トレンド情報マガジン『DIME』1月号で、「2014→2015 第27回小学館DIMEトレンド大賞」が発表された。今年のヒット商品から見えてくる消費動向、そして来年のトレンド予測について、編集長の酒井直人氏に聞いた。
「女子力」のエンタメ 「ちょっと上」のプレミアムがヒット
――2014年のトレンド、消費傾向をどのように総括しますか。
キーワードは「女子力」。「女」=女性、「子」=子ども、つまり、女性や子どもに受けたものが大きなヒットを飛ばしました。「DIMEトレンド大賞」を受賞した「妖怪ウォッチ」をはじめ、「アナと雪の女王」、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのアトラクション「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」、ドラえもん初の3D・CG映画「STAND BY MEドラえもん」などが挙げられ、全体にエンターテインメントが元気な一年だったと見ています。
もう一つのキーワードは「プレミアム」。今までのものよりも高性能で魅力的であれば、価格が高くても消費者は動きます。例えば、家電の売り上げが縮小する中で「4Kテレビ」は家電量販店でも過去最高の売り上げを記録しました。
――4月の消費増税は、消費者行動やマインドに影響はあったのでしょうか。
私自身そうなのですが、クルマも家電も、生活する上で必要なモノはある程度そろっていて、家の中はすでに飽和状態です。増税となれば、買い替えないでいいものはあえて買わないという消費者は増えたのは事実でしょう。とはいえ、軽ワゴン並みの広い室内空間とSUV(スポーツ用多目的車)の要素を融合させたスズキの「ハスラー」や、先ほども触れた「4Kテレビ」はヒットしました。
既存のものとはちょっと違う、その商品を購入することにより、生活がもっと楽しくなるなど、感情や気持ちに訴えることがヒットの秘密と言えるのではないでしょうか。
また、今号では「あのメガヒット商品の企画書&会議を拝見!」という特集を掲載し、プリン体と糖質がゼロの発泡酒「サッポロ 極ZERO」や日清食品「カップヌードル トムヤムクンヌードル」が生まれ、ヒットするまでのストーリーにフォーカスしました。
考えに考え抜かれた商品やサービスはやはり面白い。商品が生まれるきっかけとなった背景、作り手の思いといった「物語性」は魅力的に映り、共感を呼び、消費者も手にしたくなる。買う「言い訳」にもなりますしね(笑)。もはや思いつきで作ったものが売れる時代ではありません。大ブレークした「妖怪ウォッチ」も、小学校の低学年から中学年というターゲットの心理を分析しているのはもちろん、当初から異業種を取り込んだクロスメディアで展開するという戦略が功を奏し、ゲームソフト、コミック、テレビアニメ、音楽、映画、そして玩具と次々に関連商品がヒットしました。しっかりと消費者や市場を見て作った商品は確実に消費者に届き、届いたものはちゃんと売れる、ということだと思います。
「リア充な体験」の場をいかに提供できるか
――世代によるヒットの違いはありますか?
『DIME』の読者層は30代後半から40代の男性ビジネスパーソンが中心ですが、この世代は働き盛りで時間やお金も自由に使えないのが現実ですし、20代はやはりおとなしい。シニアやバブル世代が消費を引っ張っていることは変わらないと見ています。私はまさにバブル世代ですが、会社に入ったころの同じ世代の男性の多くは、自動車を買い、そのクルマでデートに行きたいという野望があったと思います(笑)。でも今の若い世代は「カーシェアリングで十分」などと思っているわけです。
ただ、2014年は自動車メーカーの元気復活が感じられる年でした。例えばスズキが、ヤンチャに遊ぶことを提案する「ハスラー」を発売したり、トヨタ自動車が「マークX イエローレーベル」を題材に、ホイチョイ・プロダクションズと弊誌を含めたメディアとタイアップする「デートしよう!」という企画を打ち出したりと、消費者へのアプローチにも感性に訴える工夫が見られます。まずは少し上級のクルマの魅力を知る世代が楽しみ、若い人たちにその姿に憧れてもらう、といった世代間のコミュニケーションもあるといいのかなと感じています。
――2015年の消費のキーワードは。
「体験」がとても大事になってくるのでは、と見ています。音楽業界でも、楽曲のCDやダウンロードは売れなくなっていますが、ライブは好調で若い女性でも好きなアーティストのライブには安くはないチケット代を払って参加している。自分が楽しいと思える体験への投資は増えていくでしょう。そして、そうしたいわゆる「リア充」な体験を、写真に撮影し、ソーシャルメディアに投稿する。それが楽しく、充実感を得る。弊誌の「2015年ヒットの予感」ではウエアラブルカメラを挙げましたが、これもまさに「体験」を動画にしてネットにアップすることを楽しむアイテムです。商品やサービスも、それを使う人がどんな素敵なシーン=体験を手に入れられるのかを想像させられるのが大切。例えば女性向けにウイスキーを売りたいのであれば、ウイスキーを楽しむ体験ができるリアルの場をどう作るかを考え、提案できることが必要になってくるのではと思います。
もう一つは、2014年に引き続き「プレミアム」。希少性の高い素材をこだわりの製法で仕上げた「キリン 別格」ブランドなど、多少価格が高くてもいいものを、という消費者は今後も増えていくと思います。
――最後に『DIME』の展望も聞かせてください。
『DIME』のコア読者層である30代~40代のビジネスパーソンは、面白いものやネタへの感度は高いので、働き盛りのこの層に向けて、仕事を充実させるためのヒントになるような情報の発信を心がけています。2カ月に1度のペースで「ビジネスラウンジ」という読者招待のイベントを開催し、話し方や第一印象を良く見せるための講座などを行っています。一般誌としては珍しいのですが、自動車メーカーと組んで試乗会なども積極的に展開したいですね。実際に2014年は2回開催しましたが、ファミリーでの来場も多く、新たな広がりへのチャンスと感じることもあります。これからも紙媒体の『DIME』、ウェブ版の「@DIME」、体験型のイベント、メーカーやブランドとコラボした商品の通販と、4つの柱で補完しあい、連携しながら相乗効果を生んでいきたいと思っています。2016年には創刊30周年を迎える予定で、15年春から企画を仕掛けていく考えです。これまで以上に、ヤンチャにゲンキにビジネスパーソンを応援していこうと思っています。
小学館『DIME』編集長
1963年生まれ。『BE-PAL』『DIME』『ラピタ』編集部を経て、97年より『BE-PAL』編集長。13年より現職。