特徴は、その名の通り「人」に焦点を当て、一人ひとりの評伝を積み重ねることで歴史を浮き彫りにするスタイルをとっていることだ。一人の人間が生まれてから死ぬまでのドラマには普遍性があり、時代や国境を超えた多くの人の心に響く力をもっている。また「人」に焦点を当てることで、既存の歴史学の枠組みや固定概念を超えた、新たな視点や発見ももたらされる。
 「とりあげる人物は各国の歴史においてではなく、アジアという場で重要だと思われる視点で選びました。インドやトルコではたいへん有名で、世界史の視点からは影響力が大きいのに、日本ではほとんど知られていない人が実はけっこう多いのです。そんなこの企画は、漫画の原作や歴史小説、ゲームのネタの宝庫です。それもあり、カバーイラストは『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦(あらき ひろひこ)さんにお願いしました。ぜひクリエイターや若い人にも読んでもらいたいですね」

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 例えば第1回配本の第7巻、第8巻だけでも、イスマーイール1世、光海君、ハイダル・アリーなどと、ほとんどの日本人は聞いたこともないであろう人物名が並ぶ。 「もう一つ、この企画を貫くコンセプトが『交流』です。宗教や思想、芸術の伝播(でんぱ)だけでなく、略奪や侵略、戦争など激しい衝突なども視野に入れ、総勢1万名にのぼる人物名が織りなすドラマの中から自然と『アジア通史』が浮かびあがってくる。そのような構成を考えました」(落合氏)

アジアの歴史から世界の秩序を考える対談記事が、読者の知的好奇心をくすぐる

 そんな本企画の第1回配本に合わせて、集英社では朝日新聞の広告特集として、総監修の姜尚中氏と霊長類学者の山極壽一氏による対談記事を掲載した。今回、『アジア人物史』の訴求に新聞メディア、それも記事体広告を活用した理由について、宣伝担当の渡辺貴史氏は次のように語る。

221201_shueisha_ad 2022年12月5日付 朝刊 全15段1.4MB

「この本はなんといっても歴史に知識や興味関心がある方がターゲットなので、朝日新聞の購読者にはぴったりです。朝日の読者は書籍にお金を使っていただける方も多いと考え、今回の企画でご協力いただきました。対談記事にしたのは、通常の純広告より購読者の興味を引きやすいと考えたからです。とくに今回は朝日新聞ならではの人脈で、面白い切り口の対談を実現していただき、狙い通りの企画が実現できたと思っています」

 「アジアの歴史に学ぶ 新たな世界秩序のカギ」と題したこの対談記事では、人間社会と霊長類の社会の違いに始まり、西洋とアジアの力関係の変化、自然や文化の違いなど、多岐にわたる話題を姜氏と山極氏が繰り広げた。さらに雨森芳洲(あめのもり ほうしゅう)や西太后など、二人が『アジア人物史』第7・8巻を読んで、とくに興味を抱いた人物についても語り合った。
 「姜さんにはこの企画の最初の段階から協力していただいています。総監修者は学識があり、人気や知名度も高い姜さん以外いないと思っていました。山極さんとの対談内容も非常に面白かったですね。人文書の重要な役割は、学問の壁を取り払い、専門家以外の方に新たな視点や刺激をもたらすことです。そういった意味で、山極さんという霊長類学の権威にこの本を興味深く読んでもらえたことはとても嬉しかったですね」と落合氏は語る。

 純広部分を含め、カラー全15段のこの企画は紙面としてのインパクトも大きかったようだ。集英社社内からも「今朝、見たよ」「目立っていたね」などと大きな反応があったという。読者からも「非常にアカデミックな内容」「購入意欲がわく」「広告というより読み物のようで楽しめた」など、好印象の反応が多かった。
 「今後もシリーズの刊行が続いていく中で、既刊を購入してくださった読者は引き続き、まだ購入されていない読者は新たに読んでみようと思っていただけるよう、新刊が発売されるごとに出稿を続けたいと思っています。本作に限らず、私どもが書籍のプロモーションとして第一に考えるのが新聞広告です。それはシンプルに、出稿に対する実売が数字として表れるためです。SNS広告などでも本好きに対してセグメントして出稿することはありますが、『お金を払って本を買う』という行動に結びつくのはやはり新聞広告が一番だと考えています」。今回の出稿を踏まえ、渡辺氏は新聞広告に対する期待をそう語った。

対談の様子は朝日新聞「EduA」でも公開しています。記事はこちら