本音を語り合う相談の場であれ
運営する「ふるさと回帰支援センター」への相談が増え始めたのは、2008年のリーマン・ショックの頃からで、さらに、11年に起きた東日本大震災も大きな転換期になりました。長年移住の無料相談をしていて、社会貢献の意義というものを感じる出来事だったと思います。そして14年に、地方の人口減少問題に焦点をあてた「増田レポート」が発表され、国が動き、全国の自治体の移住を受け入れる態勢への動きも広がりました。こうして21年には移住相談が約5万件、セミナーも562回開催しています。
都市住民が地方への移住を考えた時、まず私たちが相談に乗る。目指していたそのNPO本来の仕事が整う中で、相談員を増員していきましたが、研修には力を入れました。徹底したのは「誰と、どこで、どんな暮らしをしたいのか」を希望者と本音で確認し合うことです。例えば自然豊かな土地で無農薬野菜を作りたいという相談者に、近隣の農家さんが低農薬栽培だったらどうするかと投げかける。無農薬栽培は害虫被害が起きやすいため隣接農家に迷惑がかかることもあります。その時、持論を通すか協調するかなどをじっくりと聞き出していくのです。
互いに胸襟を開かずに、移住の理想や条件だけを検討すると虚構の相談会になってしまう。それは避けなければなりません。そして時には、地域の慣習に協調できないという希望者に「移住を考え直してはどうですか」と伝える場合もあります。もちろん夢を実現するための様々なお手伝いをしますが、移住者の受け入れ先との相性についても真剣に向き合うのがセンターの姿勢です。
一方、移住希望者の中には自身の持つ技術や知識を生かし、地域の人と関わりながら生きていきたいと考える若い人も増えています。その思いと能力を地域がどのように生かせるか。また、都心と地方の情報や仕事の格差などはまだあると思いますので、志を持つ若い世代が移住してから挫折しないための準備も、センターが相談に乗れたらと思っています。これまでも、地方移住した人によって新たに地域がよみがえっていったという事例はありますので、応援したいですね。
今、地方移住の世代は若い
十数年前は50代以上が相談者の約7割を占めていましたが、現在は20~30代で5割ほどになり、40代まで加えるとおよそ7割を超えるようになりました。私の世代は、故郷から都市部に出てきて競って高度成長期を働き抜くことが当たり前でした。しかし今の若い世代は、生まれた頃から社会がデフレ続きだったせいもあり、シェアリングなどモノを分かち合って使ったり、給料よりもボランティアに関心が高かったりと価値観が多様化し、自分らしい生き方を大切にしているように感じます。
それは、正規雇用がなかなか難しい社会では仕事への夢が叶いにくいという厳しさもあるからでしょう。また、相談者が希望する職種は勤め人が6〜7割ですが、農業・林業・漁業も2割程度あります。都市部とは違った仕事の可能性や面白さも感じているようです。後継者が少ない伝統技術を学ぼうとする人や、好きな地元の町おこしを目指す人などもいます。地方には、今まで出会えなかったやりがいや活躍できる場があるのだと思います。
認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」理事長
1947年福島県生まれ。早稲田大学中退後、77年自治労本部入職。97年から連合へ出向し社会政策局長。2002年ふるさと回帰支援センター設立。農林水産省「食と地域の『絆』づくり」選定委員会委員、東日本大震災「義援金配分割合決定委員会」有識者代表委員などを歴任。