2015年、生活者は「体験の品質」にときめく

 生活者の心の動きにフォーカスしてヒット商品を分析している、博報堂生活総合研究所の「今年のときめき」調査。これを主導した同研究所研究員の菅氏に、2015年に消費者の心を動かすためのカギを聞いた。

大きく変わった消費者の意識

菅 順史氏 菅 順史氏

――2014年の調査結果から、どんな傾向がわかりましたか。

 生活者の意識が、「生活の基盤を守る」ことから「自分や仲間、家族と楽しむ」ことへと移っていることです。身近な人たちと体験できるモノやサービスに心を動かされる人が多かったのが特徴的でした。

 ランキング上位に入ったのは、移動空間をまるごと感動空間に変えた「特別列車旅行」、自宅でもオリジナルの立体物を造形できる「3Dプリンター」、映画の世界に迷い込んだ感覚を楽しめる「USJの『ハリー・ポッター』のアトラクション」など、実際に体験し楽しめることです。この他にも、クーポン機能が付いたグルメガイド本「ランチパスポート」や「高音質音楽プレーヤー」など、日々の暮らしを豊かにしたり、驚きや感動を与えられるモノやサービスが選ばれています。

 震災後間もない2012年の調査では、「進化系LED照明」や「創エネ・蓄エネ商品」など、電力不足などを背景に社会にやさしい商品に多くの生活者が関心をもっていました。その翌年、2013年は、「2020年東京五輪」「純国産品」「富士山の世界文化遺産への登録」など、日本の良さを再確認できるモノやサービスに注目が集まりました。過去2年は「環境のため」「日本のため」といった、生活の基盤を保持するモノやサービスに心が動く傾向が強かったのです。

 実際に、私たちが1992年から続けている「生活定点」調査でも、「社会のために不便をガマン」するという人は震災後増えたものの2014年は減少し、「自分の便利を求める」という人が増加しています。

 また、生活者が「体験」を重視するようになったのは、ソーシャルメディアが普及することで、逆にリアルに体験しないとわからない感動があることに人々が気づき始めたことも背景にはあるでしょう。その結果、人々はリアルな「実感」を伴う体験を新鮮に感じるようになったのだと思います。

――今後、消費者心理はどのように変化するでしょうか。

 「自分で実感できる体験をしたい」という欲求がより高まり、体験にも「品質」を求める人が増えるでしょう。ただ体験できればそれでいいというわけではなく、より質の良い体験をしたい、全身や五感すべてを使って、リアルに感じたいと考える傾向がより顕著になってきます。

 中でも重要なのは「感動・未来・日常」です。感動のスケールを広げてくれる体験や、SF映画のような未来を感じられる体験、そして、何げない日常をより良くしてくれる体験に、多くの人が心を奪われるでしょう。2015年は、体験にも「品質」という考え方が大切にされるようになり、その品質の差を競う時代の幕開けとなるはずです。

時間や空間に焦点を当てた「質の高い体験」に注目

――2015年にヒットのカギを握るのは。

 キーワードは「体験の品質」です。特に、これまで体験の機会ととらえていなかった時間や空間、行動に改めてフォーカスをあて、「質の高い体験」を提供することがカギとなるでしょう。

 例えば、旅の場合、目的地へ行くことだけではなく、目的地までの移動そのものを楽しめる旅をプロデュースしてもいいと思います。昨年ヒットした「ななつ星in九州」も、列車での移動時間と移動空間にプレミアム感のある演出を施し、観光客が殺到しました。この春に開通する北陸新幹線で、歴史や地域を学べる体験付き列車が登場したら喜ばれるのではないでしょうか。飲料であれば、ただ買うだけの自動販売機ではなく、香りや音で五感を刺激する自動販売機をプロデュースするというアイデアもありそうです。

 ヒットにつながるのは、必ずしも新商品ばかりではありません。既存の商品でも、売り方や提供方法を変えることで、大きなヒットを生む可能性を十分に秘めています。

――注目すべき商品やイベントは。

 例えば、コスプレで映画を見に行く「なりきりファンタジー」が流行するのではないでしょうか。昨年のハロウィーンは例年以上に仮装する人が多かったですし、コスプレしてテーマパークで過ごす人もいました。『進撃の巨人』や『スター・ウォーズ エピソード7』など話題の映画も続々と公開され、キャラクターの格好で映画館に出かける「映画やアニメの主役になりきる経験」を楽しむ人が増えるかもしれません。

 3月14日に開通する上野東京ラインにも注目です。これにより、北関東から湘南エリアまでがつながります。湘南に新しくオープンした商業施設などの後押しもあり、海辺のカフェなど湘南ならではの文化を体験する人が増えるでしょう。自然・ショッピング・グルメなどその地域の魅力を、一つの商業施設で丸ごと体験できるようプロデュースすれば、体験を重視する人々の琴線に触れるのではないでしょうか。「質の高い体験」をいかに提供できるか、が注目すべきカギとなると考えています。

菅 順史(かん・のぶひと)

博報堂 博報堂生活総合研究所 生活者発想NEXTフォース 研究員

1987年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、博報堂入社。企業のPR戦略を企画・実施する業務を経て現職。雑誌『広告』の編集も担当。