雑誌編集などを通じて20年以上にわたり、世の中のトレンドを見つめてきた北村 森 さんは自身も「バブル世代」。この世代に特有の消費行動とその要因となった「あの時代」について聞いた。
ラーメンを食べに札幌へ 行動全てが過剰になりがち
――そもそも「バブル世代」とは。
1962年~68年生まれ、つまり現在46~52歳ぐらいが中心です。彼らは就職活動中、もしくは社会人1~3年目の20代前半のころが、ちょうど好景気に沸いていました。当時は、わざわざ飛行機で遠隔地のご当地グルメを食べに行くデートなども話題になりました。まるで都内の店に行くように、羽田から札幌にラーメンを食べに行くみたいなことです。
今ではとても考えられない、こうした行動の背景には、「人をあっと驚かせて楽しませたい」という思いがありました。さらに「それが周囲の知人からどう見られるか」まで強く意識していました。バブル世代は、上の世代に楽しい経験をさせてもらっていたこともあって、人を楽しませることや、自分の行動を周りと共有することが今でも大好き。それが消費行動に向かうと、面白くて、誰かにストーリーを語れる商品を買う「エンターテインメント消費」となるのです。
――バブルがはじけた後、彼らの消費行動に変化はありましたか。
お金の使い方は大きく変わりましたが、「自分も楽しみ、周りも楽しませたい、それを周りに語りたい」という行動自体は変わりませんでした。彼らにとって「使えるお金に限りがある」「欲しいものが日本では手に入らない」などの制約は、むしろ買い物を楽しむためのスパイスです。買い物は安く賢く、欲しいものを手に入れる「ゲーム」だと捉えるようになりました。
その「ゲーム」の一つが94年に到来した「価格破壊ブーム」 です。当時、編集を担当していた『日経トレンディ』でも、「安く賢く、楽しく買う」という特集をたびたび組みました。この流れに乗ったのが、そのころ20代後半~30代前半だったバブル世代です。
その後、2000年代後半に登場したソーシャルメディアは、周囲の知人らに何かを伝えたくて仕方がない彼らにとって、うってつけのツールとなりました。バブル世代は、短く端的にテキストでメッセージを伝えるのが苦手なので、更新頻度が多すぎるか、やたら長文で投稿するかの2タイプですが、十分に彼らの欲求を満たしています。
安く賢く、楽しく消費したいという気持ちを刺激せよ
――今、景気が上向き、あのころの消費に近づくのではないかと期待もあるようですが。
「アベノミクスによって景気が上向いたから」……ではありません。本当の理由は、主に次の二つです。
一つは、バブル世代が組織の中で決裁権を持つようになったこと。本部長や部長になり、自分の決断で企画を通したり、商品を開発できるようになりました。テレビCMのBGMでも当時流行した音楽がとてもよく使われていますよね。とはいえ、これは一過性の現象。10年後に次の世代が幹部になれば、「90年代リバイバル」が訪れるでしょう。若い頃の刷り込みが、今の時代にマッチすればリバイバルするものなのです。
二つ目は、バブル当時にヒットした商品が「骨太」であること。当時の商品は「これまでの何ものとも違う、新しいものをつくろう」という気概にあふれ、斬新で、強い訴求力を持っていました。パスポートサイズのホームビデオ「ハンディカム55」や細かい造作にこだわった日産の高級乗用車「シーマ」などが代表ですね。そしてこれらの商品は広く流行したため、上の世代にも下にも認知されています。それらの商品コンセプトは決して途絶えずに引き継がれています。13年10月に行われたトレンド総研の調査では、今の20代のうち、バブル時代に出てきた「ティラミス」「ディスコ」「朝シャン」などを知っている人が、約8割に上りました。当時の流行は、今も幅広い年齢層に波及しているんです。
――バブル世代の消費者にはどうアプローチすればよいでしょうか。
まずは、決裁権を持つ彼ら自身が、かつてのヒット商品をよく研究することです。当時の商品をそのままリバイバルさせるのではなく、何がそれほどウケたのか、改めて商品コンセプトを分析し、自身の手でこの世代に魅力ある商品を作ることです。今は、商品開発力があっても、コストと時間をかけられない時代。この制約を「ゲーム」と捉え、半沢直樹のようにこの世代特有の体育会的な突破力で乗り越えればいいのです。
消費者としての彼らは、相変わらず、制約のある買い物を楽しみ、欲しい商品を手に入れるためには手間を惜しみません。例えば、激安なのに大手メーカーに負けない製品力の家電製品や、プチプラ(安価)で北欧雑貨が手に入る「フライング コペンハーゲン タイガー」などは、そうした彼らの気持ちを刺激するものです。「安く賢く、楽しく手に入れて、それを人に伝えたい」、そんな気持ちを満たす商品が、バブル世代を虜にするでしょう。
商品ジャーナリスト/サイバー大学客員教授
1966年富山県生まれ。慶応義塾大学法学部卒。『日経トレンディ』編集長を経て、2008年に独立。商品評価、消費トレンド分析を主軸に活動。サイバー大学客員教授。『サンデー毎日』『家電批評』などの連載、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍。著書に『ヒット商品航海記』(日本経済新聞出版社/共著)、『途中下車』(河出書房新社)。