オールジャパンでクールジャパン! 組織を越えて日本の魅力を海外にアピール

 2002年、日本政府は産業の国際競争力強化に向け、知的財産の保護、活用、創出に関する施策を計画的に推進するため、内閣官房に知的財産戦略推進事務局を設立した。そして今日、官民それぞれの施策を通じて、「クールジャパン」という形で産業の海外進出が注目される時代になった。同局内閣参事官の田口重憲氏に、この「クールジャパン」の取り組みについて聞いた。

日本の産業・文化の「ブランディング」 中小企業の海外展開も後押し

──政府が「クールジャパン」に取り組む経緯について。

田口重憲氏 田口重憲氏

 「クールジャパン」の芽といえるのは、民間の有識者を委員に招いて2005年に取りまとめられた「日本ブランド戦略の推進」という報告書です。ここで、食文化の醸成、地域産品の振興、ファッションの創造など、魅力ある「日本ブランド」の確立・強化のために取り組むべき課題を示しました。例えば「食」については、農産物の種苗など知的財産の保護、日本食関係者の人材育成、海外に向けた情報発信など多くの課題があります。そういったことを産業ごとに検討しました。

 「クールジャパン」という言葉を使い始めたのは2010年ごろで、当時の成長戦略の一つにも位置づけられました。その対象は、食やファッションをはじめ、コンテンツ、伝統文化など多種多様で、推進にあたっては、省庁間や官民の連携による効率的かつ効果的な発信が必要です。しかし、従来はそれが必ずしも十分ではありませんでした。

 第2次安倍内閣では、関係者が連携して総合的な取り組みを推進し、経済成長の原動力とするべく、その旗ふり役として「クールジャパン」戦略担当大臣を初めて設置、稲田朋美大臣を担当に任命しました。さらに同大臣を議長とする「クールジャパン推進会議」を立ち上げ、官民の関係者によるクールジャパン戦略の具体的な取り組み方針である「アクションプラン」を策定しました。今後は「アクションプラン」に沿った施策を重ねていく考えです。

──これまでに実施された「アクションプラン」の事例は。

 今年5月に横浜で開催されたTICAD(アフリカ開発会議)の公式イベントであるアフリカンフェアにおいて、日本酒やヘアウィッグ(かつら)など日本製品を紹介するコーナーを設置し、安倍首相と稲田大臣がトップセールスを展開しました。

 9月には、パリで日本企業を中心とした実行委員会が日本文化の発信イベント「Tokyo Crazy Kawaii Paris」を主催、3日間で2万人を動員しました。ラーメン、着物、ゴスロリ、ゲームなどありとあらゆる「クールジャパン」を紹介しました。

 こうしたイベントは、すばらしい技術や商品を持っていながら、規模が小さいために海外進出が難しかった中小企業を後押しする狙いもあります。なお、JETRO(日本貿易振興機構)では、海外進出を目指す中小企業の相談窓口を日本各地に設置しており、海外進出の糸口を見つける後押しをしています。

──そもそも何をもって「クールジャパン」とするのかという選定が難しいと思いますが、政府はどのように捉えているのですか。

 知的財産推進計画2013では、「外国人にとってクール(かっこいい)と捉えられる日本の製品、コンテンツ、文化群を総称して使用される言葉」と定義しています。こちらから一方的に「クールでしょう?」と押しつけるのは好ましくないということです。日本文化への評価が海外で自然に広がり、結果的に日本の産業の活性化につながるような流れを作っていきたいと考えています。

──海外で人気のアニメやマンガなどの輸出推進策として、どんな事例がありますか。

 アニメやマンガが海外で十分に収益を上げているかといえば、実はそうでもありません。いちばんの問題は海賊版です。そこで、現地の言語で字幕を付けて正規品として流通させるためのローカライズやプロモーション支援を行っています。支援は、総務省と経済産業省によるコンテンツ産業の海外展開支援の一環として今年3月に発足したJ−LOP(ジャパン・コンテンツ・ローカライズ&プロモーション支援助成金)が行い、来年12月までを支援期間としています。助成金の総額は155億円で、対象事業者にはローカライズなどのための予算の半額を補助。従来は英語字幕をつける予算しかなかったのが、スペイン語字幕も付けられる、といった成果につながっています。

