韓国のブランド価値向上につながる コンテンツへの熱い思い

 音楽、ドラマ、ゲームなど多様なコンテンツで韓流ブームを起こすことに成功した韓国。日本が学ぶべきヒントがあるのか。同国の文化輸出戦略について、韓国コンテンツ振興院 日本事務所 所長の金 泳德氏に聞いた。

政府と産業の橋渡し役  国内振興と海外輸出を後押し

金 泳德氏 金 泳德氏

――韓国の文化輸出戦略の概要について、聞かせてください。

 韓国には、文化振興関連産業の育成を目的とした法制度があります。1999年、金大中政権時に成立した「文化産業振興基本法」です。この法律に基づき、89年から存在した放送映像産業振興院に加え、文化コンテンツ産業振興院、ゲーム産業振興院などの組織が次々と作られました。そして、法律制定から10年後の2009年5月、放送と通信の融合などデジタルコンバージェンスという世界的な流れを背景に、産業別の振興組織を一本化して韓国コンテンツ振興院が発足しました。海外拠点も含めて約200人の職員が働いています。

――韓国コンテンツ振興院が対象とするコンテンツとは。

 文化体育観光部はコンテンツ産業の振興を管轄している省庁ですが、その中で、コンテンツ振興院は映画、出版などを除いて、放送、音楽、ゲーム、アニメ、キャラクター、漫画、ファッション、CT(注)などの振興に取り組んでおります。また、2010年にはコンテンツ産業振興法が制定され省庁を超える政府横断的なコンテンツ産業振興のための協力体制も整っております。

――韓国コンテンツ振興院の役割は。

 韓国コンテンツ振興院の役割は、例えば、コンテンツの企画、制作及び制作インフラ、流通(海外も含む)、人材育成において、公的支援を通じてそれぞれ活性化を図ることです。そうすることで国内のコンテンツ産業を振興しながら、海外に韓国コンテンツを広めています。その中でコンテンツ産業に携わり、政府の支援を希望している民間企業やプロジェクトの関係者の意見を集約し、政府につなぎ、公的価値がある取り組みであれば、予算をつけてもらいます。政府と産業の橋渡し役も大事な仕事だと思います。

――ファッションも韓国コンテンツ振興院が担当しているのですか。

 そうです。ファッションはデザイナーの育成が主な目的です。韓国人デザイナーの中には、海外で活躍している人もいます。そうした才能をもっと育成したいと考えています。今年は国内でファッションマーケットとファッションショーを組み合わせたイベントも始めました。これはファッションに限ったことではありませんが、国内におけるコンテンツ産業振興も目的としているのです。そこが輸出に特化したJETRO(日本貿易振興機構)とは違うところですね。

――海外の拠点と、その役割とは。

海外拠点は、米国、英国、中国、日本に置いています。韓流の3大マーケットは、中国、台湾、日本です。欧米はなかなか厳しいですが、ゲームや、「プッカ」というキャラクター商品などが健闘しています。

韓国コンテンツ振興院の海外拠点では、おもに現地の市場情報を集め、イベントなどを通じて現地バイヤーとのネットワークを構築し、本国の産業関係者とのマッチングを行っています。

※画像は拡大します。

韓国コンテンツ産業の輸出額の推移(2013年は約58億ドルの見込み) 韓国コンテンツ産業の輸出額の推移
(2013年は約58億ドルの見込み)

――日本に輸出しているコンテンツの中で、今最も活気づいているコンテンツは。

音楽コンテンツは強いですね。火付け役となったのは、KARAや少女時代などのアイドルグループですが、それ以前にBOAや東方神起がJ-POPを歌い、韓国の実力派シンガーを受け入れる土壌を作っていたことも大きかったと思います。また、韓流ドラマで流れる音楽や、俳優としてドラマに出演しているK-POPアーティストを通じて韓国に興味を持ってくれる日本人ファンも多くいます。そのため、振興院はTIFFCOMなどのドラママーケットに参加して韓国ドラマを売ってもらうための様々なサポートをしていたり、韓国国内でミュージックマーケットを開いたりまた、日本でのK-POPやドラマ関連のイベントなどに主に広報宣伝などではありますが、手伝いをしております。

数字では表せないコンテンツの経済効果

――韓流ドラマの人気が長く続いています。制作段階から海外展開を視野に入れているのでしょうか。

 韓流ドラマの市場は国内が8割、海外は2割なので、国内市場向けの番組作りが基本です。ただ、DVD化を見越した先行投資を海外から受けたり、リメークについて検討したりといったことはあります。海外から強い要望があれば、キャスティングの一部やロケーションを現地向けにアレンジすることもあります。

