「社会貢献への思いと行動力」高橋 公が語る仕事④ ―地方再生に待ったなし―

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目指すのは「新しい公共」

 私たちが運営する「ふるさと回帰支援センター」ではこの数年、地方移住の相談をする若い人が増え続けています。都心では非正規雇用が相変わらず多く、自分の考えるキャリアの実現が難しいようです。移住先で、農業や漁業に取り組んでみたいと希望する人は、経験したことのない仕事に次の可能性や面白さを求めているのかもしれません。
 私は、地方の過疎化や少子化が進んだ要因が時代の流れだけだったとは言い切れないと思います。あえて言えば、経済成長にかじを切るため鉄道や道路、郵便、電話などを運営する公共の組織を民営化したことで、「利益」がものさしになったからではないでしょうか。例えば鉄道の価値を利用客数だけで換算し、ローカル線が足切りされて寂れていった地方もあったと思います。採算が取れるかどうかが指標になれば、都市と地方の格差が広がるのは当然だと感じます。
 でも、待ったなしの地方再生を何とかできないかという、その危機感で当センターも含め様々なNPO法人などが活動し、公共と民間の真ん中でもっと柔軟な「新しい公共」を目指してきたのです。私はいつも「本当の豊かさって何だろう」と考えるのですが、自分の居場所を見つけ、その人らしく生きることではないかと思います。それは生まれ故郷かもしれないし、初めての地域や、都市かもしれない。そういう多様な考え方が日本の活力になっていって欲しいですね。
 新型コロナの影響下でリモートワークが一気に加速してから、「生き方を見つめ直したい」「ワーク・ライフ・バランスを考えたい」という相談も増えてきました。都心の狭いマンションで在宅勤務をしながら「静かにしなさい!」と子どもを叱る暮らしに疲れたという声も聞いており、首都圏に近くて生活しやすい地域への移住希望が少なくありません。現在の勤務を継続しつつ、生活拠点を変える自由さも生まれているのです。

移住者と地域の思いは通い合う

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高橋 公氏

 各地の自治体は移住者が不安なく生活できるように、住まい、働く場、支援組織などを整えて提案していくと思いますが、私はそこに「にぎわい」を加えて欲しいと思います。民間のコンサルタントなどに依頼するのではなく、地域の良さを最もよく知る自分たちで力を合わせ手作り感のある魅力を作るのです。移住者が住みやすい地域計画は、地元住民の暮らしやすさにもつながるのではないでしょうか。
 また、地方で働くという経験をした人が学業や仕事の都合で都心へ戻ることになっても、ずっと一緒に行動していた地元の人は「あの人はきっとここに戻ってくる」と感じることがあるそうです。それは、仕事や暮らしを通して共鳴と信頼が生まれたからだと思います。
 移住はもちろん短期間のトライアルでも、仕事や生き方を見つめ直す体験であり、受け入れる地域も「これから」を模索する足がかりになりますね。私は、若い人がキャリアの武者修行として地域おこしなどのIターンに真剣に挑むことで、得難い力がつくと思っています。

高橋 公(たかはし・ひろし)

認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」理事長


1947年福島県生まれ。早稲田大学中退後、77年自治労本部入職。97年から連合へ出向し社会政策局長。2002年ふるさと回帰支援センター設立。農林水産省「食と地域の『絆』づくり」選定委員会委員、東日本大震災「義援金配分割合決定委員会」有識者代表委員などを歴任。