1人で100人分の生産性が必要
通信制のネットの高校であるS高の校長として2年目になります。僕は教育畑出身ではなくソフトウェアエンジニアであり、6年前に創立したN高では主にプログラミング講師として授業内容の構築、指導をしていました。世の中にはITエンジニアが校長という例はあまりないかもしれませんがとても光栄です。バーチャルリアリティー(VR)で生徒たちのコミュニティーやeスポーツに参加し、「校長先生に習った!」「校長先生を倒した!」と喜んでもらえることがとてもうれしいですね。
ネットで高校の授業をする試みは、ITによって教育を効率化し社会を良くする手段であると思っています。なぜなら日本がさらに少子高齢化へ進むことが、ほぼ明らかだからです。子どもが少なくなり高齢者が増え続ければ、就労人口は減るばかり。働き手1人で3、4人以上の高齢者を支える時代に、今10代の人たちはどうやって仕事の生産性を高めればいいのか。やはり要はITの活用であり、プログラミングやツールを駆使して自分の代わりにコンピューターを働かせていくことではないですか。
もう僕たちは実感していますが、交通機関は次々と自動改札に変わり、コロナ禍でネット注文のデリバリーサービスが一気に加速しました。今は人が配達していますが、将来はドローンが届けてくれるかもしれない。そのようにこれからはテクノロジーを駆使して生産性を上げ、大げさではなく1人で現在の100人分くらいの仕事分担をこなせる時代を目指さなくてはならないでしょう。
とすれば、問題点を見つけ、それを解決して力強く生きていける人材を社会にたくさん輩出しなくてはならないと僕は考えます。逆にその育成がうまく機能しなかったら、日本はどんどん貧しくなっていくのではと危惧してしまいます。だから僕はIT教育の下支えに関わり、日本の未来を生きる若者と社会のためになる仕事をしたいのです。
マスゲームに捧げた高校生活
僕が初めてプログラミングに近い言語に出会ったのは、高校3年で学校の体育祭の種目、マスゲームの制作に携わった時でした。マスゲームは紅白それぞれ100人ずつが一団となって行進するもので、1、2年生の時は行進メンバーの1人として参加し、その体験がとにかく楽しかったのです。100人で整然とした動きを完成させ、まるで一つのアートのように人を感動させる。それを突き詰めるために毎日2、3時間は練習し、やり遂げた達成感は本当に特別なものでした。
そこから離れがたくて制作・運営に携わることになり、その際にマスゲームを設計するためのツールとそれを動かす専用プログラミング言語のようなものに向き合いました。制作するにはコンピューターもプログラミングも学ばなければなりません。まだプログラミング環境も黎明(れいめい)期でスムーズにはいかず、本当に数え切れないほどのトラブルに見舞われました。でもそのトラブルを仲間たちと共に情熱を持って乗り越え、プロジェクトを成功させた過程がどれほど楽しかったことか。
それは、高校生の自分が今の自分に教えてくれている、学校運営へのヒントにもなりました。
学校法人 角川ドワンゴ学園 S高等学校 校長
1982年広島県生まれ。東京工業大学大学院修了。先進的な金型ベンチャー企業を経て(株)ドワンゴ入社。ニコニコ生放送のシステム更新を指揮したITエンジニア。2016年からネット高校、角川ドワンゴ学園N高のプログラミング教育を担当。21年2校目となるS高にて現職。