「デザインは『未来』を探る力」早川 克美が語る仕事② ―教育の価値に目覚めて―

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誰かのためのデザイン

 美大を卒業して私は、日本で初めて工業デザインを手掛けた研究所に入所、環境設計部に配属され、自分が描く1本の線にも社会的意義があるという責任を学びました。ここで約11年間、全国の自治体の公共プロダクトなど多くのデザインに携わりました。例えば東京・品川区の旧東海道品川宿周辺まちづくりのコンサルティングに5年間携わり、まちづくり計画書を策定した仕事があります。
 古い歴史がある地で協議会メンバーはほぼ商店主の方々。個性豊かで一つになるのはなかなか容易ではありません。そこで私は「まちは大きな家」というデザインコンセプトを打ち出し、「玄関としての駅」「客間としての観光施設」「茶の間・台所としての商店街」「庭先としての公園・水辺」と捉える提案をしました。そして「新たな東海道品川宿にふさわしいあり方を考えていきましょう」とまちのみなさんと一緒になってまちづくりの計画をつくり上げることができたのです。
 こうして様々な経験を経て39歳で独立。私の職業は「環境デザイナー」ですが、範囲が広く分かりにくいので、自分の専門性を確立しようと、あえて一度「サインの専門家」と領域を絞りました。専門性を深めたことで、会社の業績は順調に伸びていきました。
 デザインは、広告やものづくりに限らず、イベントやまちづくりなど、コトを起こすための構想から着地までを具体化する思考のプロセスそのものなのです。実は専門家ではないみなさんも日常の中でデザインをされています。料理づくりも、献立を考え、買い物、調理、盛りつけまでの過程はまさにデザインと言えますし、自身のキャリアを計画するのもデザインですね。私は、誰かのために、何かをより良く豊かに変えていこうとする営みをデザインだと考えています。
 こうして、多くの仕事を頂いて充実していたある日、東京造形大学の今は亡き秋田實教授から、非常勤で15回の授業をと依頼されました。でもまさかこれが、私の進路を大きく変えていくとはこの時は思いもしませんでした。

教育はクリエイティブだ

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早川 克美氏

 授業では約90人の学生に何回か小さな演習をやってもらい、最後に大きな課題に向かうプログラムをつくりました。最初はぼんやりしていた学生たちが途中から目を輝かせて取り組み、魅力的な作品が次々と生まれ、私は大変な衝撃を受けたのです。たくさんの若者が一気に成長した姿を目の当たりにして、教育とは何とクリエイティブなのだろうと震えるような発見でした。
 また、今まで公共などの仕事で新しい提案をすると、「前例がなければ通せない」という前例主義に阻まれ、ずっと闘ってきた歯がゆい現実もありました。それはその人たちのせいではなく、デザイン教育を受けた人の比率がまだまだ少ないから、新しい発想への好奇心と理解する機会に出会わなかっただけではないか。それならば、自分とデザインは関係がないと思っている人たちに私がデザインを教えたい、伝えたいと。
 教育によって、デザインの意識と理解を持った人が世の中に広がれば、日本の文化の底上げができるかもしれない。そんな青臭い壮大な夢を抱くようになったのです。

早川 克美(はやかわ・かつみ)

京都芸術大学通信教育部芸術学部芸術教養学科長/同大大学院芸術研究科(通信教育)学際デザイン研究領域長/環境デザイナー


1964年東京都生まれ。武蔵野美術大学卒業。GKインダストリアルデザイン研究所などを経てF.PLUSを起業後、東京大学大学院学際情報学府修了。デザイン賞受賞歴多数。