人口の急減、そして超高齢化という大きな課題に直面している日本。これらの課題は、地方になるほど一層深刻だと言われている。各地域がそれぞれの魅力を生かし、自律的で持続的な社会を創生するにはどのようすればいいのか。数多くの地域のプロデュースを手がけてきたプロジェクトデザイナーの古田秘馬氏に話を聞いた。
まずは東京との比較をやめること
──平成の大合併や人口の減少など、地域が抱える課題について、どのように考えていますか。
じつは地域が抱えている課題はチャンスにもなると私は思っています。東京に似ているかどうかを基準に考えているから、それ以外の地域が疲弊して見えている。では東京のように大きなショッピングビルがいくつも建つことが地方創生のゴールでしょうか。違います。それらが無い代わりに、地方は都市よりも自然が近くて、食材がおいしくて、人とのコミュニティーもあって、なおかつ日本的な利便性と安全性もある。家賃だけをとってみても圧倒的に地方の方が住みやすい。これらの価値に地方自体が早く気づいてほしい。スペインの片田舎の街に行くと、利便性も安全性も東京にはまったく及んでいないのに、「ここにはすべてがあるぜ!」とみんな誇らしげに暮らしています。築くべきはこの価値観。いまこの瞬間、日本人全員の意識がパッと切り替わるだけで、地方のほうがずっとうらやましい場所になるはずです。
──これまで数多くの地域をプロデュースしてきた古田さんですが、プロジェクトを進めるうえで大切にしていることは何でしょうか。
そこに住む人たちが「自分ごと」になっているかどうかです。地域の方々が自らやりたい、改革したいと思っていることが重要。そのためには自立して、行政から距離を置けるのが理想です。行政の予算に頼ってしまうと、事業として持続させることがどうしても難しくなる。地元の人たちがリスクをとり、本気で取り組むことがプロジェクト成功のカギです。
またターゲットをきっちり絞ることも大切です。「たくさんの人に来てもらいたいです」といった漠然とした呼びかけは、言うなれば「すべての女性に向けたラブレター」のようなもの。相手の心に響くわけがありません。だったら音楽好き、サッカー好き、というように具体的にターゲットを絞ったほうがずっと情報を伝えやすい。たとえばいま沖縄には、琉球空手を体験するために世界中から空手家が集まっています。つまり他の国でもできるダイビングの楽しさを漠然と紹介するより、世界中の空手家にターゲットを絞って空手の情報を発信した方が、ずっと効果が見込める。このように誰にメッセージを届けたいのかを決めることが、プロモーションの軸になります。
地域の将来を支える名品とその市場開拓を支援する表彰制度です。 名品を生み出したストーリーや取組を、地域の発展を応援する民間企業がさまざまな切り口から表彰する部門賞が大きな特徴です。
日本にたくさんの「首都」 をつくりたい
──古田さんが実行委員長を務めている「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」の概要や成果について教えてください。
「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」は、地域の将来を支える名品と、その市場開拓を支援する表彰制度で、さまざまな切り口の部門賞が用意されているのが特徴です。きっかけは、「地域住民生活等緊急支援のための交付金」を活用して、2015年にはじまった「ふるさと割」でした。このような取り組みを一過性のものに終わらせないために、「ふるさと割」を起点にして、マーケティングへの活用や、本物を見極められるような場の創出など、大きく広げていける仕掛けはないかと考え、「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」を発足しました。
このプロジェクトは内閣府公認となっていますが、予算はいっさい出してもらっていません。ではなぜ内閣府後援にしたかというと、こうした理念により、企業が集まりやすくなるため。実際、このプロジェクトは多種多様な企業が参加しています。これだけの企業を一堂に会せたことは、プロジェクトの一つの成果だと言えるでしょう。
──「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」を今後、どのように運営していきますか。
この2年で素晴らしい名品が選ばれましたし、活動自体もメディアが連携することで、うまく啓発できているように感じています。プロジェクトには朝日新聞社も参加しています。新聞に寄せる期待は大きいです。地域のトピックをじっくり育てていくような手法は、新聞が得意とするところではないでしょうか。今後は完成品を評論するだけではなく、地域を元気にする人や名品を発掘して、我々の手で引っ張っていきたい。新しい事業モデルを生んでこそ、このプロジェクトの意味がありますから。
そして必ず実行しようと思っているのが、東京以外での表彰式の開催。なにも地方開催がしたいわけではありません。もう東京だけが首都であるという考え方を、やめませんかという話。確かに東京は経済の首都ですが、リゾートとしての首都は沖縄でしょうし、アジアビジネスの首都になるのはおそらく福岡。このように表彰式の開催を通して、地域が得意とする部分を引き出していこうと考えています。
「レストランバス」
Peace Kitchenプロジェクト
umari代表/ふるさと名品オブ・ザ・イヤー実行委員長/プロジェクトデザイナー
東京都生まれ。東京・丸の内「丸の内朝大学」をはじめ数多くの地域や企業を巻き込んだソーシャルプロジェクトや、農業実験レストラン「六本木農園」や地域の生産者を回る走るレストラン「レストランバス」和食を世界につなげる「Peace Kitchenプロジェクト」など都市と地域、日本と海外をつなぐ仕組みづくりなどを手掛ける。現在は地域や社会変革の企業に投資したり、農業経営者の育成プロジェクトなど地域の経営強化に携わる。