――日本では、映像作品を二次利用する際、出演者の許諾が必要なケースが多いのですが、韓国は違いますね。

80年代に著作権法が改正され、放送局や映像プロダクションが映像作品を二次利用する権利を持つようになりました。これにより、海外への番組販売やネット配信が加速し、韓国の映像文化の拡散につながりました。

――いわゆる海賊版コンテンツにはどのように対処していますか。

 韓国国内では、著作権警察を増員し、海賊版や海賊版をネットにアップロードする業者らを厳しく取り締まっております。また、こうした不法業者の中には、一大マーケットを築いている業者もあるので、あえて排除せずに手数料を取るなどの対応も講じています。海外では、著作権委員会が中国、タイなどに人材を派遣して現地の取締機関と協力しながら監視を行っています。

――文化コンテンツの海外輸出が生み出す経済効果をどのように捉えていますか。

 韓国の産業界全体の年間輸出額は約5,000億ドルを超えます。そのうち文化コンテンツが占める割合は1%にも満たないです。ただ、文化は人の感性に訴えます。例えば、ドラマに登場する自動車や電気製品、化粧品、食品などの韓国製品が目に留まり、購入に至るケースもあるでしょう。数字だけ見るとわずかですが、1%がもたらす波及効果ははかり知れないと考えています。韓国という国のブランディングに果たす役割は大きいのです。

――コンテンツの中で海外で最も売り上げているのはゲームコンテンツです。

 ゲームコンテンツは、「NHN」「ネクソン」など海外にある運営会社の売り上げも含まれており、輸出売り上げトップの座を維持しています。最大の貢献はオンラインゲームです。そのきっかけは97年のIMF通貨危機です。国家破たんの危機を経験した韓国は、財政の立て直しのため、IT文化産業の育成に力を入れ、ITインフラの整備が一気に進み、それがオンラインゲームのビジネス拡大につながりました。

金 泳德氏 金 泳德氏

――韓国の文化輸出が伸びている理由について。

 成功の秘けつなどありません。韓国のコンテンツを扱ってくださる各国企業が、その国で積極的にプロモーションを展開してくれたおかげだと思っています。例えば日本の韓流ドラマブームは、日本の配給会社が盛り上げ、視聴者が支持してくれました。もちろん、ドラマの内容、つまりコンテンツもよかったのだと思います。私たちとしては、ニーズがある限り、こうしたコンテンツの流通がより活発に行われるように支援していきたいと考えています。

――最近の日本での取り組みと、目下の課題は。

 韓国コンテンツ振興院は今年も変わりなく、東京で開催された映像コンテンツマーケット「TIFCOM」で今年は20以上のブースを確保し、KBSメディア、MBC、SBSコンテンツハブなどに売り場を提供しました。市場では、為替の円安基調と冷え込んだ日韓関係、日本国内でのパッケージビジネスの停滞も影響していると見ており、現在、日本企業と力を合わせて市場の維持に努めています。

――今後の展開は。

 ミュージカルやファッションなどに力を入れていく計画です。大衆受けのドラマ、音楽の勢いを維持しながら、新たにミュージカルやファッションブランドにも関心が広がるように取り組んでいきたいと思います。

――最近、日本政府も力を入れ始めた「クールジャパン」の取り組みについて、どのような印象を持っていますか。

 ライバル視して競い合うというよりも、両国がお互いのいいところを学んで成長することでコンテンツ産業全体が発展すればいいと思います。また、アジアのコンテンツの参入が進まない欧米において、韓国と日本がタッグを組んで市場開拓をはかるということもあり得るのではないかと思います。

(注)CT(cultural & content technology)=3DやCGなどに関連する技術

金 泳德(きむ・よんどく)

韓国コンテンツ振興院 日本事務所 所長

2000年上智大学文学研究科新聞学専攻博士課程修了。同年韓国放送映像産業振興院責任研究員。09年韓国コンテンツ振興院首席研究員。10年7月から現職。韓日未来フォーラム理事。日本における韓流や韓国における日流、ドラマ制作システム及び産業などが主な研究テーマ。著書に『TVドラマのメッセージ』(韓国語、共訳)、『現代社会と言論』(韓国語、共著)、『日本大衆文化と日韓関係』(日本語、共著)、 『韓流アジアを超え世界へ』(韓国語、共著)、『韓流ハンドブック』(日本語、共著) 、『メディア文化と相互イメージ形成』(日本語、共著)、『日中韓の戦後メディア史』(日本語、共著)など。