「クレヨンしんちゃん」を起用した三井住友海上の企業広告、内定式に合わせて伝える「挑戦する力になる」という姿勢

 三井住友海上は2024年10月1日、内定式のタイミングに合わせて朝日新聞朝刊に全15段の新聞広告を掲載した。人気アニメ「クレヨンしんちゃん」のキャラクターを起用し、小型広告も活用した企業広告だ。この企画の背景や狙いについて、三井住友海上のCXマーケティング戦略部 CXアドクリエーションチーム 上席マーケターの山田剛史氏と、同チーム 課長の勝千枝子氏に聞いた。

安心して挑戦できるから変革が生まれる、損害保険のルーツから考える

 淡いグリーンのメインビジュアルは、「クレヨンしんちゃん」に登場する主人公の父、野原ひろし。この広告のために描き下ろされたオリジナルの絵で、「さぁ、深呼吸。」というキャッチコピーに合わせて、見晴らしのいい景色の中で深呼吸をしている様子が描かれている。アニメの「クレヨンしんちゃん」とはひと味違う、情緒的に感じられる表現で目を引く。

2024/10/1 2024年10月1日付 朝刊 全15段1.2MB

 「何かを始めるその前は、大きく息を吸い込んでみる。これ大事。」という書き出しで始まるボディーコピーは、来春、社会人となる若者に向けた応援メッセージと、補償だけではない「挑戦する力になる」という損害保険会社の姿勢が綴られている。

 山田氏は、「この広告のテーマは『挑む』です。保険はチャレンジする人を支えるもので、そのためには私たちも挑んでいかなければならないと思っています。私たちは、事故や災害が発生したときに金銭的な『補償』をするだけではなく、事故や災害を未然に防ぐための『予防』や、何かダメージがあったときリカバリーして平時の状態を保つ『回復』の支援など、今までの保険の枠を超えたビジネスにも挑戦しています。そんな私たちの姿勢と、新しいことに挑戦する新社会人の思いを重ね合わせ、内定式という節目の日、101日に広告を掲載することにしました」と話す。

二人

 そもそも損害保険は、大航海時代の冒険を支えるために生まれたと言われていて、蒸気機関車や自動車など移動手段の進化にあわせて、新しい保険が誕生してきた歴史があるという。つまり、世の中が変わるときには新しいチャレンジがあり、それを支えるのが保険という位置付けだ。

 「保険があることで安心して一歩を踏み出すことができ、ひいては世の中を変えていくことにもつながるはず。新しいことに挑戦する人を支え、後押しすることは、損害保険会社の存在意義であり本質です。新聞広告は、そんな私たちの姿勢を示しながら、新しいことに挑戦する人たちを世の中に増やしたいという思いを込めて作りました」(山田氏)

メッセージを“感じ取って”もらえるように、情報はあえて絞り込む

 クレヨンしんちゃんをメインビジュアルとする新聞広告は、三井住友海上の企業広告シリーズで、2024311日と同年71日にも朝日新聞朝刊に掲載された。101日に掲載した新聞広告は、その第3弾となる。3月は「さぁ、今日も。」というメッセージで、テーマは「保つ」、7月は「さぁ、半年。」というメッセージで「支える」がテーマだった。

2024/03/11 2024年3月11日付 朝刊 全15段1.4MB
2024/07/01 2024年7月1日付 朝刊 全15段1.4MB

 この企業広告は、当初から3回シリーズとして企画されたという。自分たちの存在意義を見つめ直し、社会にどう貢献できるのか。あらためて考え、損害保険会社全体の所信表明のような位置付けで、広告を制作することにしたという。

 「保つ、支える、挑むという3つのテーマは、損害保険会社の姿勢を集約したキーワードです。損害保険会社とは社会にとってどういう存在なのか。あらためて、世の中に伝えていこうと考えました」と山田氏。

 この企業広告シリーズの最大の特徴は、3つのテーマ「保つ」「支える」「挑む」をその言葉自体は使わず、三井住友海上の姿勢を表現していることだ。また、広告のメッセージを解説したり、サービスにつなげたりする特設サイトなども、あえて用意しなかったという。

