特に消費増税後、プロモーションの現場では売り上げ最大化を強く求められ、購買を起点としたプランニングの必要性が高まっていると、電通プロモーション・プロデュース局プランニング1部専任部長の大薗一郎さんは語る。その背景にあるものとは?
――昨今の消費を読み解くカギは。購買行動にどんな変化が見られますか?
食品や流通業界を担当していますが、最大のトピックスは、消費税増税による購買行動の変化です。増税以前は、20年に及ぶデフレと景気低迷がありながらも、自分の気に入ったモノやコトに惜しまずお金を使う「プレミアム消費」は伸びていました。ですが、昨年4月の増税後は価格コンシャスの傾向が強まり、今まで買っていたものをいったん買わない、あるいはPB商品など安い品にシフトする動きが目立ちました。
増税後から現在に至るまでの状況を見ると、いったん離れた顧客が戻ってきている商品と、離れたまま戻らない商品との差が明確に出ていて、厳しく選別されています。顧客が戻ったのは、レリバンシー(自分ゴト化)の強化に成功している商品です。つまり、「自分の人生を豊かにしてくれる」「楽しさを提供してくれる」といったベネフィットを提示できる商品は強い。一方、レリバンシーの弱い商品、つまり優位性を示せず消費者とも関係性を築けていない商品は、シェアが落ちたまま顧客が戻らない状況です。
もうひとつのキーワードは「カスタマイズ」です。それを実現しているのがデジタルツールで、情報発信に加えて商品もサービスも、ある程度コストを抑えて消費者一人ひとりのニーズに対応できるようになりつつあります。レリバンシーの観点からも「カスタマイズ」は重要で、その文脈の中で、あらゆる顧客接点を統合する「オムニチャネル」に関心を持つ企業も増えています。
――レリバンシーを強めるために必要なことは。
競合関係、社会情勢、消費者の嗜好(しこう)が変化する中、消費者に購買し続けてもらうことが最も難しく、永遠の課題です。消費者と永続的な関係性を築くためには、売り手と買い手の二者関係に加えて、「人のためになっている」といった社会的テーマを、別の軸として価値に盛り込むことで強い関係性を保つことができるのではないでしょうか。古くは近江商人の「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)という言葉もありますが、三つ目の「世間よし」の考え方は誰もが共感しやすく、自分ゴト化しやすい根源的な欲求でもあると思います。例えば流通業界で言うと、「高齢化社会」「セルフメディケーション」「食習慣の改善」といったテーマで消費者を巻き込み、ソリューションを提供していくといったことが、自分ゴト化の強化につながっていくのではないでしょうか。
――企業の販促担当者が最近注力しているプロモーション手法について。
「買いたい」という人の気持ちからアプローチして行動を読み解き、最適のメディアを探り当て、市場を分析していくセールス・マックス型プロモーションが注目されています。つまり、「で、売れるの?」と、より厳しく問われているんです。KPI(重要業績評価指標)を設定し、PDCAを回してプロモーション手法を改善していく。その背景には、効果検証を可能にするデジタルテクノロジーの進化もあります。
消費者がどのような経緯で商品やサービスを認知し、関心を持ち、購入に至るのかという「カスタマージャーニー」を大ぐくりで想定し、心理変容や行動変容が起こる場やタイミングでメッセージを投下するなど、きめ細やかな施策を提案しています。クライアントに「やってみましょう」と推す前に、できるだけ成功の確度をあげておく提案が求められていると、日々実感しています。
――購買行動を喚起するためにプランニングする上で大切な要素とは?
第一に、店頭で戦わずして勝つ、つまり指名買いしていただくために、購入前のフェーズで顧客エンゲージメントを築いておくことが大切です。消費財の場合、類似商品がたくさん店頭では並んでいるということを前提にします。
店頭では競合商品の誘惑も強く、買い物客が合理的行動を取るとは限りません。そこで、商品名、価格、パッケージ、POPなど買い物客の目に触れる全ての要素を実購買に向けて戦略的に設計する必要があります。それと並行して、流通のバイヤーへの働きかけをしっかり行うことも重要です。
購入後のフェーズでは、買ってよかったという自己肯定や自己確認ができる情報を提供し、消費者の気持ちをケアすることです。例えば、「売れてます」「こういう声が届いています」といった安心材料を届けたり、「買ってくれたあなただけに特別のオファーを」と、デジタルクーポンを届けたりします。
――プロモーションの手法が多様化・複雑化する中、新聞をはじめマスメディアに期待する役割は。
マスの得意分野が浮き彫りになっていると思います。企業、商品と消費者の関係を考えると、その間をつなぐコミュニケーションが複雑化・複層化しているからです。その中で、重要な「第一印象づくり」を、マスを通して不特定多数に仕掛け、認知を獲得する。新発売やキャンペーン告知にとどまらず、ブランドの再構築においてもマスは有用です。デジタルデバイスなどの「関係づくり装置」へ誘導する上でも、大事な役割を担っていくと思います。その中で新聞広告には、商品の価値をきっちり説明する、ウェブと相互補完しながら広くターゲットにアプローチする、という役割を期待しています。
電通 プロモーション・プロデュース局プランニング1部 専任部長
1996年電通入社。人事局に配属、以降99年マーケティング・プロモーション局などを経て、2002年第4営業局。09年プロモーション事業局、14年7月よりプロモーション・プロデュース局所属(プロモーション・デザイン局兼務)。15年1月より現職。