 また、放映権料だけでは利益が薄いので、アニメのキャラクターグッズなどをいかに売っていくかということも重要です。そこにも海賊版の問題は起こるので、現地の政府と人材交流を図って権利に対する認識を深めてもらうなどの努力をしています。

 さらに、アニメ番組は主題歌などの音楽も海外で大変人気なので、アニメイベントを海外で展開する際に音楽イベントもあわせて開催するなど、より大きな波及効果を目指しています。最近では、経済産業省が主催する映像コンテンツマーケット「TIFFCOM」を音楽関連、アニメ関連の海外への売り込みと同一会場で実施し相乗効果を狙う取り組みも行われています。

「クールジャパン機構」発足  成功事例の積み重ねが大事

──映像コンテンツを通じた経済効果は、番組内に登場する日本製品への関心、あるいはインバウンド(外国人観光客の誘致)という意味でも大きいのではないでしょうか。

 その通りです。総務省では、アニメやドラマを放映する放送枠を海外で確保する準備を進めています。今年9月には、放送番組の海外展開によって日本の製品・サービスのビジネス普及拡大を目指す一般社団法人「BEAJ(放送コンテンツ海外展開促進機構)」が設立されました。機構の活動にあたっては、内閣官房をはじめ、総務省、外務省、文化庁、農林水産省、経済産業省、観光庁などの省庁と連携して進めていくことが重要と考えています。

──省庁間の連携をより円滑にするため、どのような工夫をしていますか。

 我々が司令塔兼調整役となり、各省庁がどういう時期にどういうイベントや施策を計画しているのか、情報を共有できるカレンダーを作成し、3カ月ごとに更新しています。お互いにこれを活用して、例えば9月のサマーダボス会議においては、外務省が開催する「ジャパンナイト」で、農林水産省が弁当や日本産酒類など日本の食文化の発信を行いました。財政難の中、複数の省が一つの機会をできるだけ有効に使おうという取り組みです。

 11月25日には、政府が今年度中に500億円を拠出する官民ファンド「株式会社海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)」が発足しました。今後はこの機構と省庁間の連携も必須です。機構は今後20年程度を見据えた組織ですが、成功事例を着実に積み重ね、特に中小企業の間で「自分たちも海外で勝負できる」という意識が浸透していくことを願っています。

田口重憲氏

──その他、今後の課題は。

 外国人観光客の誘致は、クールジャパン戦略の大きな課題です。観光庁のビジット・ジャパン事業が少しずつ実を結び、今年日本に訪れた外国人観光客は1千万人に到達しそうですが、さらに、2030年までに3千万人を目標に掲げています。2020年には東京オリンピックが開催されるので、この前後でいかに盛り上げていくかがポイントになると思います。

 農林水産省では、日本食と食文化の普及伝道師の育成、日本食と食文化の情報発信などを進めています。日本食がユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、そうしたチャンスをしっかりとらえていく必要があります。

 経済産業省では、海外ビジネスに挑戦する企業がビジネスパートナーを見つける「クールジャパン・マッチンググランプリ」という、いわば「お見合い」の場を提供したり、ファッションショーなど産業関連のイベントに海外の著名ブロガーを招いたりといった取り組みもしています。こうした時代のニーズを捉えた施策の実績も重ねていかなければならないと思っています。

田口重憲(たぐち・しげのり)

内閣官房 知的財産戦略推進事務局 内閣参事官

1989年東京大学法学部卒。同年文部省入省。その後、内閣官房行政改革推進室参事官、文化庁長官官房著作権課長などを経て、2013年7月から現職