相手を信じフェアでありたい
私は社会人10年を節目に、自分を成長させたいと、大阪の製薬会社から東京の製薬会社、三共(当時)へと転職しました。
約3年が過ぎた頃、第一製薬(当時)との経営統合が決まり、新会社設立に向けた統合プロジェクトの実務リーダーに指名されました。翌年、さらにゼファーマ(当時)と経営統合することになり、複数の企業が未来の可能性に向かって一つになっていく過程は簡単ではありませんでしたが、「第一製薬でもなく、三共でもなく、ゼファーマでもなく、新会社として何がベストか」を常に考えて取り組みました。
このプロジェクトは私に、相手に対して尊敬の念を抱き、自らが先に心を開いて対話する重要性を教えてくれました。
その後、新会社は成長を目指して一般用医薬品事業中心から、スキンケアなどのカテゴリーや販路を拡大する方向へとかじを切っていきました。そうした中、香川県の優秀なスキンケア製品通販会社である(株)アイムのM&A(合併・買収)を実行し、そのまま私は副社長として着任することになったのです。
かつて経験した統合プロジェクトでの教訓である「オープン&リスペクト」を信条として、私は初日にその決意を現地社員に語りました。「私も心を開くので皆も心を開いてほしい」「通販事業の先輩として皆さんの経験や実績に敬意を払う」と。
香川県に住み、アイムの一員として共に汗をかく覚悟があることを伝え、社員とのコミュニケーションも積極的に図りました。終業後に近くの体育館でフットサルに参加したり、地元のJリーグクラブ、カマタマーレ讃岐を応援に行ったり、趣味であるゴルフに社員を誘ったり。
前にいた経営企画部門でも視座を高くしていたつもりでしたが、副社長という立場は全く異なるものでした。社員に発する言葉は経営者そのもののメッセージであり、会社そのものの空気を左右するほど重みを感じました。視座がさらに高まったし、強い責任も感じる。でもその分、やりがいも大きいんです。
仕事人に伝えたい行動指針
私は、製薬会社のような「人の命に関わる産業」で働くことに誇りをもっています。今後、人はもっと病や健康について考え、予防や快適な暮らしへの関心をさらに強くしていくでしょう。そんな気持ちに寄り添って応え続けていきたい。
私がいつも新人に伝えている言葉があります。それは
- ①自分を磨きブランディングする(自分がどう成長していきたいか考え行動する)
- ②本質を見極める(なぜなぜと6回は繰り返し深く考える)
- ③他社(他人)と違うことをする(差異化の視点を持つ)
- ④スピードは巧遅に勝る(遅い完成度より、速さが役立つ)
- ⑤成功より成長(失敗は成功のもと)
- ⑥対立を乗り越える(シナジーを創出する)
- ⑦何事も意思決定をはっきり(成りゆきに流されない)
どこかで私の心に響き、実践してきた内容です。世代が違う、もう時代は変わったと考える人もいるかもしれませんが、人間が求めていく仕事の本質は、情熱や誠実さ、ユニークさやスピードなどあまり変わらないものなのではないでしょうか。
第一三共ヘルスケア(株) 執行役員経営企画部長
1969年大阪府生まれ。91年同志社大学商学部卒業後、大阪本社の製薬会社に入社した後、2001年三共(株)(現・第一三共)入社、06年第一三共ヘルスケアに移り、マーケティング部企画グループ長などを経て15年子会社の取締役副社長として出向。19年から現職。