企業が求める理系の論理的思考力 全学を挙げてキャリア教育に注力

 “ものづくり”を支えるBtoB企業では、その採用において社名や事業の内容の認知度が低いことがしばしば課題に挙げられる。キャリア支援に注力する東工大では、こうした企業を含めて東工大生の採用に積極的な企業を招いた合同説明会を行っている。専門に特化した採用ニーズの一方、専門を問わず理工系人材の論理思考力に注目する企業も増えているそうだ。

専門性と倫理観を養う

── 東工大は「イノベーション人材養成機構」を設置するなど、キャリア教育に積極的です。背景には、どのような考えがあるのでしょうか?

岡村哲至氏 岡村哲至氏

 本学のキャリア教育では、単に希望の就職を支援するのではなく、企業が東工大生に寄せる期待を認識し、社会に出てから自ら考え動ける人になることを重視しています。

 東工大生に、高い専門性が求められるのは当然です。ただ、それ以上に大切だと思っているのは、技術者としての倫理観です。高い見識と倫理観、専門性、それから自由な発想力や創造力、実践力を兼ね備えた理工系人材を輩出するのが本学の目的であり、同時に企業や社会から期待されていることだと捉えています。

 東工大では進学と就職の割合は現在、学士課程から修士課程の進学率が88.1%、修士修了での就職が78.7%(平成26年度卒業生実績)。修士修了で就職する人が圧倒的に多いため、私たちも修士修了をベースにキャリア教育を考えています。

── 現在の具体的な取り組みを教えてください。

 私が主幹委員会の委員長を務めるイノベーション人材養成機構(以下、養成機構)は、平成25年に設立しました。発端は、博士後期課程で自分の専門以外の分野に進みたい人や起業したい人を対象に、専門横断的に企業人の視点を取り入れた教育プログラムを構築したことです。同時に、以前は学生支援課にあった全学生対象の就職相談窓口を養成機構へ移管しました。キャリア支援専門の先生が4名交代で常駐し、企業の人事部を訪問して情報交換をしながら、年間約1,600件の相談を受けています。

 OB会である蔵前工業会の存在も大きく、個別相談やキャリアセミナーの開催などで協力を得ています。

 まさにこの4月、東工大は大きな教育改革に着手しました。学士課程卒も可能ですが、基本的に学士課程から修士課程への一貫した授業体系に改めます。これを機に、博士向けだった前述の教育プログラムを修士以上の学生に必須にし、起業を含めた幅広い選択肢を修士の段階から考えられるようにしていきます。

専攻不問の採用ニーズが増加

── 平成26年度修士修了生の就職先は、製造業が54.5%と過半です。最近、就職の仕方や企業のニーズに変化はありますか?

 製造業が多いのは昔からですが、いくつかの変化はありますね。

 かつて修士修了以上の就職は、学校(専門・研究室)推薦が中心でした。今、その枠が減る代わりに「専門を問わず東工大生を採りたい」という要望が増えています。学内での研究がそのまま企業内で活きることは多くありません。昔から東工大生に期待されている、高い論理的思考力や粘り強さが、むしろ今の時代には求められているのでしょう。

 こうした企業に対しては、各専門の就職担当教員と連携し、全学的な窓口を整備中です。また、養成機構と各専門、蔵前工業会と、年2回の合同会議で情報交換をしています。

 学内で企業情報を発信したいという要望も強いですね。そこで3年前から、蔵前工業会と共催で企業による合同説明会「蔵前就職情報交換の集い」を行っています。1社ごとにブースを設け、人事担当に加えてOBの参加も促しています。この3月には3日にわたり延べ249社、4月開催の回にも100社弱が参加予定です。

── 特にBtoB企業は、社名や事業の認知不足が採用の課題になるので、よい出会いの場になっているのではないですか?

 そうですね。基本的にはOBのいる企業に案内していますが、希望が多く調整させていただいている状況です。学生にも、忙しい中で学内で一気に情報収集ができると好評で、毎年就職予定者1,500人程度に対して1,000人ほどが参加しています。

 イベント以外にも、本学に打診いただいた中小企業や地方企業とのマッチングを、相談窓口の先生の方で個別に行ったりもしています。

 一方で、やはり電気と機械と化学ではまったく内容が違い、専門に特化した採用はなくなりはしないので、私たちも両立していきます。ただ、推薦枠も今では面接必須で、採用不可になることもあり、採用基準が厳しくなっていることも感じます。

── なるほど。企業への要望など、お聞かせいただけますか?

 昨今、見る目が厳しくなっているのは当然でしょう。ただ、研究への姿勢や内容を見てもらう前に、プレゼン力不足で落とされることがあるのは残念であり、企業にとってももったいないのでは、と思います。

 理工系は、自己アピールが苦手な人が多いですね。私たちも指導を強化しますが、企業もたとえば人事部の前に技術者による面接をするなど、工夫いただけたらと思います。

岡村哲至(おかむら・てつじ)

東京工業大学 工学院機械系機械コース 教授 工学博士

1959年、広島県広島市生まれ。東京工業大学工学部卒。東京工業大学大学院総合理工学研究科エネルギー科学専攻博士後期課程修了。同年、東京工業大学工学部助手。94年同大学大学院総合理工学研究科助教授。2001年より現職。09年より東京工業大学理事・副学長(教育・国際担当)特別補佐。14年より東京工業大学学生支援センター自律支援部門長、15年よりイノベーション人材養成機構キャリア支援専門委員会委員長。