 「私たちの思いは、3つの広告それぞれのコピーとビジュアルに集約されています。広告を見た人がそれぞれ、感じとってもらいたいと思いました。受け取られた方の思いが大事なので、答え合わせのようなものも必要ないという考えです」(山田氏)

男性寄り

 コピーが際立つように、あえて情報は絞り込んだという。

 「この広告の肝はコピーです。それを読んでいただけるデザインにしていただきたいと、クリエイティブチームには伝えました。活字メディアの中で、文字の大きさや配置の仕方、余白のとり方によって、目をひきやすいデザインに仕上がったと思っています。クリエイティブチームのみなさんには意図をくみ取っていただき、本当に感謝しています」(勝氏)

 新聞広告が掲載されると、保険代理店の方々からも「広告を見た」「いい内容だった」という声が届いたという。

 「ここまで生活者目線で書かれたコピーは当社では珍しかったこともあり、社内でもたくさん声を掛けられました。新聞のみの展開でしたが、ここまで広がりがあると驚きました。新聞の持つ力をあらためて感じました」(勝氏)

「クレヨンしんちゃん」を広告キャラクターに起用した理由

女性寄り

 クレヨンしんちゃんをメインビジュアルにした理由について、勝氏は次のように説明する。「クレヨンしんちゃんの家族は、地域に寄り添いながら、前向きに楽しく元気に暮らしています。世の中にすでに受け入れられ、愛されている等身大のキャラクターであることが決め手となりました。私たちはこれまでIPの活用をほとんどしたことがなかったので、この起用も挑戦のひとつでした」

 山田氏は「しんちゃんは国民的な子どもであり、お父さんもお母さんも同様に人気があります。野原家は、核家族で春日部の一軒家に暮らしている設定でリアリティがあり、特に30代から40代にとっては自己投影しやすいはず」と説明する。

 特に印象的なのは、ビジュアルの色だ。アニメとは違う温かみのある淡い色合いで表現し、何気ない日常のシーンも情緒的に感じられる。「クレヨンしんちゃんの元気で明るいイメージはそのまま、人に寄り添う温かみや優しさ、安心感が伝わるビジュアルを目指しました」(勝氏)。いずれのビジュアルも、三井住友海上のイメージカラーである緑を基調に2色で構成されている。

 今回、小型広告も活用した。各面に小型の広告が4個、散りばめられている。「15段広告にたどり着くまでの気分を高める仕掛けで、楽しんでもらえたらいいなと思っています」(勝氏)

損保会社にとって、信頼性の高い新聞はこれからも重要な広告メディア

 一連の企業広告シリーズは、新聞のみで展開した。新聞を広告媒体として選んだ理由は、掲載する日付に意味を持たせられることと、信頼性の高いメディアであるからだという。

 「休刊日以外、毎日ニュースを掲載し、自宅に届け続けている。信頼性の高さは、これまで新聞社が築き上げてきたものです。そんな新聞は、損害保険会社の私たちにとって、私たちの姿勢を伝える媒体として適切であると考えています」(山田氏)

  小型

 平穏を保つことや支えること、そのために挑むこと。その「保つ」「支える」「挑む」というメッセージに合わせて日付を選んだという。「311日は、損害保険会社にとって決して忘れてはならない日です。71日は1年のちょうどまん中で、立ち止まって振り返ったり、これからを考えたりするタイミングになると思いました。そして、挑むというテーマに合わせて内定式が行われる101日を選びました」(山田氏)

 企業広告シリーズの今後については未定だというが、山田氏は次のように語った。「保険は口コミや知り合いからの紹介で契約される方が多く、選ぶポイントは突き詰めていくと安心感があるかどうか。そんな私たちにとって、信頼感のある新聞は広告媒体として重要なメディアであると考えています。デジタルメディアの強みはターゲティングできることですが、そこから外れた人には届きません。一方、新聞は興味のあるなしに関係なく、目にしてもらえる可能性があります。今後も新聞を広告媒体として活用できたらと思っています」